#2 じこぶっけん

不動産屋の勧めで家賃2万円の超激安

シェアハウスに引っ越した俺だったが、

なんとその家にはペンギンが人間になった女の子が住んでいたんだ。


とんだ事故物件じゃないか!


目の前の状況が未だに把握出来ない。


「あれー、ごはん食べないの?」


確か、フルルだっけかにそんなことを言われる。食欲失せまくりだよ。


「なあ...、ちょっと待ってくれ。

いくつか質問したいんだけど」


頭を片手で抑えながら言った。


「...君たちは人間?幽霊?

生きてんの?」


「私達はフレンズ。ちゃんと生きてる」


プリンセスが答えた。


「死んでたらメシが食えねーだろ」


イワビーもそう付け加えた。

確かに、そうかもしれない。


「だよなぁ...。

じゃあ、前の住民が引っ越してったのは何でだ?」


「私達は仲良くしたつもりですが、人によって受け取り方が違ったみたいで」


ジェーンが淡々と答えた。


「ヒトは何を考えてるのかわからない。

私達を見ただけで怖がる奴もいたしな」


コウテイの視線が俺の方を向く。


「ちょ、ちょ...、怖がってはないさ...

ただちょっと」


「不気味...?」


フルルが痛い所を突いた。


「んんっ...」


「まあ、いいわ。他人は他人よ」


プリンセスの一言が、かなりグサッと来た。

俺は出された朝食を食べたが、

やはり不味いわけではないがあまり入らない。


「食べないの?」


フルルが尋ねる。


「食べたいならやるよ」


そう言って皿を差し出した。


「...はぁ。俺ちょっと出掛けてくるから...」


そう声を掛けたが反応が無かった。


(冷たいっていうか...、最初のあたりが

ダメだったのか...)



今日は休みだ。

あの人達の存在がよく分からないが…、

お近づきの印を送った方が良いのかもしれない。


「うーん...、

あの子達何が好きなんだろう...。

ペンギンが好きな物...」


俺はこれでも、一応料理人を目指している。実家が食堂で幼い頃から親に色々教えられたし、高校の時は結構な頻度で料理を作っていた。


「...よし」


腕を振るって、見返してやるか。




食材を買った帰りに、ふと気になった場所に立ち寄った。

あの物件を紹介した不動産屋だ。


(あの怪奇現象の正体が、ペンギンの女の子のせいでしたって伝えたらあの人どんな顔するんだろうな...)


「あれ?」


不動産屋の前に来たもののシャッターが

閉まっている。


「今日定休日か...?」


だが、妙な気が...

まあいいか。


夕方頃戻った。


「ただいま...」


リビングに入ると髪の長いペンギン...

確か、ジェーンだったか。

右側にお茶の入ったカップがあり、テーブルで読書していた。


「...ああ、お戻りでしたか」


「どうも...。今日夕飯は俺が作るよ」


「そうですか...、プリンセスに伝えておきますね」


そう言うと本に栞を挟み、その場を立ち去った。


(何読んでたんだろう...、

というか、ヘッドホンしてんのに聞こえてんの?不思議だなぁ...)


「まあいいや...。こっちに集中しよ」


魚を出し捌き始めた。





気が付けば19時頃だった。


「...よしっ!結構作ったな...」


すると、タイミング良くフルルが入ってきた。


「わあ!おいしそー!」


「お近づきの印にね。

こんな物しか出来ないけど…」


「早く食べたいなぁ~」


朝食の時もなんか良く食ってた気がする。

そういう子なのか...。


「じゃあみんなを呼んでくれる?」


「いいよ!」


他のみんなも心を開いてくれると

いいな...。


後からリビングにやって来た4人は驚いた表情を見せた。


「これあなたが全部作ったの...?」


プリンセスが尋ねた。


「そうだよ」


「ねぇねぇ、早く食べようよ!」


フルルに催促され、みんな座る。


結構材料費だけで軽く1万は使った。

まあ、出し惜しみは無しだ。


声の大小はあったものの、“いただきます”

と、食べ始めた。



みんなの反応は最初は恐る恐る口に運んでいたが、ポツリと『美味しい』と呟きはじめ、俺の料理の評価は上々だった。



「エビフライおいしー!」


特にフルルは本当に美味そうに食べるから嬉しい。


「そう言って貰えて作ったかいがあるよ..

.、ところで君達は今まで食事とかどうしてたの?」


「朝みたく、プリンセスが作ってたぜ。

アイツ、卵焼いたのしか作れなかったから、久しぶりに美味いもん食えたぜ」


イワビーが言った。


「プリンセス...さんにも今度教えてあげるよ」


「あっ、えっ...、あ、ありがとう...」


「まあ、みんな、好きなだけ食べて!」


「おかわりー」


フルルが一番食べる。

こりゃあ今後が大変そうだ。


夕食を終えた後、俺は片付けは全部すると言い食器を洗っていた。その最中コウテイが話したい事があると言った。

手を止めて聞く。


「なに?」


「あの、ここの約束事なんだけどさ。

1つは私達の部屋は勝手に入らないでほしい。勿論、私達はあなたの部屋に入らない。2つ目は、誰かこの家に招待する時は私達に言って欲しい。それなりの準備をしなくちゃならない。最後に、出掛ける時は何処に誰と、何時間くらい出掛けるのか教えて欲しい」


落ち着いたトーンで話した内容。

1つ目や2つ目は何となくわかるが、

3つ目がよくわからない。


「えっと...、どうして僕がいつ出掛けるかってのを...」


「それがここのルールなんだ。

私達もそうしている」


(ペンギンなのに外に出歩くのか...?

まあ、確かにゴミ捨てとかもあるしな...)


「守って欲しいのはそれだけだ...。

わからない事があったらプリンセスに聞いてくれ」


「は、はぁ...」


まあ、一応理解した。

学校に行く予定を紙に書いて見せればいいか...。


「...そうだ、暮らす上で予め言っておく。ジェーンと個人的にあまり親しくしない方がいい」


「...え?ジェンツーペンギンの?

悪い事する様には見えないけど何で...」


そう口にすると、少し嫌そうな顔をされた。


「わ、わかった」


「悪いな...、おやすみ」


「お、おやすみなさい...」


彼女は右に曲がり、廊下の扉を開け、2階の自室に戻って行った。

その場に残されたのは、僕と、腑に落ちない言葉の言霊だけだった。


「一体...、どういう意味なんだ?」


もしかしたら、本当の意味での、事故物件

…なのかもしれない。


「洗い物済ませよ...」


現実逃避するかの如く、再度皿を洗い始めた。

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