第4話(5)
「うん。思ったより、ヒーローの素質がありそうだ」
「それはどうも……」
札束が燃える光景が目に焼き付いていたので、どうしても適当な返事になる。将来について悩んで、悶々と毎日を送っていたら、夢の中でヒーローの素質を見出されるとは。縁に言ったら笑われるかな? いや、案外受け入れるかも。そういえばヒーローっぽいよねとか、適当なこと言って。
「じゃあ、最終試験だ」
「もう?」
いくらなんでも早すぎる。
実際の就活でも、なんか送って、試験とかして、面接とかして、よく分からないけど、もうちょっと何かしらあるだろう。会ってまだ一時間も経っていない……というか、どれぐらいだろう? 時間の経過がいまいち定かでない。起きたら遅刻してるとか、ないだろうな。
「うんうん。わたしは実戦派だからね。本来、座学なんてするようなタイプじゃないんだ」
「座学、ねえ」
座ってないけど。
「ああ。本当ならいますぐに『他人の夢』に出向いて、戦いの中で教えたい、ぐらいの気持ちを必死に抑えている!」
「どうかそのまま抑え続けてください」
とんでもねえこと考えてやがる。
他人の夢で死んじゃいけないって言ってたじゃないか。死ぬようなことを新米にやらせるなよ。……いや、手伝うって決まったわけじゃないけど。
「そうだなぁ。やっぱり銃かな? ナイフとかでもいいけど、あんまり体を武器に戦う方じゃなさそうだしなぁ」
僕の体をあちこちから眺め、時には凝視するシロ。
照れくさいやら、鬱陶しいやら。
「何の話ですか。耐久テストですか? 痛いのは嫌ですよ」
「いいや? 使うのは君だよ」
「……?」
僕が?
剣道も柔道も、いや銃道も修めていないこの僕が?
「だからこそ、良いんだよ。そうだな、君、モデルガンとか好き?」
「モデルガン……? いや、別に」
お祭りのときに、くじのハズレで出てきたおもちゃを思い出す。やたら軽くて、
「ストォーップ。思い出すのはやめよう。銃に詳しくない、男の子なのに銃に興味がない、間違いないね?」
「はい……」
なんか責められてる気分だ。
銃に興味が無かったばっかりに。
「じゃあ、それでいこう。さっき札束を出して見せたみたいに。銃をイメージするんだ。見た目は重そうで、でも軽くて、連射が出来て、化物を吹き飛ばせるぐらいの」
「……はい」
目を閉じて、言われた通りにイメージする。最初に現れたのは黒い塊だ。それが、引き金が生え、持ち手のような部分が出来て、最後に銃口が出来ると、重さも輝きも感じられるようになる。
「うん。目を開けて」
「うおっ……」
言われるがまま、目を開けた僕の右手には、銃が握られていて、しかも引き金に人差し指が掛かっていたので、慌てて外す。ひやりとしたのは、金属の冷たさばかりが理由ではなかった。
「ちょっと、ごめん」
そんな殺意しかない恐ろしい物体を、まるでお菓子かなにかでも貰うかのように、ひょいとつまむシロ。いや、あげるよ、そんなもの。
「あらゆるところが簡略化されてるけど、ベレッタっぽいかな? 連射するって言ったのにね。本当に知らないんだ」
「はあ、すみません」
「いや、良い武器だよ、これ。見てよ。マガジン、って言っても分かんないか。弾倉がないでしょ。無限に撃てると思うよこれ」
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