第3話(10)

 取り敢えず、夢を持つのが夢だとか、夢なんて寝てる時に見れば十分だとか、そういうくだらないことは言わない、と思う。俳句を趣味にしてるから、一見して小難しい奴だとか、言葉を変に捏ね繰り回す奴だとか、思われそうだが、そんなことはなく、生活はなんというか、とても素直な奴なのだ。


 そうだな、お嫁さんになるのが夢だとか、言うかもしれない。


 それはなんか、傑作だな。


 気が付けば道には砂利が多くなって、なんとも足音が不快になってきた。

 この中の数百、或いは数千粒が、縁の蹴ったものかもしれない。


「……お嫁さん」


 働いて。結婚して。子供を産んで。子供が小学校に上がって。

 ダメだ。全然リアリティがない。真剣に考えられない。僕は学生ではあるが、世界には僕ぐらいの年齢で、それこそ子供がいる人もいるだろうが、そして大して珍しくもないのだろうが、どうしても自分の事として受け入れることが出来ない。


 ……こんな人間、社会に出て行けるのだろうか。

 まあ別に出て行きたくもないんだけど。


「社会、社会ねえ」


 社会科のテストなら、そこそこ点数取れてるんだけどな。どうやら社会では通用しないみたいで、じゃあ、そんな名前つけないでよって感じだ。


「おお、猫」


 今日は猫がいる。ぱっと見で四匹はいる。毛づくろいをしたり、眠ったり、幸せそうだ。時々変わってほしくもなるけど、あいつらはあいつらで、厳しい社会に生きているんだろうな。それこそ、見た目の色でしか区別ついてないけど、案外、縄張り争いとかで、入れ替わってたりして。


 ちなみに、縁は似たような色、模様だろうが、猫の区別がつくらしい。僕に区別がついていないので、適当なことを言われても分からないのだが、仮に本当に区別がついているというなら、案外、前世が猫だったりするんじゃないか?


 生まれ変わりとか、信じてないけど。


 さらに家に向かって歩を進める。今日は真っすぐ帰ってきたから、全く暗くなっていない。あの日がイレギュラーだったのだ。


 なんとか大学病院も見えてきた。いつも名前忘れるんだよな、あれ。


 夢囚病ね。


 それは、もちろん正式名称でなく、周りが勝手に言ってるだけで、病院ではもっとちゃんとした診断名がつくのだろう。いっそのこと、僕も罹りたい気分だ。一週間ぐらい寝て、すっきりしたい。いや、縁に怒られるかな。怒られはしないけど、心配されてしまうかな。やっぱり。


「じゃあ、やめようかな」




――やめちゃうの?

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