第3話(3)

「さてね」


「へーえ。珍しいこともあるもんだ」


 馬鹿にするでもなく、笑うでもなく、ただただ受け入れて頷く縁。

 くそう。むず痒い。いっそ馬鹿にしてくれよ。


「とにかく、色々あるんだよ。待ってくれるなら適当に上がっててくれ」


 縁に背を向け、家の中に向き直る。


「ところでさ、それって『知らない女の子』とか関係してたり?」


「……え?」


 何で、知ってるんだ。


 もしや、こいつが。


「いや、そういうことじゃないんだけど」


 じゃないんかーい。

 ギャグ漫画ならずっこけてるところだ。個人的にはずっこけるより、飛んでいく方が好きだけど。


「じゃあ、何だよ」


「ううん。話に聞いたことが有るぐらいだよ。それも、直接じゃなくて、誰かが話してるのを聞いた感じ」


 それはまあ、そうなんだろう。


「まあ、座ろうよ。立ってするような話じゃないよ」


 言いながら、玄関に座り込む縁。家の中なら、椅子とか有りますよ?


「早う、早う」


 ぽんぽんと自分の膝を叩く。いや、そこに座るわけないじゃん?


「普通に居間でいいと思うんだけど」


 別に移動を提案してるわけじゃないので、僕もその場で腰を下ろす。



 縁までの距離、五十センチほど。


「素直でよろしい」


「そりゃどうも」


 またふざけてやがるな。


「こんな話するつもりなかったんだけどね。ほら、怖いもの見たりすると『夢に出てきそうだ』とか言うよね。だから意識させないためにも黙ってたんだけど、実際に見ちゃったなら知った方が良いかと思って」


「何を?」


 何か保護者面してるのが気になったけど、そこは後回しだ。分からないこと、知りたいことが山ほどある。


「噂だよ。ただの。夢囚病になる前に、『知らない女の子』に話しかけられたとか、なんとか」


「んー……」


 それぐらいなら……。


「がっかりしちゃった? でも『夢』なんだし、知らない女の子なんか、いくらでも出てくるよね。だから私も、どうでもいいや、って思ってたんだけど、あまりにもあっちこっちで聞くもんだから、何か覚えちゃってて」


「確かに、居たな」


 その途端、縁の目が見開いて、前のめりになる。



 縁までの距離、わずか十センチほど。


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