意味など無い
クチナシ
生きている。
追いかけた。
財布を忘れたお客さんを追いかけた。
間に合わなかった。
彼女は軽自動車に乗って去った。
無人になっていたレジはお札が無くなっていた。
カウンターの中には、使用済み図書券と、集めても一万未満だろう小銭が寂しげに散らばっている。
下に落ちている小銭を集めた。
微々たるもんだ。
どうしたもんか。雇い主に話しても、信じてもらえるだろうか。
世の中、善人ばかりじゃない。
分かっているつもりだが、解っていなかった。
今日入荷の品出しも終わっていない。
あぁ、防犯カメラも付けていない。
家に帰りたい。
帰っても誰もいない。寂しい居場所に。
現実逃避だろう。帰っても誰もいない所へ行っても、寂しいだけだ。
帰ったら、したい事がある。
音楽を聴いて、音楽を聴いて、動画をみて。
ご飯を食べて、音楽を聴いて、酒を呑んで。
酒を呑んで、煙草吸って、酔いが覚めて。
現実を受け止められなくて、寂しくなって、どうしようもなくて。
帰ったら帰ったで、僕は何一つ楽しいし、面白くない。
結局、雇い主に電話して、叱られて、心配されて、
事情聴取など、未知な事あれど、いつも通りで。
「お前は結局、善い行いをしたんだ。報われるさ。おてんとさんは見ているぞ」
雇い主が慰めにも薬にもならない言葉をくれた。
やっていけない。
と思いつつ、二十八歳まで生きてきた。
なに食わぬ顔の僕は、今日もイラッシャイマセ。
お金を盗んだ奴は見つからず、事を忘れかけた頃、
僕は何一つ変わっていない事に気付いてしまった。
意味など無い クチナシ @KUTINASI
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
近況ノート
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます