第4話(7)

「ちょ、ちょっと待ってくださ、いや、待ってほしい」


「はい、どうぞ」


 銃でペン回しみたいなことをしているシロを横目に、思考を整理する。今、分からないことはなんだ。というより、分かっていることは何だろうか。


 ナイトメア、敵を倒す。何故。


 ――他人の夢で死んではいけない。


 死んだらどうなるのか。まさか本当に死んでしまうのか。夢囚病? いや、あれで死んだ人はいないって話だ。


 それに悪夢がいたからってなんなんだ。ちょっと寝起きが悪くなるぐらいのものじゃないか? それともシロのおかげで、そんなもので済んでいるけど、本当は危険なものなのか。悪夢が? それなら全国各地にシロみたいなヒーローが存在しているのか? まさか一人で全国の悪夢を相手しているわけでもないだろう。


「ふんふふんふふーん」


 シロが鼻歌交じりに銃を撃ちまくる。

 先ほどの半透明の壁に吸い込まれ、どこにぶつかることもなく、銃弾が飲まれ続けている。ワープゾーンか何かなのか、それは。


「なんで」


「おっ。うまくまとまったかな。わたしはあんまり頭よくないからねぇ。バシッと! 分かり易く頼むよ」


「そんなことしてるんですか?」


 だって無意味じゃないか。お金を貰ってるわけでもない。誰に見られるわけでもない。そもそも、見られたとしたって、夢の事なんか本気にするやついないだろう。それでも危険はあるとなれば、どう考えたって割に合わない。夢の外で何してる人なのか知らないけど。


「出来るから、かな?」


「出来るから、する……?」


 全く予想外の返答に戸惑ってしまう。獣の生き方じゃないか。腹が減ったから食う。みたいな。


「わたしはね、ずーっと長い間、夢の中にいたんだ。数年なのか、数十年なのか、分からないぐらい。夢の中って、現実の事は全く覚えてなくて、夢の中の役割を演じてることってあるだろ? あれが長いこと続いたんだ。そりゃあ、名前だって忘れるさ」


「数年……」


 何だその気の遠くなるような話。夢囚病とは桁が違う。目覚めてすっきりすることもなさそうだ。


「そんな中、他人の夢に入ることが出来るようになった。理由はわたしにも分からない。ただ、楽しかった。他人の夢を見るのは映画みたいで。自分の夢に籠りきりだったときには、考えられないような夢が見られたんだ」

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