#5 あなたのみかた

何か色々あり過ぎて、疲れが抜けきらない。

本当は、この部屋から出たくないが仕方がない。学校だ。


リビングに行くと。


「おはようございます」


上品な笑顔で、挨拶する。

僕の"唯一の味方"だ。


「今日は春弥さんの為に早起きしてお弁当を作ったんですよ」


「べ、弁当?」


「みんなに見つかるとまずいので、先に渡しておきますね」


そう言って、弁当の袋を渡した。


「ああ...、ありがとう」


僕は彼女からの弁当を携えて学校に向かった。









学校での昼飯時。

恐る恐る蓋を開けた。


「なっ...」


その弁当を見て言葉を失った。

真っ黒になった卵焼きとウィンナー。

何故か変色しているブロッコリー。

コメはカチカチだ。


試しに、卵焼きを一口。


「...」


食を扱う者として、捨てるという行為はご法度だ。

コイツはどうしよう。


(後で考えておこう...。帰りに何か飯屋でも寄って行こう)









「ただいま...」


「春弥さん」


玄関で待ち構えていたのはジェーンだった。


「ど、どうしたの?」


「私のお弁当は美味しかったですか?」


「そりゃあ...」


そう言いかけると、腕を掴み、リビングの方に引っ張って行った。

女子なのに力が強い。


キッチンの方に連れて行かれた。



「あなたは私の弁当を食べずに、猫にあげてたでしょう?

それに、帰り道うどん屋さんに入って行った」


「な、なんでそれをっ...」


「言ったでしょう。私はあなたの味方だって」


キッチン下の収納棚の扉を開けると、

外側にある包丁を取り出した。



「ちょ、ちょっと待って!やめろお前!マジで洒落になんないって!

謝るから!ごめんなさい!」


「私はあなたの為なら何でもするし、何でもできる...。

そのことを忘れないでください?それと...」


「はい...」


「私のお弁当食べてください」


彼女は弁当のおかずを盛りつけた皿を、冷蔵庫から取り出した。

僕は唖然として見つめた。


「春弥さんったら...、いいですよ、特別ですからね」


食器棚から箸を用意する。そして。


「はい、あーん...」












夜、僕は自分の部屋で震えていた。


(ああ...。もう、どうすればいいんだよ...。何が味方だ...。アイツも、僕を...)


コンコン


「春弥...、入れてくれないか?話をしたいんだ」


その声はコウテイだった。


「...なんだよ。勝手にしろよ...」


扉を開ける。


「...すまない」


彼女は正座をした。


「ジェーンが強引にやってきたんだろう。

嫌だったら嫌って言ってくれ」


「アイツにそれが利くかよ」


「...」


急に黙り込んでしまった。図星だったのか。


「君はどうなんだ。僕のことをどう思ってる」


「いい人...。ジェーンの様には思っていない」


「僕は...、どうすりゃいいんだ?

誰を味方にすりゃいいんだよ...」


彼女は大きく息を吐いた。


「私達は...、アイドルだった。

アイドルとして...、やっていくつもりだった。

だが、それは昔の話だ」


「アイドル?」


「私はリーダーとして...。

これ以上春弥に迷惑を掛けてはいけない」


「どういう意味だよ...」


「私は、彼女たち全ての行為行動に責任を持つ。

心配しないでほしい。私が言いたいのは、それだけだ」


そう言うと、彼女は立ち上がって部屋から出て行った。


「...コウテイは、何をするつもりなんだ?」


独り言が部屋に虚しく響いた。

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