第4話(8)

 夢は何でもありみたいに考えていたけど、数年も経てば想像力の限界みたいのものがくるのだろうか? いや、そうでなくても、やっぱり他人の夢というのは新鮮だろう。僕だって見たくないと言ったら嘘になるけど、シロの場合そんなもんじゃない。部屋に閉じ込められて、同じ本ばかり読んでいたところに、見たことのない本が詰まった本棚が、急に現れたようなものだ。


 救世主だったに違いない。


「ナイトメアに襲われるようになったのはそれからだ。てっきり、他人の夢に入り込んだ罰か、拒否反応とでも思っていたんだけど、違うらしい。夢の持ち主も襲われてたしね。夢の中では空が飛べたり、怪力だったりするものだけど、わたしはずっと夢にいたからね。大抵のことは出来た。だから退治した。そんなところかな? 我ながら短絡的だなぁ! もしナイトメアが、すっきり起きるために必要な儀式なら、もしかしたら、わたしは邪魔をしたのかもしれない。でも最初は必死だった。その後は、最初の行動を正当化するために、今では惰性でナイトメアを狩ってるね」


「惰性でヒーローか……」


「失望した、よね」


「いや、そんなことは……」


 ヒーローという言葉。そのイメージからかけ離れているのは確かだが、助けられたのも事実だ。そしてこれからも、助けられることになるかもしれない。


 何故なら。

 ヒーロー。ナイトメアとの戦い。そんな言葉に、ワクワクしている自分がいるからだ。


「気を遣わなくてもいいんだ。君を誘ったのだって、面白そうだから、それだけだ。自分の事だけ考えてるんだよ、わたしは」


「なにが、」


「ん?」


「何が悪いんです、いや、何が悪いんだ。自分の事だけ考えて」


 なんか腹が立った。いや、シロは悪くない。

 自分が自分の事を考えるのは当たり前のことだ。

 ましてや年単位で閉じ込められていたんだ。退屈だっただろう。苦痛だっただろうに。少しでも面白いことがあれば、飛びつくのが当たり前だ。誰だってそうなる。縁ならなおさらだ。


「そう言ってもらえると、あれだね、いいよね。うん、ありがとうね」


 巨体を翻して、顔を背けるシロ。


「もしかして泣いてる?」


「泣いてない」


 スン、と鼻を鳴らす音。

 そしてどこか上擦ったような声。


「やっぱり泣いてる」


「泣いてないっ!」


 泣いてる。確実に泣いている。まてよ、女の子を泣かすなんて、ヒーロー失格かな、これは。不合格か?


「年下のっ、くせにっ……生意気っ!」


「はいはい、ごめん」


 これで抱きしめられたら、まだカッコいいんだろうけど、生憎なんの経験も無い僕には、難しすぎる。

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夢を見るのも命がけ 石嶺 経 @ishiminekei

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