第4話(1)

「……え?」


 聞き覚えのある声。いや、一度しか聞いてないけど。そして、どこか待ち望んでいたような。


「おはよう。いや、おやすみなさいかな?夢の中だからね」


「夢の中……」


 周りを見渡すが、秋葉原でもなく、かといって家の中の景色でもない。ただ、真っ白な空間に自分と、知ってるような知らないような声だけがある。


 はて、僕はどうやって家に帰ったんだっけか。まさか、


「えーっと、一応言っておくけど、道端で倒れてるとかはないから、安心してほしいかな」


「……それは、どうも」


 なんだなんだ、この声は。心が読めるのか。しかも、夢の中の事ならともかく、現実の僕の状態まで把握してるじゃないか。

 いや、自分の夢なんだし、会話は成立してもおかしくないけど。


「そういうのじゃ、ないんだけどね。声、とは心外だなぁ」


「心外、って言うなら、姿をみせてくれないか。不気味でしょうがない」


 くすくすと笑うような声。

 面白い事言ったか。僕。


「不気味かぁ、久し振りに言われたな、そんなこと。わたしを気遣うような声はいくらでもあったけどね」


 気遣う、ねえ。どちらかというと、このわけの分からない状況に陥った僕を気遣って欲しいものだ。


「なんでもいいけど、顔は見せてくれないのか? やり辛くて仕方がない」


「ひょっとしてそれはプロポーズかな?」


 なんで? ある意味ヴェールに包まれてはいるけど。そこまで覚悟しての発言じゃないぞ。普通に、顔を合わせて喋りたいだけだ。


「それが、普通じゃない人もいるんだよねえ。いや、本当はわたしも、失礼かなーとか思わなくもないんだよ? でも他人の夢だからね。それなりにリスクというか、覚悟は必要なんだよ」


 また出たか。他人の夢。ということは、ここは僕の夢なのか。なら死んでもいいとか? 逆にこの声の主は死んではいけないのか。


「そういうことだね。声の主かぁ。もっと可愛い呼び名がいいな」


「見た目も分からないし、なあ」


 なんか出会いを求めている人みたいなこと言ってんな、僕。

 まあ、夢だし、他人に見られないからどうでもいいけど。縁もいないし。


「縁かぁ、随分、信頼してるんだね」


「知ってるのか」


「いや、知らないけど、会ってみたいなあ」


 こんな風に。


「え?」


 白一色の中に、これまた白一色の八尺様が現れた。

 いや、流石に八尺もないが、少なくとも僕より頭一つか、二つぐらい背が高い。

 そして何より、ワンピースとも浴衣とも取れない、真っ白でつなぎ目のない、曖昧な服に身を包んでいた。


「ふふっ、わたし、可愛い?」


「えっ? 口裂け女?」


 八尺様は例えだったけど、本当に魑魅魍魎の類なの?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る