第7話 わたしが村長ですっ!

『わたし、まだ幼女ですけど――この村の村長として頑張ります!』


『――はあああああああああああああああああああっ!?』

 その瞬間、この小さな村が震えるくらい、村人たちが大絶叫した。

「これなら、わたしがこの村にいてもいいですよね? だって、村長ですもん」

「いや、いやいやいやっ! そりゃ無理だろ! だって幼女じゃん!」

「でも、幼女は村長になっちゃ駄目なんて掟はありませんよね?」

「そりゃねーよ!? 幼女が村長になるかも、なんて無茶苦茶なこと誰も考えねえもん! 子どもに村長の仕事が出来るとは思えないし、危険なことだってたくさんあるんだ。実際もう何人もひどい目に遭ってるしよ、流石にこれは……」

「私は良いと思いますよ? アリカちゃんなら、きっとうまくいくと信じてますから」

 たった一人賛同してくれたシルヴィアへと、村人たちが一斉に視線を向けた。

「アリカちゃんってまだ小さい子どもですけど、皆さんが思ってる以上にすごい女の子なんですよ? ねっ、アリカちゃん?」

「……えっと。その通りです、はい」

 気恥ずかしさを覚えながら、わたしは空に手を掲げる。

「るーるるるー。ドラゴ、こっちに来てーっ」

 シルヴィアの言葉を合図に、大声で叫び……その束の間、である。

 わたしの呼び声に応えるかのように、ドラゴが夕焼けの空を舞いこちらに飛翔してきた。

「なっ……! おいおいおい、こんな時にドラゴが暴走したのかっ!?」

 どうやら、村人のみんなはドラゴが逃げ出したと思ってるみたい。みんなはあわあわとするばかりで……次の瞬間、みんなは一斉に呆気に取られた。

 平原に降り立ったドラゴが、甘えるようにわたしに頭を擦りつけたからである。

「ど、どうなってんだ? ドラゴが子どもに懐くなんて、そんな馬鹿な……」

 驚愕にカタカタと骨を鳴らすアリアルさんに、シルヴィアは笑顔のまま口にする。

「これが、アリカちゃんがこの村の村長に相応しい理由の一つ、です。アリカちゃんは、魔物に忠誠を誓わせることが出来るんですよ。だよね、セシリア?」

「……そうなんだよなあ。未だに信じられないんだけど、あの娘は私のドラゴを手懐けたんだ。プライドが高くて言うことを聞かなかった、あのドラゴを、だよ?」

 セシリアさんの言葉にどよめく村人たちに、シルヴィアはにこにこと微笑みながら、

「普通の村であれば、子どもが村長になるなんて難しいですよね。けどこのラフィール村であれば、ドラゴンさえ手懐けるアリカちゃんは適任だと思うんです」

「ま、まあ。確かに、それがこの村では一番大事なことだけどよ……」

 わたしはドラゴの頭を撫でた後、すう、と大きく呼吸をして、

「誰かが村長にならなきゃいけないなら、代役でも良いのでわたしに任せてくれませんか? わたし、たくさんの人と楽しく生活するのが憧れだったんです」

 わたしは、幼女らしく精一杯の笑顔を浮かべる。

「この村で平和にのんびり暮らせるなら、それだけで良いんです。ですから、皆さんもゆる~く見守ってください。……こう見えてもわたし、普通の幼女じゃありませんから」

 ぽかん、と口を開けてわたしを見つめる、村人の皆々様。

 そこで、シルヴィアはぽん、と手を叩くと、

「それじゃあ、まずはアリカちゃんのお祝いをしませんか? 皆さんも、アリカちゃんのこともっと知りたいと思いますし」

「お、おう。まあそうだな。村長のことは置いといても、アリカのことは歓迎しないとな。早速宴でも……といきたいんだが、それも出来ねえんだよなあ」

 アリアルさんの言葉に、わたしは疑問を口にする。

「……? どうしてですか?」

「それが前の村長が決めた掟なのさ。村人は身を慎み質素に暮らすべし、祝い事であろうと宴を開くなど以ての外である、ってさ。誰かをもてなすのも駄目なんだってよ、俺たち」

「ははあ。前の村長さんって、すごいストイックな人だったんですね」

「っていうかケチなんだよ、あの人。前の村長がいた頃は村税も高かったし、そのせいで馬車馬みたいに働かなきゃいけなかったし。いなくなったら困るけどさ、それでも毎日がしんどかったよな。大体さあ――」

 ぶつぶつと愚痴り始めたアリアルさんに、わたしは、

「それじゃあ、わたしの初めての仕事は、それで決まりですね?」

「……ん? どゆこと?」

「だってわたし、村長ですから。……さっきのアリアルさんの掟、撤廃します。これからは祝うべき日には宴を開いても構いません。皆さん、ぱーっと楽しんでください」

 広場は静まり返り……やがて、何人もの村人たちが大きな歓声をあげた。

「えっ、マジで!? 飲んでもいいの、酒!? 食ってもいいの、肉!?」

「えと、失礼かもですけど、アリアルさんってスケルトンなのに食べれるんですか……?」

「いやあ、俺は無理だけどさ、村のみんなが喜ぶだろ? さっすが幼女、話が分かるなあ! ……い、いや、っていうか子どもが勝手に決めちゃうのはマズくないか?」

「いいじゃないですか。アリカちゃん、村長なんですから」

 アリアルさんに声をかけたのは、シルヴィア。隣にはララちゃんもいた。

「今夜は楽しい夜になりそうですし、素直にアリカちゃんのお祝いをしませんか?」

「ララも嬉しいですっ! あのあの、ララはフルーツパイが食べたいです! 果物がたくさん入っててとても美味しいんです、アリカちゃんも食べませんかっ?」

「うん、もちろんだよ。じゃあ、一緒に行こっか」

 そうして、わたしはララちゃんに引っ張られるように、宴の場へと向かうのだった。

 

 料理店で行われた宴は、それはもうとにかく盛大だった。

 見たことのない料理が並んでるし、村人のみんなは久々に羽目を外して大騒ぎしてたし、みんなわたしに興味津々だったし、獣人族のお姉さんから酔った勢いで「可愛い~!」って抱きつかれるし、とても長くて、けどとても愉快な夜だった。

 そして、宴が終わった後、わたしとシルヴィアはとある一軒家にいた。

 何でも、ここが今日からわたしが住む家、みたい。

「この家は、前の村長さんが住んでた家なんだ。アリカちゃんが住むには広すぎるかもしれないけど、どうかな?」

「こんなに立派なお家に住んでもいいの? キッチンもあるし、リビングもあるし……うわ、暖炉がある! もしかして、あれも自由に使っていいとか……?」

「もちろんだけど、そんなに嬉しいの?」

「うん。今まで、野宿みたいな暮らししてたから。屋根が付いてる家で暮らせて、しかも魔物に襲われる心配もないなんて、ラフィール村ってすごく良い場所だね」

「そ、そんな壮絶な暮らしをしてたの……?」

 シルヴィアは呆然としたような表情で、

「なんか、とんでもない女の子なんだな、って実感しちゃうなあ……。でも、過去のことは誰にも話せないんだよね?」

「うん、それだけは無理なんだ。……やっぱり、わたし普通の女の子のフリをした方がいいのかな。そっちの方が村のみんなも心配しないよね?」

「ううん、そんなことないと思う。私は少しでもアリカちゃんのこと知りたいもん。話せないことなら、話さなくてもいいけど……アリカちゃんがアリカちゃんらしくいるのが、私も村人のみんなも喜ぶと思う。無理に隠し事されるなんて、嫌だもん」

 わたしはわたしらしく……うん、そっか。それって、なんか嬉しいな。

 シルヴィアは、立ち去るように扉に手をかけて、

「村人のみんなは、アリカちゃんが村長ってことにとりあえず納得したけど、まだ心から認めてはいないと思う。まだ子どもだから仕方ないけど、アリカちゃんは本気なんだよね。村長として、どうしたいの?」

「……どうなんだろ。わたし、大勢の人と暮らすなんてしたことないから。村長がどういうものなのかって、いまいち分からないんだ」

 村長として何をするべきか、それははっきりしないけど……でも、村長としてどうありたいかくらいなら、答えられると思う。

「だから、ラフィール村が平和だったら、それで良いかな。みんながのんびりと日々を暮らせて、その村人たちの中にわたしがいるなら、それだけで十分だから」

「……うん、そうだね。アリカちゃんならきっと、良い村に出来ると思うよ」

 初めて暮らすのが異種族と魔物だけの村で、しかも村長をするなんて前代未聞だと思う。

 けど、それくらいがわたしには丁度いいのかもしれない。

 だって、わたしは裏ダンの魔物に拾われた幼女、なんだから。

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