第18話 環境ごとメタモルフォーゼ

メタモルフォーゼ・18・環境ごとメタモルフォーゼ        





 カオルさんのお葬式の帰り、思い出してしまった!


 年末には、お父さんとお兄ちゃんが帰ってくる。あたしが女子になったこと、まだ知らない。

 あたしは、もう99%美優になってしまっていて、バカみたいだけどメタモルフォーゼしてから、ちっとも思い至らなかった。


「どうしよう、お母さん。年末には、お父さんも、お兄ちゃんも帰ってくるよ」

「そうよ、近頃は盆と正月だけになっちゃったもんね、楽しみね。でも男なんか三日でヤになっちゃうだろうな」

「いや、だから……」

「いまや、美優もKGR46のメンバーなんだからさ。胸張ってりゃいいのよ」

「だって、お母さん……進二は?」

「進二……だれ、それ?」

「あ、あの……」

 あたしは一人称として「オレ」とは言えなくなってしまっていたので、自分の顔を指した。

「美優……知ってたの。あなたが男の子だったら、その名前になってたこと。うちは女が三人続いたから、最後は男で締めくくろうって思ってたんだけどね。麗美は小さくて分かってなかったけど、留美と美麗は『おちんちんが無いよ!』ってむくれてたわよ」

「あたし、最初っから美優……」

「そうよ、それよりゴマメ炒るの手伝って。お母さんお煮染めしなきゃなんないから」

「ダメよ、紅白の練習とかあるし」

「え、美優、紅白出るの!?」

 仕事納めから帰ってきた留美ネエが、耳ざとく玄関で叫んだ。

「うん、三列目だけど……あ、もう行かなくっちゃ!」


 深夜にレッスンから帰ってきて、自分の持ち物を探してみた。


 そこには進二であったころの痕跡は、一つも無かった。CDに収まっているはずの進二時代の写真も無かった。

「どういうこと、これ……」

「そういうこと……」

 レミネエが寝言とオナラを同時にカマした。


 二十九日からは、それどころじゃ無くなってきた。レコ大(レコード大賞)と紅白への追い込みが激烈になってきた。

 レコ大は大賞こそAKBに持って行かれたけど、KGRも「最優秀歌唱賞」を獲得。その晩タクシーで家に帰ると……。

「美優、おめでとう! しばらく見ないうちに、ほんとにアイドルらしくなったなあ!」

 お父さんが、赤い顔でハグしてきた。お酒臭さがたまんなかったけど……。

「ごめん、あした紅白。ちょっと寝かせて……」

「おお、そうしろそうしろ」

 進一兄ちゃんが、これまた酒臭い顔で寄ってくる。

「悪いけど、お風呂まで付いてこないでくれる!」

「明日起きたら、サインとかしてくれる?」

 あたしは無言でお風呂に入り、鼻の下までお湯に漬かって考えた。


 いや、考えるのを止めた。


 どうやら、あたしを取り巻く環境ごとメタモルフォーゼしてしまったようだ……。

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