第6話 3日目最終7レース、A級決勝戦
近いのに走り慣れていない松戸競輪場、33バンクでの決勝戦。
師匠は小松島競輪場に所属だ。僕も、もともとは小松島競輪場に所属していたが、実家に帰った都合で、千葉競輪場所属に変更していた。
緊張すると思っていたのは、6レースが終わるまでの間だけだった。緊張もなにも、今日は決勝戦なのだ。6レースまでの結果も、明日のことも、なにも考えなくていいのだ。勝つか負けるか、ただそれだけの話だ。
僕は、今日は絶対に逃げ切り勝ちで決めてみせようと決心していた。そして、師匠に番手は取らせないぞと言い切っていたから、師匠がくっついてくる心配もなかった。
大きな牽制の入ったS取りに失敗して6番手スタートになってしまったが、師匠がS取りをしていて、マーク屋があの位置で行けるわけがないと、少し微笑みながら走った。
打鐘でも誰も動かず、一本棒のまま最終バックストレッチに突入しそうだったので、僕は急いで踏んだ。33バンクとは、こうも短いのか、と思った。打鐘からホームストレッチまでの距離が短すぎて、慌てた。師匠が逃げてしまう、どうしよう、と焦った。
僕は本当に珍しい捲くりでの優勝をするには、距離が足りないことを感じていたが、必死で踏んだ、踏んだ、踏んだ。師匠の背中に追い付いた。
だが、現実は甘くなかった。
追い付いたその場所は、ゴール線の真上。
1車身差で、師匠の逃げ切り勝ち。
師匠は新人時代以来の逃げの決まり手を手土産に、S級へと戻って行った――
メロンと呼ばれた男 番外編 天照てんてる @aficion
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