第4話(2)

「魑魅魍魎かぁ。そんなに醜いかな、わたし」


 長い脚を地面にぐりぐりさせ、いじけて見せる。今気づいたけど裸足だ。いや、裸足になった? のか?


「いや、その……」


 別に醜くはない。どころか、容姿は整っている。病的なまでに真っ白な肌。儚げな瞳。綺麗とか可愛いとかじゃなくて、絵画とか彫刻みたいな、なんだろう、美しいと言えばいいのか。


「だって、なんて呼べばいいか。いい加減に名乗ってくださいよ」


「ふふ。一応、敬語使ってくれるんだね。そうねぇ、名前かぁ」


 顎に指をあてて、考える風な仕草。考える人ってあったな。そういえば。


「ないんですか。名前」


 魑魅魍魎でないにしろ、夢の住人なら、ないのかもしれない、名前。


「いやー。あったんだけどね。普通にね。忘れちゃったよね」


「忘れた?」


 なんだそれ。そんなことがあるのか?


「あったんだねぇ。どうだろう? わたしのことを名前で呼びたいなら、君が名付けてくれないか?」


「……ええ?」


 昔に飼っていたカブトムシの命名権すらなかったのに?


「お姉さん、とかじゃダメなんですか」


「お姉さん!? わたしが!?」


 あはははは! と体をくの字に曲げて大笑いする。

 なんだなんだ。


「お姉さん! そうかそうか、そう見えるか! あはははは!」


「違うんですか……?」


 なんかバツが悪くて、拗ねてるみたいな言い方になって、余計に恥ずかしい。それこそ近所のお姉さんに甘えているクソガキみたいな構図だ。まあ、あれか。身長だけで判断したこっちも悪いか。


「はー、おもろ。他で話せる」


「そんなに……?」


 そこまでのギャグセンスが僕にあったとは。もっと受けを狙いにいこうかな。縁相手に。絶対にやだね。


「うん、最高。そうね、お姉さんでもいいけど、出来れば? 名前? つけてほしいかな?」


 かな? かな? と左右に移動しながらおねだりをするお姉さん(仮)。


 可愛いけど、可愛いけどなんかいたたまれない。早く名前を付けてやらねば……。ええっと、夢の住人、魑魅魍魎……はいいか。八尺様……もいいか。見た目……。


「はやく、はやく」


 ステップが早くなってきた。まるで反復横跳びだ。焦るってそんなの。


 えっと、見た目……。なんだあの服。天女が着てるやつなのか? その割には全然靡いてないし。形状記憶なんたら、いや、今関係ない。見た目。高い。白い。白。シロでいいか? 今もはしゃいでて、なんか尻尾振ってる犬みたいだし。シロ。


「シロでいいですか」


「いいよっ」


 いいんだ。

 ふーっと、額に手を当て、かいてもない汗を拭う仕草をするシロ。


「危ない危ない。どんな名前になるかと思ったけど、まあ、いいかな。シロ。うん! わたしは今からシロだ!」

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