第4話「炎の神器の継承者」
「オリオン…か…」
慌ててやってきたオリオンに苦笑しつつ顔を向けるミーナだった。
ドドスはというと、そんな闖入者にもびっくり眼を向けていた。
だが、まださきほどのミーナの言葉でショック状態から抜け出ていなかった。
ただ、今このオリオンという黒髪の美しい青年が「光輝神官は僕がなるに決まっている」と言ったことで、多少安堵で胸をなでおろしかけていた。
「………」
だがしかし、少しばかりの残念さを感じたといったところでもあった。
(何をバカな…)
ドドスはそんな自分に驚いた。
何も期待しない、誰も信じないと思い続けてきた自分であった。
こんなふうに美しく気高い存在──それはもちろん、神という存在なのだからそうには違いないのだが──そんな存在に情けをかけてもらえるなどと考えたこともなかった。
確かに、ドドスはそれなりに自分に酔いしれるところはあった。
だが、それも容姿以外のことであった。
といっても、それもただの思い込みの類ではあった。
しかし、それでも、一般人には持ち得ない能力ではあったので、彼がそう思ってしまうのは無理からぬことなのだが。
実際、風神に仕えた後、主が没したあとに残された能力は、普通の人間にはこなせないものではあったので、その点ではドドスが天狗になってしまうのも頷ける。
それほどドドスは自分が思っていた以上に強くなっていたのだった。
「どうした? 見つかったのか?」
と、そのとき、ドドス、ミーナ、オリオンが居合わせているこの場所に、さらに二人の人物がやってきた。
言わずと知れたカーリーとサフランである。
カーリーは例の立派な大剣を背負い、傍らには長い黒髪を垂らしたサフランを従えていた。
「こいつがお前の主をさらったヤツか?」
カーリーはギロリとドドスを睨み付ける。
思わずドドスも睨み返した。もっともな反応である。ドドスらしい。
それを見たカーリーは背中の大剣を抜いて、ドドスに突きつけた。
ドドスもザッと後退り反撃に備える。
緊張が走る。
と、突然。
「それは! もしや?」
叫んだのはミーナだった。
その声があまりにも切羽詰ったような声だったので、そこに居合わせた全ての者が、驚いて彼女に目を向ける。
「ミーナ、どうした?」
「…………」
彼女のただならぬ表情と声に、オリオンが緊張した声で聞く。
それにはまったく答えず、ミーナはカーリーの構えた大剣を睨みつけるように見つめていた。
「この剣がどうした?」
「お前……」
ミーナはそこで初めてカーリーの存在を認識したらしい。
大剣から目を逸らすと、彼女は怪訝そうな口調で呟いた。
「人間……だよな……どう見ても人間だ……だがしかし、その燃えるような赤い髪は……」
「いったいなんだというのだ?」
カーリーはミーナの言葉に少なからずむっとしたように顔をしかめた。「人間だよな」という彼女の言葉に、嫌な思い出を思い出してしまったようだった。
「それは炎の神器に間違いない」
「炎の神器?」
ミーナの言葉にカーリーとオリオンが異口同音で言葉を発した。
二人は思わず顔を見合わせ、何となくバツが悪い表情を見せた。
ミーナはカーリーに近づくと、彼がまだ構えている大剣をしげしげと眺め渡した。
「実物を見たことはない。だが、これは間違いなく炎の神器だ。かつてこの世界の神であった炎神の持ち物だったはず」
「炎神の?」
カーリーは仰天して自分が握った大剣をまじまじと見つめた。
「炎神ディーズはもちろん私も見たことはない。だが、燃えるような赤い髪をしていたという」
ミーナはそう言うと、カーリーの髪をじっと見つめた。
オリオンもドドスもサフランでさえもじっと彼を見つめる。
それを見た彼は慌てて否定する。
「オレはそんなもんじゃないぞ。サフラン、それはお前もよく知っているだろう?」
「ええ…確かにそうですわね」
「そう…そうか、この髪か……オレの髪は元々はこんな赤い髪ではなかったのだ」
そして、カーリーは語り始めた。
「オレの額には痣があった」
カーリーはその痣のせいで子供の頃から迫害を受けてきた。魔族の子供だと。実際に炎を自由自在に操ることができたので、恐らくカーリーは魔族の落としだねだったのかもしれない。
「だが、それでも、オレが魔族だったとしても、オレという存在を受け入れてくれた人たちがいた。ある国の王子だったんだがな。彼の国で騒動を引き起こしてしまったが、その王子のおかげでオレは自分に素直に生きていこうと思ったんだ」
そして、それ以降、各地を旅していき、同じように魔族でも自分と同じようないい魔族を探した。人間たちに魔族にもいい魔族がいるんだということを知ら示そうとしたからだ。
「その旅の途中に、ある場所でこの大剣が地面につき立っているのを見つけたんだ。地元の者に聞いてみたら、それは誰にも抜くことができない剣だということ。その噂が広まって、様々な国からその剣を引き抜き、自分の物にしようという者たちがやってきたんだそうだ」
「その大剣を君が持っているということは、それはつまり君は抜くことができたってことだよね」
カーリーが握った大剣をまじまじと見詰めながらオリオンは言った。それに答えるカーリー。
「そうだ。この大剣に非常な興味を持ったオレは大剣を引き抜こうとした。すると、簡単に抜けたんだ。だが、その瞬間、オレの髪が真っ赤に染まってしまった。いったいどういうことかワケがわからん。未だに謎だ」
「謎でも何でもないぞ」
「え?」
ミーナの言葉に一同彼女を凝視する。
彼女は少なからず興奮しているようだった。彼女の目は好奇心からか輝いている。
「これは凄い事なのだぞ」
「凄いこと?」
「そうだ。カーリーと言ったな。カーリー、お前は魔族から初めて神格化した存在という事になるのだぞ」
「何だって?」
ミーナの言葉にカーリーは大剣をじっと見詰めた。微かにその手が震えている。
「オレが神に?」
「そうだ。カーリーよ。お前は神になったのだ」
ミーナは厳かに語り出した。
この世界の神たちは既に邪神と成り果て、神のいない世界と化している。だが、魔族の存在は未だにあり、それらが人間を苦しめている。その魔族を牛耳っていたのも神の役割だったのだ。人間に悪さをさせないために。だから、いずれはこの世界にも再び神が現れなくてはならない。
「他の世界では、他世界から神が遣わされる。それもあり、この世界にはオムニポウテンス率いる神々がやってきたはず」
だが、その神々は世界を保つだけで精一杯だった。自分たちの世界も管理していたからだ。それもあり、いずれは新しい神を生み出さねばならないとオムニポウテンスは考えていた。
「私の祖父であるオムニポウテンスは、そういうことで私を此処に遣わしたのだ」
「他の世界から?」
「そうだ。私ともう二人、三人の神がこの地にやってきた。いずれ他世界の神々は此処を発ってしまう。だが、三人だけではどうしようもない。この世界には八人の神が存在していたからな。それもあり、既存の神たちの代わりになる存在を必要としているのだ」
「代わりの神…」
複雑な思いをカーリーは抱いた。代わりということは、邪神となった炎神は──
「そうだ。邪神が死なぬ限り新たな神は生まれぬ。封印された邪神が解き放たれようとした今がその時なのだ」
「その時って…それはつまり…」
カーリーの声が知らず震える。それはもしや──
「邪神は滅せられなければならぬ。それが私の使命。封印されていた邪神たちを滅する為に私はこの世界にやってきた。そして、新世界を此処に宣言する為に」
2007年2月14日記
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