異世界転移リイエルちゃん

キム

異世界転移リイエルちゃん

 日本・秋葉原


 今ここに、一人の少女がいた。

 彼女の名はリイエル。腰まで伸びた綺麗な銀髪と、柔らかくも引き締まっているようにも見える太ももが目を引く、可愛らしい女の子だ。

 そしてその綺麗な髪以上に目を引くのが、頭部に生えている"耳"である。人とは異なる形のそれは、彼女が異世界の人間であることを表している。

 そう。

 リイエルは、この世界の人間ではなかった。

 リイエルは、異世界から転移してきたのだ。


 ――時を遡ること、一時間前。


 リイエルは、彼女がプロデューサーと呼んで慕う人間の誕生日を祝うため、彼の家に向かおうとしていた。

 誕生会に遅刻しそうになった彼女は、空間転移の魔法を使用した。しかし、普段では失敗しないような簡単な魔法でも、時間に遅れそうな焦りのせいか、はたまたプロデューサーの誕生日ということで少し気分が浮ついていたせいか、魔法の行使に失敗してしまう。

 そうして彼女が飛ばされてしまったのが、ここ地球の日本・秋葉原だった。



 どうにかプロデューサーと連絡を取り、三時間後には秋葉原と異世界を繋ぐゲートを開くことができるということだった。ゲートが開くまでのしばしの間、リイエルは日曜日の秋葉原を散策することにした。

 通りに人が多いせいもあるが、猫耳や犬耳などを付けているメイド姿の女性が多くいるせいか、リイエルの本物の"耳"も違和感なくこの場所に溶け込んでいる。


 辺りの建物を見回すと、様々なキャラクターのイラストが描かれており、さながらお祭りのようであった。

 ひときわ高い建物にある大きなモニターをふと見上げてみると、ゲームの映像が流れていた。フリフリな可愛らしい衣装、華やかな着物、ちょっと派手な水着など、様々な格好をした女の子たちが歌って踊る。

 この世界で流行っている、アイドルが登場するリズムゲームの映像だ。


 しばらく眺めているとライブシーンが終わり、アイドルたちが一人あたり十秒ほどの自己紹介を始めていった。

 偶然にもアイドルたちが喋るこの世界の言葉が理解できたリイエルは、その映像を見続けた。

 その中には、髪型こそ違うもののリイエルと同じ銀髪の女の子がいた。

 言葉の選び方が独特で、ちょっと変わった雰囲気を纏う女の子。

 天使のような可愛らしさと、悪魔のような装いをした、とても強く感じる存在。

 リイエルはそのアイドルに惹かれた。

 長いように感じた十秒が終わり、他のアイドルの自己紹介に映る。

 やがて十四人ほどのアイドルが自己紹介を終え、映像が終わる。


『プロデューサーさん! 一緒に、トップアイドルを目指しましょう!』


 偶然なのか必然なのか、彼女たちにもリイエルと同じようにプロデューサーという存在がいるらしい。そのことを知ったリイエルは、ますます彼女たちのことが気になった。

 特にあの、銀髪の彼女が。

 リイエルは、プロデューサーが指定した時間まで銀髪の子について調べることにした。書店、ゲームショップ、携帯ショップなど。人気なゲームゆえ、どこに行っても彼女の情報を得ることができた。


 ――そうして時間は瞬く間に過ぎていく。


 ゲートが開かれるまで、あと五分。

 秋葉原の街でアイドルの情報収集を終えたリイエルは、プロデューサーが指定した路地裏までやってきた。

 周辺に人影がないか念入りに確認し終えた後、開門ポイントの前に立つ。

 たった数時間だったけれど、素敵な出会いがあった。

 異世界のものを持ち帰れない代わりに、今日見たものを忘れないようにしっかりと記憶を反芻していると、やがて刻限となった。


 五、

 四、

 三、

 二、

 一、


 シュオオオオオン


 目の前に淡い銀色のゲートが開いた。

 この世界の人間にゲート見られないためにも、リイエルは素早くゲートに飛び込んだ。


 * * *


 ゲートを通り抜けたリイエルが出た場所は、当初の目的であったプロデューサーの家だった。


「リイエルおかえり。無事に帰ってこられたようでなによりだよ」

「プロデューサーさん、心配をかけてすみませんでした」

「いいよいいよ、リイエルが無事ならそれで」


 いきなり異世界に飛んでしまっても、怒ることなく助け出してくれるプロデューサー。

 いつもリイエルのことを想ってくれる彼に、リイエルは感謝の気持ちが湧いてくる。


「あの、プロデューサーさん……いえ、」


 そして、今日は彼の誕生日。

 素直に祝いの言葉を贈るのが恥ずかしいリイエルは、今日見た銀髪のアイドルを思い出し、彼女ならきっとこういう場面ではこう言うだろうと想像した言葉を口にする。



「我が友よ…汝が彼の地に産み落とされしこの日に、神々の祝福があらんことを! (プロデューサーさん! お誕生日、おめでとうございます!)」

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