第3話(4)

「ほんとに? ねえねえ、どんな顔だった? 可愛かった!? 私より!? 年齢は? どんな服装だった!?」


 おおう。


 なにが琴線に触れたのか、矢継ぎ早に質問を投げつけてくる。

 飼い主を見つけてキャンキャン尻尾を振る馬鹿犬みたいだ。


「顔……は見てない。だから服装も年齢も分かんない……けど、声の感じだと、二十代とかその辺りじゃないかな」


 まあ、高校生かもしれないけど、少なくとも年下ではない。


「ふーむ」


 しっしっ、と手で追いやると、ようやく身を引いて、何やら考え込む縁。


「女の子、って感じじゃないね。私より年上だと」


 それは同意するけど、何で自分を引き合いに出した? それだと自分が大人びてるって言ってるみたいだぞ。


 そんなことはない。決して。断じて。ネバー。


「ふうん。他に覚えてることとかないの?」


 言われて、視線を左上にやって考える。うちの天井奇麗だな。


「何かに追われてた気がする」


「よくあるね」


 特に興味なさそうな表情の縁。

 確かに。僕だってそんな反応になると思う。


「あとは、ルールがどうとか」


「ルール?」


 きらん。縁の目の解像度が上がった気がする。

 直視できずに、視線はそらしたまま、ぶっきらぼうに言葉を紡ぐ。


「他人の夢で、死んじゃいけない、ってさ」


「……なるほど。死ぬような夢だったんだ」


「追われてたからね。それに死ぬ夢なんて別に、珍しくもない」


 夢の中でなら、僕は何百回と死んでいるさ。

 落下、溺死、事故死。車を運転していて、海に突っ込む、なんて複合するタイプだってある。だけど、そんなの珍しくもなんともない。


「そうだね。でも気を付けないといけないね。強いショックを受けて、そのまま目覚めないなんて話もあるし、それこそ夢囚病より恐ろしい」


「…………」


 ほとんど無意識に、開いていた手を握る。ジェットコースターの落ちる寸前のような、試験前の五分のような、頼りない浮遊感がそこにはあった。


「大丈夫だよ」


「ああ、うん、悪い……」


 多少、心臓は早くなったけど、さっきみたいにふさぎこむほどではない。


「手が気になる? 握ろうか」


「やめてくれ……。全然平気だって、ほら、なんだっけか。そう、ルールなんだよ。他人の夢では、死ぬなっていう」


 うーん?

 顎に手をやって考える仕草も随分と様になっている……というのもあるが、それより明らかに挙動不審の僕の言葉を、そのまま受け入れてくれている。


 なんというか、心地良い距離感だ。


 こういうところが、本当に、

「他人の夢、ね。入ったことある?」


 おっと。


「えっと、他人の夢? ないんじゃないかな……。あ、でも、今朝のがそう……ってことになるのかな」

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