#3 どーなつのあじ
引っ越してから2日後、今日から学校だ。
実は入学式は前に終えてある。それから、部屋を見つけた。
学校の予定を書いた紙を冷蔵庫に貼った。
昨日、不動産屋に電話をしたのだが、留守電になっていた。
普通に日中だったのに。
あの主人が死んでるという事が...、無いことを祈るまでだ。
ペンギン人が住んでいる時点で相当やべー家だが...。
今更、引っ越しも出来ない。
「ねえ、春弥くん」
出掛ける前にフルルが僕の袖を引っ張る。
「どした?」
「フルルねー、ドーナツが食べたいのー!」
甘えた声で言う。
僕の方が身長が高いので、自然と上目遣いになる。
精神年齢が低そうだし...、別にそういう趣味じゃないけど、
やっぱり、何というか...、女の子の頼みは断りにくい。
「うん、いいよ」
「ありがとう!いってらっしゃい!」
「...フルル、ちょっと1時間くらい出かけて来る。
みんなにそう伝えておいてくれる?」
「いいよ、ジェーン」
今の家から学校までのルート。
商店街を抜けて、駅に行き、電車で3駅だ。
そこから徒歩で6分程。
家から駅までは、10分程掛かる。2、3km程かな。
駅に行くまでの道のり。
変な違和感があった。
「...?」
誰か後ろにいる...?
「気のせいか...」
(きっと、事故物件引いちゃったからな...。
過敏になりすぎてんだろうな...。もっと気楽になれよ...)
気にせず駅の方へ向かい始めた。
学校の午後の授業中。
「ねえ、日野君」
そう小声で声を掛けてきたのは
今日の一限からたまたま、席が隣になった。
「ん?」
「日野君ってどこ出身なの?」
「福岡の北九州って所...」
「やっぱり...」
彼女は口元を手で隠し、笑いを堪えてる様だった。
「...?」
「ごめんね、いや、全然悪気はないんだ。
ちょっと、イントネーションが独特だったから...」
「そんな目立ってた?」
「いや、本当にちょっとだけだよ!別に悪くないよ。新鮮で良いよ」
都会人に揶揄われるのはあまり、心地よくないが...。
まあ、悪く言っている訳じゃないし、気にするほどでもないか。
彼女は決まりが悪いのを悟ったのだろう。別の話題を振った。
「上京してきたんだね。今どこに住んでるの?」
「学校から、20分くらいの所。すぐ近くだよ」
「アパートとか?」
「えっと...、シェアハウス」
「えっ?同じ家に複数人が住んでるヤツ?」
知っているだろう言葉だが、何故か確認する様に尋ねた。
「ああ...、うん」
「へえ!珍しいね」
声を潜めて驚いて見せる。
「どんな人と一緒に?」
「うーんと...」
流石にペンギンと一緒に...、とは言えない。
「僕とあんま年齢変わんないかな。個性的な人たちだよ」
「そうなんだ...、今度見てみたいなぁ」
「ん?」
「あ、いや...、ちょっと興味があって...」
「どうだろう。無理じゃないと思うけど」
「い、今すぐじゃなくていいの。ちょっと興味本位で言っただけだからさ」
「僕は別に...。まあ何かあったら言ってもらえれば考えるよ」
「ごめん、ありがとう」
そんなやり取りをした。
自宅へ誰かを招くのは当分先の事になるだろうな。
授業を終えて、帰宅する。
(あ、ドーナツ買わなきゃ...)
「ただいま」
「おかえり!ドーナツあるー?」
フルルが飛びつく。全く、食べ物には目が無い。
「ああ、フルルには僕の分もあげるよ」
「ありがとう!」
心の底から嬉しそうにしてくれてるなあ。
買ってきたかいがある。
「春弥さん、私はダブルチョコドーナツで」
その声でジェーンが机に座って居た事に気が付く。
案の定、何かが入っているであろうカップが置いてあり、
何かの本を片手に持ち読んでいた。
ブックカバーのせいで何の本かはわからない。
(存在感ないなぁ...)
と内心でぼやきを言う。
「おっけ...、フルルはどれがいい?」
箱を開けて、見せた。
「これとこれ!」
「じゃあ、持っていくよ。座ってて」
皿を出し、フルルの分とジェーンの分のドーナツを盛る。
(...あれ?)
そこで違和感に気付いた。
確かに、ドーナツは6個買って来た。
その中でチョコのドーナツは1つだけだ。
(何でジェーンのヤツ、中身を見てないのに
チョコのドーナツが入っていることを知ってたんだ?)
ビニール袋に入れていたレシートを見る。
商品名は"ダブルチョコドーナツ"
茶色いチョコの上に白いホワイトチョコが
縞々模様にトッピングされている。
「...」
当てずっぽうで言ったのか?
それとも、食べた事があるのか?
朝の違和感、そして。
『ジェーンと個人的にあまり親しくない方がいい』
というコウテイの言葉。
(...まさか)
「まだー?」
フルルの声で我に返った。
「あーごめんごめん。今行く!」
(考えすぎか。ちょっとこんな家に住んでるから、
混乱してるだけだな...、うん)
卓上に皿を置く。
フルルは、嬉しそうに"いただきます!"と言うと、
すぐに食べ始めた。
ジェーンは本を畳むと、
「ありがとうございます。いただきますね」
そう述べて、ゆっくりと食べ始めた。
「お、お茶入れるよ。ジェーンはいる?」
「良いですか?お願いします」
やはり、そんな裏がある様には思えない。
気のせいだ。考えすぎだ。
じゃあ、コウテイは何のためにそんなことを言ったのだろう?
考えても仕方ないし、彼女らも一応は赤の他人だ。
詮索してプライベートを侵害するのも、申し訳ない。
今までのことを忘れて、僕は、お茶を入れにキッチンへと向かった。
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