ステージ16 決戦の幕開け

「ハーウィン!」

「バカを言え、こんなところで力が使えるかよ!」


 三人は、急いでいた。勇者ジャンの生みの親であり、北本菊枝トモタッキーが通っている伊佐家へと。ハーウィンの力を使えば数十秒の距離だが、そんな事をして他の建物を壊したり無関係な人間を脅かしたりするような事はできない。体力を消耗させないレベルの速さで歩く事しかできなかった。




 今日、あいつらは動く。そう昨晩断言したのは、ハーウィンだった。


「勇者様の三十二回目の誕生日、勇者様にとって祝うべき日だ。それを」

「ああ、最悪の日にしようって訳ね」

「汚いですね」


 だが、朝か昼か夜かわからない。だからこそ午前0時から伊佐家にバリアを張っていたが、結局動きはないまま時間ばかりが過ぎた。その内に魔力が伊佐家に向かって接近し、その事を知って押っ取り刀で駆け付けているのが今の三人だった。


「にしてもどうして勇者様の家に魔力が」

「私サボってないよ!」

「先手を打たれたんだよ。それに強ければ俺らにもわかるけど伊佐家に今ある魔力ってのは正直あんまり強くねえ、せいぜい幻影を作るぐらいだ」

「私たちのバリアでは侵入を防ぐのが精いっぱい、すでに入っている物を消すことはできないという事ですね」


 人間を殺せるレベルの魔力があればさすがに探知できる、だが魔王の息子はその点狡猾であり、妖精たちにギリギリ探知できないほどの魔力でヤクザの抗争を煽り死者を生み出していた。妖精は長年自閉的な生活を送ってきたゆえに自分に向けられる悪意には敏感だったが、他人に向けられる悪意には弱かった。それにコーファンの言う通り、妖精たちのバリアに攻撃力はない。ギュッと小さく固めれば封じ込める事はできるが、消す事はできない。攻撃と言う点においては、それぞれ固有の能力があれば十分だと思っていた。ずっと前から、ずっと先祖から。


「勇者様と共に歩みその力不足は実感して来たけどな」

「それでも今は持てる限りの力で何とかするしかないよ!」

「北本さん、しばらくは頼みますよ」


 トモタッキーと言う名前をコーファンが口にしなかったのは、せめてもの理性だった。この世界の普通の人間にはおよそ意味不明な語彙をぶつけ合う三人の姿は、実に奇異な物だろう。それでも魔法で一応、この世界の一般人的な風貌になってはいる。もしここでトモタッキーだのハーウィンだの言おう物ならば、良くてハンドルネームおそらく外国人と思われてしまうだろう。いずれにせよ無駄に視線を集める種になり、その結果無駄な犠牲者を出してしまわない訳でもない。


「徒歩二十五分だと言うけど、こんなに遠いとは……」

「本当にその通りですね」

「…………」


 魔王とインキュバスとの戦いは避けられそうにない。その際に一番戦力になりそうなのは、トモタッキーだった。コーファンの変身術が一騎打ち同然の状況でどれだけ役に立つかわからないし、ハーウィンには勇者を呼びに行く役目がある。とにかく正義の味方と言うのは不自由な物だなと、三人とも実感していた。

(間に合った所で急にそいつらが魔王なんですなんて言われて誰が信じてくれるんだか)

 信じてくれたとして、逃げてくれるだろうか。普通の人間たちに信じられるような証拠を提示できるのだろうか。自分たちを魔王の仇の一味と思いなりふり構わず向かって来てくれると言うのが最高の答えだろうが、そんな理想は甘すぎる事はわかっている。自分たちだって自分たちなりに手を尽くして魔王アフシールを倒したのだ、魔王の息子が同じ事をしない保証はない。なんとかレンジャーとか言うヒーローの真似をする少年を三人は横目で見ながら、遠い世界の正義の味方を思い浮かべた。




 ※※※※※※※※※※※※※※※※




 突然の来客に驚きながらも、伊佐玖子はおだやかなマダムの顔を作っていた。アラサーに見える男性と、日曜日なのに制服を着こなす男子高生。スラリとした二人の美男子に、玖子の目はたちまち奪われた。もし久美も由美も、これまでの数時間の間に玖子の頑迷な姿勢を崩す事が出来て気力が戻っていたらそうしたかもしれない。


