回復術師とその辺の人

三月

回復術師と腹痛

 これはとある回復術師のお話


 回復術師とは人々の怪我や病気を瞬く間に治し、人々から感謝の対象となる


 そんな彼らの中にもやはり優劣というものが存在してしまう


 骨折を一瞬で治してしまう者もいれば擦り傷に数分時間をかけてしまう者もいるだろう


 これは幼少期から回復術師としての才能を発揮するも間違った方向に進んでしまったとある者のお話




 —————




「ふむふむ。ここでサカサの草を入れてみよう。……あっへぇ、とんでもない匂いだぁ」


 私、回復術師の『ネオン』。生まれつき天才ともてはやされたけど、自分ではそんなこと一切思っていない平凡な回復術師の女の子だよ


 今日も今日とて薬の調合に回復魔法の練習に大忙し。そしてときどき、新しい回復魔法の開発をしているよ!


「ならば今度は……アナヤラの骨粉を……。おぉ、こ、これはわかる! わかるぞぉぉ! 私史上最高の出来ば……」


 ボンッ!!


 ネオン史上最高の新薬は爆発した。


「なんで骨入れて爆発すんのよ!」


 ネオンは凡人である。だが天才である。村の住人はネオンの新薬の話を聞くと一目散に逃げていく。それは凡人の作る最低最悪な劇薬だと誰もが知っているからだ。


「ふふふ、でも私は諦めない! 凡人な私を優秀だと言い、もてはやす奴らに私の本当の腕を見せてやるわぃ!」


 失敗は成功の母、いい言葉であると誰もが思うだろう。失敗を繰り返し徐々にそれが身につく。そして成長を実感し、今までやってきたことに間違いがなかったことを嬉しく思う


 そう! 私はまだその時が来ていないだけだ!


 そう自分に言い聞かせ、優秀な、天才と言われるその名に恥じぬ回復術師となるために、今日も未知の材料を鍋に投入する。


 そんな彼女に村の人々はこう思う。いい加減諦めてくれと。


 だが、それでも村の人々は彼女のことを『天才』と呼ぶ。




 —————




 ネオンは気晴らしに外を散歩していた。春先の気持ちの良い風がネオンの肌を撫で眠気を誘発させる。


 ネオンはみっともなく欠伸をしていると目の前に一人のうずくまる男性を見かけた。


「ど、どうしました!?」

「いやぁ、実はお昼に食べた紫色のキノコが悪かったのかお腹を壊してしまってねぇ」

「なっ!? 紫色のキノコですって!?」


 ネオンは思わず大声を上げてしまった


 そんな、そんな紫色のキノコだなんて・・・


「新しい薬の素材になるかもしれません! どこに生えてました!?」


 違うそうじゃない。誰もがそう思うだろう。


「く、薬はいいから何とかならないかな。天才回復術師だろ?」


 男性は何を血迷ったのか、誰かと勘違いをしているのか、事もあろうに凡人回復術師に治療の依頼をしたのだ。


「ふふふ、ならとっておきのの新回復魔法があります。この効果は今の状況にぴったりな腹痛を治す魔法です!」

「さすが、天才回復術師だなぁ」


『天才』と呼ばれるのを嫌っておきながら、いざ言われるとつい頬が緩んでしまうネオンでだった




 —————




 皆さんは腹痛時、どのタイミングが最も苦しいだろうか。


 お尻からチョコアイスクリームを製造している時? それとも出そうだが近くにトイレがなく我慢している時?


 いいや、どれも違う。


「いいですか? これはその腹痛を一気に治すとっておきの魔法です! 準備はいいですか?」

「あぁ、頼む!」

「ほ、本当にいいんですか?」

「あぁ!」

「やっちゃいますよ? ちゃんと準備できですか!?」

「出来てるから早くしてくれ!」

「いよーし、行きますよぉ〜!」


 ネオンが手を添えるとその周辺がキラキラと光りだす。その光に包まれ男性は何だか腹痛が治まるような、そんな気がした。


 凡人な天才回復術師、ネオン。彼女の作る薬はどれも劇薬だ。特攻回復草を毒物に変えるほどの才能のなさだ。


 だが、それでも村の人々は彼女を天才と呼び続けた


 その理由が、


「おお! 本当に腹痛が治った! ありがとう、ネオンちゃん!」


 回復魔法に関しては、かの王宮回復術師にも引けを取らないほどの才能の持ち主なのである。


 どんな難しい回復魔法も一、二回練習すればすぐにマスターし、新しい回復魔法も閃いたその日に形としてしまう。


 これを天才と呼ばず何と呼ぶのであろうか。


 しかし、ネオンに欠点が全くないというわけでもない。


「ありがとう! 本当にありがとうネオンちゃん、私はもう終わりかと、あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!ブリブリブリブリュリュリュリュリュリュ!!!!ブツチチブブブチチチチブリリィリブブブブゥゥゥゥッッッ!!!!!!!」


 それはその才能の使い方が間違っていることだ。


 ネオンは思った。腹痛時、最も辛いのは『トイレにいるのにも関わらず出ない』と、いうことだ。


 出せば楽になる、楽になるはずなのに出ない。


 この状況がネオンの思う腹痛時の最も辛い時間だった。


「あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!ブリブリブリブリュリュリュリュリュリュ!!!!ブツチチブブブチチチチブリリィリブブブブゥゥゥゥッッッ!!!!!!!」


 ネオンはそのどうしようもない時間に最も有効な魔法を使ったのだ。それが『どんな時でも出る出るトイレ』。この圧倒的脱糞効果を持つ魔法の名称だ。


 これを使えば、腹痛など一瞬で治ってしまうのさ!


「ふぅ、やはり私の魔法に失敗ない。ちゃんと出たようだし」

「あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!ブリブリブリブリュリュリュリュリュリュ!!!!ブツチチブブブチチチチブリリィリブブブブゥゥゥゥッッッ!!!!!!!」


 天才だがその才能の使い道を誤った少女。


 ネオンは凡人の天才回復術師。これからも己の技を磨くため日夜研究に励む!


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回復術師とその辺の人 三月 @Hiburaihi

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