#8 えあほっけー

「みんなで何処か旅行に行かない?」


僕はみんなに、そう提案した。

結果は、全員賛成だった。


旅費とかは、なんか、彼女らも少しお金を分け合って出すみたい...。

収入源は不明だが。

そして行く時期は話し合いをして、お盆の時期になった。


8月に入り、旅行の1週間前。


僕らは以前にもまして、信頼度が上がった気がする。

彼女らと僕の溝も深まっているような感覚を自分でも感じていた。


コンコンと部屋をノックされた。

(この叩き方はアイツだな...)


そう、扉を叩く音で誰がやって来たのか識別できるようになった。


「はい」


「ねぇ、春弥さん。どっちの服が私に似合ってると思う?」


(いきなりファッションチェックか...)

ジェーンだ。相変わらず僕を彼氏扱いするのには変わりない。


僕は彼女を傷つけない為に少しだけ合わせている。

服を掲げる彼女に対し。


「僕はどっちの服でもいいよ。どんな服着てもジェーンは似合うよ」


そう言うと彼女は嬉しそうに満面の笑みを見せた。


「うれしい!」


「あはは...」

(毎回褒めないとヤンデレモードになるから面倒臭いんだよな...)


「確か海ですよね!水着楽しみにしててくださいね!」


そう言い残し部屋を出て行った。


「水着って...、あんたらもともと水の生物だから日常から水着来てるようなもんじゃね...」


コンコッ....


この後半力の無くなるノックの仕方はフルルだ。


「ねぇー、ハルー」


僕の事を”ハル”と呼んでくるようになった。


「どうしたー?」


「荷物が入らないー」


「もう荷造り始めてるの...」


そう言って手で押さえているキャリーバックを僕に差し出した。


「ごめん、中開けるね」


仲を見ると大量の菓子が入っている。


「おいおい...、こんな量どうするの。1か月間いるんじゃないよ?」


「えー?だって、これは朝のおやつでしょー、昼のおやつでしょー、本当のおやつに....」


「おやつタイムが多過ぎるよ...。じゃあ、フルル」


僕は中くらいの大きさのビニール袋を取り出した。


「この袋が満杯になるまでおやつ持って行ってもいいよ。約束できる?」


「あ...、うん!わかったー」


「バック持ってくの手伝うから!」


フルルは世話の焼ける奴だ。




旅行前日。


「どうもありがとう」


プリンセスは藪から棒に、そう礼を言った。


「海が思い出の場所なんでしょ?僕もせっかく、君たちと会えたからね。

恩返しみたいなものだよ」


「本当に嬉しいわ」


「...差し支えなかったらでいいんだけど」


「なに?」


「...、いや、やっぱいいわ」


まだ、パンドラの箱を開ける気にはなれなかった。

そういう勇気が僕には足りない。




旅行当日。


みんないつもと違う服を着ているせいだろうか。いつもと雰囲気がだいぶ違う。新鮮だった。

僕らは駅へ向かった。





3時間後、車窓には海が広がる。

特急列車から駅に降り立つと心地よい風が吹き当たった。


有名な観光地、古臭いフォントで書かれた温泉宿の羅列がいい味を出している。

僕も初めて来た所だが、いい雰囲気の場所だ。


駅から移動し、ホテルのチェックインを済ませた。


海が見渡せる広めの和室だった。

到着も束の間。


「ゲームのところいきたーい」


「しょうがねぇなぁー。フルル、俺がついて行ってやるよ」


フルルとイワビーはそう言って出て行ってしまった。


(ほんと自由奔放だなぁー)


「春弥さん!後でお風呂行きましょう」


「ちょ、それはマズイってジェーン...」


手を横に振るが、


「公衆の面前じゃないですから、安心してください」


(クソッ!!ユニットバスめっ...!!)


「おい、春弥嫌そうな顔しているぞ。

対して付き合ってもないのに、混浴などふしだらだぞ」


コウテイが父親みたく一喝する。


「私と春弥さんは婚約者です」


「何時からぁ!?」


「何で保護者面するんですか?対して私の事も知らないくせに。

私の春弥さんを取りたいんですか?奪い取りたいんですか?

無駄ですよ?春弥さんは私の中に」


ヤンデレモードに入りかけてる彼女にブレーキを掛けるべく、


「ここここ、コウテイ。いや、僕はぜぜ、全然大丈夫だから。

自分の身は、自分で守るから。いや、なんもしてないから、本当に...」


だいぶ動揺しながらであるが半ば言い訳の様な弁明した。


「....、まあ、春弥がアイツを好きなら別にいいが...」


何故か曇ったような顔をコウテイは見せた。

曖昧な表情はやめてほしいものだ。


少し部屋の空気が悪くなったので、僕はある提案をした。


「ぼ、僕たちも、どこか出かけようか...」


下のフロアに降りゲームコーナーを覗く。

イワビーとフルルがいるはず...。


「畜生!どうして勝てねえんだよっ!」


「イワビーよわいー」


その声でわかった。

どうやらエアホッケーでイワビーがボロ負けしたみたいだ。


「おっ、みんなー!聞いてくれよ、フルルがクソ強くてムカつくぜ」


「イワビーが弱いだけでしょー?」


フルルに煽られて悔しい気持ちはよくわかる。


「よし、じゃあフル...」


「春弥さんと1対1はズルいですよ!」


「ジェ、ジェーン!?」


「ダブルスにしましょう」


「なら、フルルも誰かと一緒にやった方がいいんじゃないかしら」


プリンセスが提言した。


「じゃあ、トーナメントしよーぜ!」


何故かここに来て、エアホッケー大会が開催された...。




「こっちにはホッケーマスターフルルがいるんだぜ?」


「いくら名人を据え置いたとしても、こちらには愛の力がありますから」


「何だよ愛って!」


「それじゃあロックに行く...」


バシィッ!!


「な、な...、なんだ今の!?」


「打っただけだよ~」


「流石ね」


ジェーンが球を取り出しながら言った。


「え、あ、あ、あんな速いのを?」


「動揺しちゃダメ、行くわよ」


「何を!?」


急に俺の手を取った。


「必殺...、ラブ・ア・ライブッ!!」






「あ、あ、あ...、ウソだろ...」


イワビーは言葉を失っていた。

フルルも唖然としていた。


「たかが、ゲーム...。そう思ってないですか?

何で負けたのかじっくり考えておきなさい」


「す、すげぇ...。僕何もしてないけど...」

(愛の力ってすげぇ...)


決勝戦


「先輩方には負けませんよ。愛の力の前では無力です」


「ラブパワー何時まで貫き通すの!?」


「そちらが愛ならこっちは友情で行こうか?プリンセス」


「ええ、いいわよ。久々ね、なんかこういうの!」



コウテイとプリンセスのコンビは中々に強く、勝負も拮抗した。

3分間の勝負、一筋縄に得点が稼げない。


結局、勝負の結果は...。9対9の引き分けだった。


「ハァ...、つ、疲れたよ...」


「中々良い勝負だったな」


コウテイが言った。


「こんなゲームでここまで盛り上がれるとはね...」


プリンセスも息を切らしていた。


「まあ、春弥さんと私が結局一番強いってことで...」


「いやどういう理屈だよ...」


高校の修学旅行を思い出した。




この後、ちゃんと別々に温泉に入ったり、夕食を終え、

意外と移動等で疲れ、さっさと布団に入って寝る。


だが、6人で寝るのは流石に狭い...。


(ジェーンのせいで寝返りが打てねぇ...)


「フフッ!春弥さんと寝られて嬉しい!」


小声で囁く。

僕の右腕にしがみ付いている。


「あ、はは...、あの...、ジェーン、あんまくっ付いてると

夜中にどうしても急用が出来るかもしれないから...」


「...」


「...ね、寝た!?」


...楽しい旅行になりそうだ。

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