「不破さん」

「不破さんって」

「いつも息子の龍二がお世話になっております」

「伊佐先生」

「ああ龍二か、元気そうで何よりだな」

「先生は違うみたいですね」

「うちの人がねえ、サラリーマンやめたら漫画家にでも転向しようかって言い出してちょっと悩んじゃってて」

「アハハハハハ!」


 伊佐新次郎うんぬんを口に出されたとしても、架空の人物の話だからと逃げられるようにしておく。初対面の存在の人間に対する先制攻撃、まったく隙を見せないその振る舞いに雄太たちは改めて前途多難ぶりを感じ、一方で不破龍二は笑った。


「まあそういう事なんでたいしたおもてなしもできないんですが」

「よろしければこちらでもどうぞ、息子がお気に入りの物で」

「袖の下は受け取りませんよ」

「さすが、素晴らしいですね。まあ息子の自分が好きな物は相手も好きだろうと言ういささか幼い善意から来た物ですから」

「エヘヘヘ……」


 不破求は大きく頭を下げながら、手提げ袋を雄太に差し出した。中に入っていたのは、ブラックコーヒーの缶十本である。その唐突勝つ意外な贈り物に子どもたちは首を傾げ、下戸の総司は奇妙な笑い声を上げ、雄太はそれにつられて笑顔になった。


「それにしても今日はなぜまた」

「私の仕事が仕事な物で、息子には迷惑をかけているのではと思いまして」

「ってか龍二、今日お前誕生日だったような」

「ええ、昼間にはビーフシチュー食べましたよ」

「そうか、おめでとう」


 無論、ジャンこと伊佐新次郎のそれと同じにするべく捏造された誕生日である。もっとも、それだとしても龍二は嬉しかった。インキュバスさえも祝ってはくれなかった自分の誕生日を喜んでくれる存在、それがありがたかった。


「そうなの、大変ね。まあ上がってもらいましょ」

「そうですね」


 目をかけている生徒との邂逅で雄太が少し元気を取り戻したのを見るや、玖子は楽し気に手を振り門扉を開けた。


「ちょっと待てよ」

「何だい総司」

「今のうちって、人を上げられる状態じゃねえだろう」

「そうだったかしらねえ」


 ああ、やっぱりシッシッって追い払っていたのは羽虫じゃなくて俺たちだったんだ。総司が俳優らしく全力でため息を吐いて失望の意を表すのにも構うことなく、泰次郎に玄関の鍵を開けさせた。


「おかしいなー」

「何がです?」

「お恥ずかしながら、朝から虫が湧いていて」

「それで何か変なのもいたんだけど」

「見えませんよ」


 だがそこには羽虫も、化け物もいなかった。龍二は家主たちに同調するかのように首を大きくかしげながら、求に目配せをしていた。

(予想以上の戦果だな)

(そうでなければ財宝ではございませんから)

 伊佐玖子と言う存在の予想以上の財宝ぶりが、二人とも嬉しかった。どうせ肉体的能力などたかが知れている六人の男女しかいない以上、すぐさまこの財宝を取り出しても構わないかもしれない。だが玖子には、まだしてもらわねばならない事がある。

(それにしてもこの世界で見つけた最高の財宝が、勇者の一族とはな)

(幸運かもしれませんね)

 あの二年間の戦いで、ジャンは多くの自分たちの仲間を斬り殺して来た。そう、自分たち魔物の仲間を。その事を焚き付けてジャンへの憎悪をあおり、そしてジャンを非難させて戦意を削ぐ。それで改めて魂を奪い取り、サキュバスに突っ込んで弱ったジャンを討たせる――――そのたくらみを覆い隠しながらソファーに座ると、財宝はきれいな笑顔をしていた。一方で由美は不満にほおを膨らませながら、台所の方を見ていた。


「本当にいたのになー」

「由美ったらもう、本当におかしな子なんだから」

「おばあちゃんの認知症!」

「えっ」


 由美の認知症と言う単語に反応したのは、不破父子だけだった。


「ちょっと由美!」

「だってそうでしょ、ずっと新次郎おじさんの」

「だから誰それ?」

「お父さんの弟で、総司おじさんのお兄さんの!」

「え~?」


 心底から不思議そうな顔をする玖子、この二時間半で六回もして来た顔だ。まるで何も知らないかのように六歳の孫より無邪気な表情になり、そんなバカな事を言うからおばあちゃんおかしくなっちゃったのよと宣伝する。触れてはならない事を実感させ口を閉じさせようと言う、呪文封じ。魔王の息子さえも、その手腕に感心していた。


