Ⅲ
「シャルロット、どうして……」
アーサーが抱き起こすと、彼女は腹部をおさえ、口から血を流している。
「情、ね……確かに……バルトロの、言ったとおり……だったかも、しれないわね。これで、許してもらえるとは……到底、思ってない……けど。あなたと一緒に……旅が、出来て……楽しかったわ……」
「シャルロット! もう良い、休んでいてくれ」
「ウィンディ、癒しの鈴を使ってあげて」
マリアの指示で、ウィンディはシャルロットの体に鈴をこすりつけた。シャルロットの傷は次第に塞がっていく。彼女を背中に乗せ、マリアの元へ戻っていった。
「馬鹿なのは小僧だけじゃなかったってことか。コイツは愉快だねぇ」
項垂れるアーサーを見て、バルトロは嘲笑を浮かべる。
アーサーは、バルトロに強い眼差しを向けた。
「……何が、おかしいんだ?」
「おかしいに決まっているだろう。シャルロット嬢もあそこでおとなしくしていりゃ、痛い目にはあわなかったのにな」バルトロは弾を装填しようと懐を探るが、「おっと……さっきの奴が最後の一発だったようだな」そう言いながら、なおも余裕のある表情を浮かべ、銃を懐にしまった。
「バルトロ! あなたを絶対に許さない!」
怒りのこもったアーサーからの視線に、バルトロは満足げな笑みを浮かべる。
「そうだ、その目だ。ようやく本気になったか?」
アーサーは、剣の先をバルトロの方へ向けた。
「あなたを倒して、フラン兄さんを連れ戻す!」
「来い、小僧!」
アーサーはバルトロの元へ駆け、剣を振りかざした。切っ先が頬をかすめ、血がぽたぽたと流れ出るが、バルトロは満足げに笑みを浮かべていた。
「良いねぇ……ゾクゾクとしてくるぜ」
アーサーは切っ先についた血を見て立ち尽くした。
「僕は……」
剣を握る手が震え始め、呼吸が荒くなる。
「おやおや……」まもなく異変に気付いたバルトロは、アーサーの手元に目線を落とす。
「おい小僧、手が震えているぞ。なるほど、誰も殺めたことのない純真無垢な少年ってことか。まあ、予想はしていたけどさ」
「……早く、フラン兄さんの居場所を教えてくれ。本当は――誰も、殺したくない……」
「殺したくない、だと?」バルトロの表情がみるみるうちに変わる。「……この期に及んでまだそんなことを。どこまでも甘いんだな……小僧」
バルトロの頬にできた傷がふさがっていく。代わりに、額に十字の傷跡が現れ、琥珀色に輝き始める。その輝きはやがて漆黒を放ち、アーサーの体を弾き飛ばした。
「うわっ! ……額の傷に、ストーンの欠片⁉ 寄生型だったのか」
アーサーはアントワーヌの図書館で読んだ本のことを思い出した。
――瞬時に能力を高めることが出来、最も強力――とされる。
こんな相手に敵うのだろうか。彼を絶望感が襲う。
「その甘さを俺が捨てさせてやろう……枷を外す」
バルトロは懐から再び銃を取り出し、冷たく言い放った。銀色の鎖が銃の周りに現れ、高い金属音とともに四方八方へ砕け散る。
彼が引き金を引くと、一発も残っていないはずの拳銃から一発の弾丸が発射される。弾はアーサーの真横すれすれのところを通過していき、命中した向こう側の壁は大きな音を立てて崩れた。
あまりの恐怖に、アーサーは足をがくがく震わせ、立ち上がることが出来なかった。彼の元に一歩、また一歩とバルトロが近づいていく。
「お前のように……純真無垢で、まっすぐな目をした餓鬼を見ていると、妙にむしゃくしゃすんだよ。綺麗なものを見ると、汚してやりたくなる……壊してやりたくなるんだよ。次は本気だ……コイツで、お前の脳天をぶち抜いてやる!」
バルトロがアーサーに銃口を向けると、ウィンディが唸り声をあげながらバルトロの腕に噛みつく。
「邪魔だ!」
バルトロはそう喚き散らすと、ウィンディを壁へ強く叩きつけた。
「ウィンディ!」
マリアがウィンディの元へ駆け寄る。
「マリア様……ウィンディ……」
震えながらも立ち上がろうとするアーサーを、バルトロは容赦なく蹴り上げた。
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