第14話 高級宿のオーナー ベリク

 フロントの奥の部屋からナールと同じくらいの身長で小太りのおじさんが出て来た。


 反応からしてオーナーだろうか。




 「よお。 久しぶりだな。」




 「久しぶりだなじゃねえよー。 急に帝国から出て行きやがってよお。」




 「まあまあ、その話はあとだ。 それより俺たち今、金に困ってて、よかったら部屋を貸してくれないか。」




 「馬鹿野郎。 ここは高級宿だぞ? お前みたいな貧乏人が泊まれる所じゃねえんだよ。」




 「だよな。 悪かった。 他の宿を探すよ。」




 「嘘だって! ジョークだよジョーク!」




 そう言って小太りのおじさんは俺たちの冷めた目にも気づかず豪快に笑っていた。




 「後ろの兄ちゃんたちの分もか?」




 「ああ。 この2人と一緒に村から来たんだ。」




 「アヤトだ。 よろしく頼む。」




 「ニャターシャです! よろしくお願いします!」




 「私はこの宿のオーナー、ベリクだ。 ナールの元同僚なんだ。 よろしくな。」 




 「オーナー、空きが2部屋しかないのですが?」




 「だそうだが、いいか?」




 「ああ。 十分だ。 助かる。」




 「いいってことよ。 それより、せっかく再開したんだ。一緒に夕食を食わないか?」




 「ぜひ!!」




 ニャターシャが尻尾を振りながら目を輝かせてそう言った。




 「あっすみません...。」




 ニャターシャは照れながら顔を赤くしていた。




 「ハハハ! では30分後にみんなで私の部屋に来てくれ。 私の部屋は最上階にある。 ではまたあとでな!」




 そう言ってオーナーは奥の部屋に戻って行った。




 「それではお部屋へご案内いたします。」




 俺たちはフロントの美女に案内してもらい部屋の前へついた。




 「ナール様はお隣の部屋でございます。 何か困ったことがございましたらいつでもお声掛けください。」




 「ああ。 ありがとう。」




 まただ。 あの女に去り際に妙な目つきで見られた気がする。


 相当嫌われてしまったのだろうか。 もともとチャンスは無いとはいえ、美女に嫌われるのは心が痛い。


 あとで安くて綺麗な服を買おう......。




 部屋は意外と広くはなかった。 高級感のある大きなベッドが部屋の大部分を占めている。


 中世をイメージした高級ビジネスホテルっていう感じだ。


 前の世界でもありがちな光景だったからか、ロビーの雰囲気が凄すぎたせいか、部屋の中はあまり驚きはなかった。


 それでもニャターシャはウキウキだった。




 「すごいですね! こんな宿に泊まれる日が来るなんて思ってもいませんでした!」




 ニャターシャは狭い部屋の中をウロウロしていた。




 「アヤト! これなんでしょう?」




 「それはシャワーだ。」




 ん? この世界にもシャワーがあるのか。 一体どういう原理なんだろう。 




 「シャワー?」




 「ああ。 そこから水が出て体を洗うんだ。」




 「へえ〜!!」




 ニャターシャはシャワーに興味津々の様子だ。 可愛い。




 ちょっと待てよ。 この部屋にはニャターシャと俺の2人、そしてベッドは1つ。


 これはまさかそういうことでは!?


 やばい。 心の準備ができていない。 




 「どうされたんですか?」


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