「あの~申し訳ありませんけど、まさかうちの息子の創作実話を」

「ええ、聞いてますよ」

「いやですねえ本当に。教師と言う職業も大変ですからね、ストレスを晴らさないとやっていられないのでしょう」


 これまで幾度も、新次郎の自殺を知って温かい言葉をかけようとした人間はいた。その度に玖子はマスコミに言ったのと同じようにもう済んだ事と流し続け、あまりしつこくなると新次郎の高卒後の一年間の引きこもり生活と最後の二年間のニート生活を出汁にしてそんな人間を尊敬するのかと言って口を閉じさせた。ショックで頭がやられていると言うにはそれ以外はまったく支障なく過ごしている玖子の存在を認識した隣人たちは自然と新次郎の話題を避けるようになり、玖子の思惑通りに新次郎の存在は薄れて行った。


「まあ伊佐先生、私もこういう商売をしていると偏見が多い物ですからね」

「どんなお仕事です?」

「まあわたくしホストクラブで会計の方をやらせていただいておりますので、まあ人が足りないので時には御接客の方もいたしますがね」

「それでおいくつですか?」

「今年で四十二になります。逆サバとか言われますが、四十二は四十二ですからね」

「あらまあお若いですね」


 ホストらしい、柔らかな腰付きと身のこなし。そして柔らかなせりふ回し。そして、龍二さえも感知できないほどのわずかな淫気。それらの力を持って、インキュバスは玖子を支配し始めた。


「それで雄太、この龍二君ってのはどんな生徒さんなんだい?」」

「私も忙しい物で龍二のことをよく把握していないのですよ、どうなのですうちの龍二は」

「そりゃまあ、成績も運動神経も抜群で、ってまあ成績の方はまだテストをやっていないのではっきりとは言い切れませんが。授業態度も良くていい生徒ですよ。ただ……」

「ただ、なんです?」

「恥ずかしながらご存知の通り当校の前教頭が先月自殺すると言う不祥事が発生しまして、それで校内が荒れておりまして、それで」

「いじめでもあったんですか」

「ええ……でもまあ龍二君は問題ないんですが」

「そうだよ、父さん」

「それでその前の教頭先生ってのは」

「素晴らしい方でしたよ、是々非々の区別のつく方で。雄太もずっとお世話になって来たんですがねえ……どうしてああなっちゃったのかしら」


 雄太がこの家庭訪問めいた状況に乗っかったのは、別に新次郎の事をあきらめたからではない。単なる職務の一環でもあり、気分転換を図るためでもあった。あるいはこの中で、何らかの作用が発生して玖子が新次郎の事を考えてくれるのではないかと言う期待。とどまっていても何の進歩もないだろうと言う思い、死ぬまで母親がたいした罪もないはずの弟を恨み続けるような真似をしてほしくない気持ち。

(血脈って奴も侮れないもんだね)

 これで目を覚ますような存在ならば、財宝ではない。財宝はどこまでも純粋なればこその財宝であり、不純物と混ざってしまっては困る。金が銅よりずっと価値が高い扱いをされているのは純度が高く単独で存在しうる事が多いからであり、銀でも銅でも純粋な種類のそれの輝きは決して侮れない事を龍二は知っている。その財宝に不純物を混ぜ込もうとしている伊佐雄太の戦いぶりは、ジャンのそれを思わせるには十分だった。


「あの席にいた男性から話を聞いた所に因りますと、何でも急に五人の男女の過去の姿が現れたとか」

「百人単位の証人がいますからね」

「まったく、どこの誰かしら何を今更」

「地獄と言う言葉も安っぽくなった物ですね」

「まったくその通りですよ。まさか総司、地獄に落ちてくれたと喜んでるんじゃないでしょうね」

「あのなあ」


 まったく非現実的なやり方にして、あまりにも突発的な断罪行為。もし地獄と言う言葉が生きていたら、下手人もそんな事をする必要はなかったかもしれない。まず小手先の欲望と嫉妬だけで他者を冤罪にかけるような真似もしなかっただろうし、そのまま安穏と生涯を送った所で死後地獄で責め苦を受けるのだろうと思えば腹立ちも紛れる。ある意味ですごく便利かもしれない言葉だった。だがそれが簡単に使われ続けた事により言葉がすり減ってしまい、説得力を与え地獄を大きく見せていた宗教の力も弱っていた。


