第3話(5)

 いまいちピンときてないんだけど。


「秋葉原……みたいなとこに行く夢。フクロウとかオタクとか居た」


 ほおーう? と馬鹿にしたような、面白がっているような表情をする縁。

 ええい、話してやらんぞ。


「ちなみに行ったことはないよね? 見たことは?」


 質問ばっかだな、こいつ。


「どっち? ああ、いや、ない。どっちもないや」


「私もないなぁ。行ってみたいんだけどね。夢が壊れそうで」


 夢、夢、夢。また夢か。そういや、起きてから何分経ったんだろう。


「うん。歩きながら喋ろうか」


 ちら、と時計を見た僕を見逃さなかった縁に促され、さっさと食器を流しに運んで、色々と身支度をする。目まぐるしく動く(言い過ぎか)僕の側を、それでも縁は付かず離れずいてくれている。


 なんだこれ。めちゃくちゃ恥ずかしいぞ。


「うーん。こうしていると新婚さんみたいだね。どうする? 結婚しようか」


「マジで助かる。家事一切は任せてくれ」


 働かないんだ、と呟く縁。

 こいつ、それでもいいよ、とか言いそうで怖いんだよな。


「何とか言ってたら、結構時間危ないね。どうする? サボる? そして駆け落ちでもしよっか」


「いや、普通に遅刻するけど」


 踵を鳴らして玄関を出る。

 つれないなーとか、むくれたフリをしてるけど、そんなもん見破れない僕ではない。


 少しだけ遅い時間の通学路は、いつもと変わらずにそこにあった。いつもより騒がしいわけでも、静かなわけでもない。何一つ変わらない。


「ねぇ、昨日は聞かれなかったけど、君が夢から覚めなくなったら、私はどうすればいい?」


「どうって」


 別にどうしてもらってもいいけど。いつも通り学校に行ってもいいし、心配してあたふたしてもらってもいい。寝てる僕には関係ないし。まあ、俳句を聴かせる相手が居ないと、悲しむぐらいの事はしてたらいいんじゃないかな。


「一緒に眠りに落ちた方がいいのかなってこと」


 眠りに、落ちる。駆け落ちとかけたつもりか?


「いやいや、遠慮させてくれ。普通に生きててくれ」


「ほーう。好きな人とは、一緒に死ぬより、生きていてほしいタイプか」


 顎に人差し指を置いて、覗き込むような仕草をしている。

 むかつくなぁ、それ。


「そういうことでいいよ、もう」


 右足を少しだけ乱暴に前に出して、砂利が少し、ほんの少しだけ道の上を走る。

 この距離の何千、何万倍を、学校に向けて歩かないといけない。


「怒らないでよ、ねーぇ」


「別に怒ってないよ」

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