Ⅲ
闇の中を抜け、辺りに広がるのは、部屋のいたるところで灯されたろうそくの明かりと、天井から下がるシャンデリアの明かり。白色に金の装飾が施された壁面には、何枚もの巨大な絵画が飾られている。その空間に、二人の男の姿があった。
一人は椅子の上にどっしりとふんぞり返るようにして座っており、もう一人の男は、部屋の入り口と思われる場所から胸に手を当て相手の男に向かって深々と頭を下げている。
「私のような流れ者を陛下にお招きいただき、大変光栄です」
「そこへ」
国王は向かいに置かれた一脚の椅子を指さし、座るように促した。
「ジャックウェル・フォンテッド……といったか?」
「左様でございます。お近づきの印にこちらをどうぞ」
伯爵は着席するなり、ポケットから小さな袋を取り出し、二人の間に置かれた円形のテーブルの上に置いた。
「何だ? この袋は」
国王が袋の紐をほどくと、中から五つのダイヤモンドが出てきた。一つ一つの粒は大きく、きらきらと輝いている。
「これは見事な。いったいどこで手に入れた?」
「私が作りました」
「お前が? そう言えば、お前を紹介した森の国の大使から、錬金術や化学に精通していると聞いたな。それから、音楽の才能も持ち合わせていると……」
「陛下にそのような話が伝わっているとは……私はヴァイオリンの演奏と作曲を得意としております。娘も、オペラで有名なミラーネ劇場での出演を夢見て、日々歌の練習を続けております」
「それは大変興味深い。明日、娘を連れてまたここへ来てはくれぬか? お前のヴァイオリンも一緒に」
その翌日――。
「よく来てくれた」
満足げな表情を浮かべる国王に対し、娘はドレスの裾を持ち、礼儀正しくお辞儀をした。
「王様にお招きいただき、とても光栄です」
娘の肌は透き通るように白く、歳はどう見ても十歳に満たないようである。銀色の髪に付けたオレンジ色の髪飾りがひときわ目立っていた。
「お前に似て礼儀正しい娘だ」
国王は自ら二人を広間に案内した。広間には多くの貴族が集まっており、三人の姿を見るや、そこかしこから拍手が沸き起こる。
「本日は、皆様にお集まりいただき、光栄です」
伯爵は礼儀正しくお辞儀をした後、ヴァイオリンを握り、娘に目で合図を送った。
伯爵の奏でるヴァイオリンに合わせ、娘は一流のオペラ歌手に引けを取らないような歌声を披露する。
歌声を聞いた貴族たちは、驚きを隠せない様子で口々にこう言った。
「あの幼い娘が本当に歌っているというの?」
「腹話術じゃないだろうな」
「まさか……あれだけの発声を腹話術で出すなんて無理よ」
国王も目を丸くし、歌が終わるとすぐに椅子から立ち上がった。
「歳はいくつだ?」
「八歳です」
笑顔で答えた娘の顔を、国王はまじまじと見た。
「ヴァイオリンの演奏も見事であったが、わずか八歳でこのような歌を……娘、名は何という?」
「オッタヴィアと申します」
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