「まったく、他人の不幸を願うような子どもは嫌いよ」

「冤罪をふっかけたような奴を好きになれって、それこそ人間じゃねえよ」

「反省してないと思った訳?」

「ああ思ったよ、それだって百人単位の証人がいるぞ。百人単位の人間がいっぺんに幻覚でも見たって言うのか母さんは」

「さっきから言ってるでしょ、あなたの事は幾度も抗議したって」

「俺じゃねえだろ」

「伊佐さん、この子ったら次の舞台に」

「新次郎兄さんの話だっつーの!」

「次の舞台の主人公新次郎って言う名前なんですけどね」

「ディッシュマンズだよ、次の舞台は!」


 雄太が這いつくばってでも戦おうとするように、総司も激しく戦っていた。蟷螂の斧かもしれないが、それでも果敢にこの強敵に向かっていく。この十数秒の間に改めて、総司が勇者の弟である事を龍二は実感していた。もしこれが地球人のスタンダードだとしたら、案外この地は有能な鉱山ではないかもしれない。


「何ですかそれ?」


 そこまでの事を瞬時に考えながら龍二が首をかしげてみせたのは、芝居ではなかった。ディッシュマンズは再びミュージカル化されることにより一応耳目を集めてはいたが、現在の市場はピーク時より桁が一つ減っていた。それだけ怪物コンテンツだったのは間違いないのだが、今の高校生には過去のそれだった。


「もう、せっかく人が見栄を張ってるのに」

「そうか、ジェネレーションギャップって奴か。なあ義姉さん」

「総司さん、いち漫画家に対するヘイトを公言してるような人にそれ言っちゃダメだと思うけれど」

「うちの夫の会社の経営を脅かし、私たちの生活をも脅かした存在を嫌って何が悪いの?」

「まあねえ、私だって憎んでいますよ。妻を奪った相手を」

「そうですか!それでどんな相手ですか、事故ですか、殺人ですか」

「病気ですよ」

「ああそうでしたか」


 自分の力のほどを、龍二もインキュバスもわかっていた。多少は強化されたかもしれないが、ジャンに敗れたアフシールから比べればまだ弱い。だから、本当に財宝が財宝であるか否か、用心深くなっていた。そして、この時改めて確認した。


「たいへんお邪魔いたしました。どうかこちらは皆様で召し上がってください」

「ああ……」

「ちょっと総司!せっかく贈り物をくれた相手に何なのその言い種は!」

「二人には礼を言いたいよ、それより母さんはいつになったら新次郎兄さんに向き合ってくれるんだよ、だから俺にも雄太兄さんにも逃げられるっつーのに!」

「このワーカホリック!」

「仕事とプライベートの区別ぐらい付いてるっつーの!」

「お客様の前で何をやっているんだ、おい玖子」

「三十六年間ずっと企業戦士のあなたが不甲斐ない引きこもりニート男が好きになるだなんて、何に目覚めたんです?」


 客を目の前にしての親子ゲンカを、誰も止めようとしない。泰次郎が止めにかかろうとしてもなお、強引にくっつけられた新次郎の三年間を振りかざして薙ぎ払う。これもまた、この二時間で四度目の光景だった。


「あの……」

「ああすみません、それではお二人ともお元気で」

「では、ぶしつけながら外までお見送りに来て下さると」

「それは無論です、さあみんな一緒にお帰りなさい」


 この時、祐樹だけが二人の怪しさに気付いていた。これほどまでの醜い内輪もめを見ながら、笑っていた二人の。もっとも笑っているとは言ってもほんのわずか口角を上げた程度だったが、それでもその気になれば見抜ける程度ではあった。だがその気力がもうほとんど他の五人にはなく、そして玖子はお上品なマダムを演じるだけで精いっぱいだった。







(いよいよだな!)

(そうですね!)

