#6 げーむたいむ

コウテイは自分の部屋にある人物を呼んだ。


「なあ、ジェーン...」


申し訳なさげに控えめな声を出した。


「春弥さんの事でしょう。

何故あなたが首を突っ込むのか」


「聞いてくれ」


彼女の肩を押さえつけた。


「私達は...、アイドルだろ?

男を弄ぶような存在じゃないだろ?」


「...ふっ、まだそんな戯言を言ってるんですか?」


「私達は、みんなを楽しませるのが...」


「私はもうアイドルなんて辞めたんです。

普通に恋して、普通に幸せになる。

そう決めたんですよ」


「普通って...、君は...!!」


「異常?」


「...」


「ふざけないでもらえます?

あなたは“過去”に縛られ過ぎです」


言葉を失い、顔をまじまじと見た。


「折角この“身体”を手に入れたのに...。

使わないなんて、勿体無いったらありゃしない。少しは、あなたも楽しんだらどうですか?そんな戯言忘れますって。私よりも“良い物”をお持ちですし」


クスッと微笑んだ。


「私は私なりに、やりますよ。

春弥さんについてもね。今度口出したら、許しませんよ」


「お前って奴は...」


「覚えといてください...、先輩」


ジェーンはそう言い、部屋を出て行った。


「...変わったな」


重い溜息を吐いた。








休みの日。

一同が集まる時はなんか気まずい。

特に僕とジェーンだけど...。


そんな昼食を終えた昼下がり。


「なあ、春弥」


イワビーが声を掛けた。


「何か...?」


「今暇か?」


「ああ...、時間は大丈夫だけど」


「一緒に遊ぼ~」


フルルがリビングのソファーから顔を覗かせて言った。


すると...。


「楽しそうですね!私も混ぜてください」


…自称味方のジェーンも入って来た。


僕は左をイワビー、右をジェーンに挟まれる形でソファーに腰掛けた。

ジェーンが腕を絡ませて来るのは幻だろうか...。


フルルが始めたのは意外にもレースゲームだった。ゲームなんてするのかと、感心した。


コントロールを握るのは何年ぶりだろう。

小学生か中学生の頃、友人宅でやったくらいだ。ウチじゃ専ら握るのは包丁だった。


最初は最新機の性能に戸惑うものの、

徐々に慣れる。しかし...


「まーたフルルが1位かよぉー...

すげーなお前」


「やったあー」


感情のこもってない棒読みの歓声。

彼女らしい。


「というか...、ジェーンさん。

僕とピッタリ併走すんのやめないんですか...?これレースゲームですよ?」


「何だっていいでしょ?」


若干キレそうな口調で、怖気付いた。


「は、はい...」


それから数レース行われたが...


「全試合1位だよー!」


「クソ惜しいなあ...、俺ずっと2位じゃん...」


「あの...、ジェーンさん。

アイテムはあくまでも他の人を妨害する物であって、僕を引き止める為に使う物じゃ...」


「何か問題でも?」


ヤバい。心の奥底にある殺意をグッと堪えてる様な言い方だ...。


「す、いや、何でもない...」


「ったく、春弥は女に弱いなぁ」


肘で突きつつニヤけた顔を僕に見せつけた。


「馬鹿にすんなよ...」


「いじけた顔も良いわね」


小声で囁かれ、少しゾッとした。


「...」


ジェーンは元からそういう奴だと割り切ればいい事だ。つまり、妥協だ。

そんなこんなで久しぶりに楽しめた休日だと思う。


しかし、改めて思う。イワビーは良い奴だ。


他の子と比べ男勝りな所があるせいなのか、気楽に話せる。

そして何より、ベタベタしない。


もしも...、仮の話だ。

もし、誰かにこの5人の中で付き合うとしたら誰が良いか尋ねられたら...。

僕はイワビーと答えるかもしれない。


だが、それはあくまでも仮定の話だ。

彼女も何か裏があるのに違いない。

ここの家の奴らは何かがおかしい。

元々だけど。


とりあえずジェーンとは、

上手く距離感を保ちつつ、付き合って行くしかないか。


でも、僕としては、みんな対等に、

みんな平等に仲良くしたい。

これでも、1つ同じ屋根の下に住む家族だ。今度はみんなでやれるゲームをしたいな。


そう思いつつ、今日を振り返り、眠ろうとした時だった。


携帯の着信音が鳴った。

番号は不動産屋だ。どうしたんだろう。


「もしもし?」


『ああ、日野さん。夜分遅くに申し訳ありません。あなたの家の事で少し、調べてみたんです』


「家の事で...?」


『はい...。あの、今現在、その家の建っている場所はかつてアパートがあって学生が借りていたそうです』


普通の話じゃないか。

その時はそう思った。


『ですが...、学生は住んでいなかったようで』


「どういう事ですか?」


『私も大家さんに聞いただけなんですがね。とある大金持ちの高校生のお嬢さんが、部屋を借りていたそうです。

何かに使っていたみたいですよ。でも、

そのお嬢さんが今何をしているかはわからないそうですけど...』


「金持ちの女子高生が住んでもないのに

部屋を借りていた...。そういう事ですね?」


『ええ』


「でも、ペンギンと何ら関係ないですよ」


『無いようで、実はあるんです。

じゃなきゃ夜中に電話しません』


「なんですか?」


『その女子高生はダンス部に所属していて、グループを作っていたそうです。

メンバー1人1人にペンギンの名前をニックネームで付けていた...とか』


(ペンギンの名前をニックネームで...?)


『私が調べられたのはここまでです。

探偵が本業じゃありませんので』


「...いえ、ありがとうございました。

特に問題は今の所無いんで」

(長髪のペンギンに殺されそうになったけど)


『また、何かあったら連絡します。

夜遅くにすみませんでした。おやすみなさい』


そうして通話は終了した。

僕はスマホの通話画面から、マップのアプリを開いた。


今の家から北に数百メートル。


「...まさかな」


その地図記号を見て、1つの可能性が浮かんだ。


ダンス部所属、大金持ちの女子高生が、

以前この家が出来る前、住む訳でも無いのに部屋を借りた。しかし、彼女は音信不通

ダンスグループの...、メンバー。

そして...。






「俺はアイツに手なんて出さねーよ。

それはお前がよく知ってる事だろ?

ジェーン」


他人ヒトは何を考えてるかわからないから、一応、念の為」


「お前が一番変わったよ...」


「先輩にも言われた...」


「...そうか」


「もう寝るね」


「ジェーン」


出て行こうとした時、呼び止めた。


「偶にはフルルと遊んでやれよ。

お前が一番アイツと仲良かったんだから」


「...ええ」


バタンと扉を閉めた。

ベッドに仰向けになり、天井を見た。


「ロックに行くぜ...、か」


そっと、瞼を閉じた。

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