 この世界に流れ着いた時はホームレス同然の状態であり、そこから魔力を使って不破求・不破龍二と言う戸籍を手に入れ、そしてホストと高校生と言う身分まで作り上げた。インキュバスにとっては何と言う事のない暇つぶし同然の流れ作業、苦痛とか言う前に退屈でしょうがなかった。それでもインキュバスは食い扶持を稼ぎながらアフシールJr.の復讐のための手伝い、邪悪な魂を集めるための戦いをして来た。全てはこれからのため、主のため、わが妻のため。

(サキュバスよ……お前は最後まで魔物として誇り高く戦い、誇り高く散った。そのお前の力を、もう一度だけ私とアフシールJr.様に貸してくれ!勇者ジャンに敗れしお前の無念、私とアフシールJr.様が晴らす!)

 アフシールJr.も同じだった。この世界で家臣であるインキュバスにおんぶにだっこの、この世界でいう所のニート同然に成り下がってその家臣が持って来るお金と食事に縋り続けるしかなくなっていた屈辱。それを今さらジャンにぶつけるつもりなどはないが今度は自分たちがやってやらねばならない。かき集めた魂、残った魔物の肉体すべてに注ぎ込めるだけの魂を手に入れた今こそ、ジャンとの決着を付けなければならない。勝つか負けるかはこの際どうでも良い、魔王の息子としてやらなければならない宿命。

(ジャン…………あの時の僕自身の無念、父上の無念、晴らしてやる!)

 二人は玖子たちに向かって下げていた頭を大きく上げると同時に、両腕を大きく上げ首も上に傾けた。そして二人にしか聞こえない声を口から出し、自分たちと伊佐家の人間たちを覆う柱を作り上げた。


「あっ!」

「何ですかいきなり!」


 そうやって真上を見上げながら声を出した不破龍二に釣られるかのように伊佐玖子も声を上げたが、その途端に彼女たちの体に異変が起きた。足が地面から離れ、浮かび上がり出したのだ。だがその実感があったのはごくわずかであり、気が付くと九人はそっくり柱の中にいた。


「急ぐぞ!」

「はい!とりあえずは」

「よし」


 七人の人間は不破龍二ことアフシールJr.の魔力により眠りに落ち、アフシールJr.とインキュバスと共に柱の中を飛んで行った。




 ※※※※※※※※※※※※※※※※




「あっ!あれは!!」

「もはや一刻の猶予もねえ!」

「そうです、止めて見せねば!」

「ハーウィンは勇者様を呼んで!」


 その柱を視認できたのは、彼女たちだけだった。そしてその柱の中に七人の一般人がいた事を視認できたのも、彼女たちだけだった。その柱の正体をすぐさま看破した三人は少し飛び退いて距離を空け、その上で近似した性質の柱を作った。コーファンが3、あとの2人が1ずつの力で作られたこの柱を飛び、もう一方の柱の先にいる存在を三人は追いかけた。


「間に合うか」

「あなたの力なら間に合うでしょうが」

「もう戦いは避けられないよ、勇者様を頼むよハーウィン!」

「わかった!」


 ハーウィンがひとり速度を上げもう一つの世界、ディアル大陸へと飛ぼうとする。柱の中に漂う遺物を薙ぎ払ったり避けたりしながら、コーファンとトモタッキーはもう一つの柱を追っていた。勇者の故郷での戦いにはなりそうもないと言う安堵もあったが、それ以上に勇者の家族を巻き込んでしまったという焦燥と無念さもあった。

(勇者様、万が一の時は私が仕留めます)

(何と言われても、私たちだけはあなたの味方であり、捨て駒にもなります!この身をもって責任を取りますゆえ!)

 魔王が勇者の一族を人質にするかもしれない――――その際には自分たちがその責務を取り一族を奪い返す、叶わねば首を渡しても構わない。コーファンもトモタッキーも、そしてハーウィンも悲壮な覚悟を抱いていた。


 アフシールJr.とインキュバス、そして三人の妖精。その力は日本の閑静な住宅街に並列に二本の柱を作り上げ、五人と七人の存在を消した。不思議な事に、その消えた瞬間を見た者はひとりもいなかったし、途中で切れている柱を見た者もまたしかりだった。異変と言えばわずかに二、三羽の鳥が驚いて墜落しそうになった事だけである。

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