自分の居場所。6

 あぁ、夢だ。


 何故か、僕は気付いていた。


 青い影が揺れている。


 ただ、それだけ。


 どれだけその影を見ていたかわからない。

 まぁ夢なんだし、時間とかいう概念はないだろう。


 突然影がどんどん薄れていく。


 僕はそれに気付くと、言い様のない不安と寂しさと悲しさ、そして焦りを感じる。


 待ってくれ。僕を1人にしないでくれ。


 でも、影はどんどん薄く淡くなっていき───




「───っ!」


 目が、覚めた。


 もう見慣れた天井に、右手を伸ばしていた。


 届かない何かを求めるように。でも、その手は虚しく空を切る。


 当然だ。


 そこには、何も無いのだから。


 汗もかいていて、気持ちが悪い。こっそりお風呂で身体を洗うことにしよう。


 お風呂は割と普通に有るみたいだ。

 水道も普通に張り巡らされていて、ポンプは魔法で動かしているようだ。

 お湯を沸かすボイラーも、魔法で動かしているので、使用者若しくは付き人が魔力を流して起動する。


 あたりはまだ真っ暗で、光を灯さないと何も見えそうにない。

 当然のことながら、この世界に……いや、少なくともこの国には電気なんてものは無く、夜は魔力で点る照明は消される。

 24時間営業の店などある訳はなく、(まぁ酒場とかは朝方までやってることもあるけど)明かりの無い夜は月明かりがなければ本当に何も見えない。

 その朝方までやっている酒場も、深夜は扉を締め切って明かりが外にもれないようにしている。


 ……今何時だ?


 寝起きのぼーっとした頭。

 ここが異世界であることを、忘れてしまっていた。


「……(クロック)」


 小さい声で呟いた所でやっと気付く。


 ナノマシンのコマンドを言ったところで、この世界にはナノマシンは無いんだから意味が無いだろ……

 どれだけナノマシンに頼った生活をしていたのか……僕は最低限のことにしか使っていいと思っていたが、思ったより侵食されていたようだ。


 溜息をつき、寝直そうとした。


 しかし


 ポツンポツンと青く光る粒子。

 それらは数を増していき、1箇所に集まり青い板になると、そこに時間が表示される。


 ───3:34


 あぁ、まだ3時半過ぎか……


 ……って、えっ……!?


「こ、これは……」


 その青い粒子で形作られた板は、間違いなくウィンドウで。

 僕が使ったのは向こうの世界での言葉で、なおかつナノマシンに対する命令で。

 時間表示は間違いなく、この世界のもので。


 つまり


「……この世界には……ナノマシンが存在している……?」


 実証するのは簡単だ。ほかのコマンドを試せばいい。


 声を出すと響いてしまうので、脳内で命令。向こうの世界とおなじナノマシンなのであれば、これで発動するはずだ。


 ステータス


 すると、先程作られた板が分解され、もう一度板になる。

 そこには間違いなくステータスの画面が表示されている。


 名前:アオイ=フォン=ウィンドミリナ

 年齢:7

 性別:男

 │

 │

 │


 あ、ほんとに7歳なんだ。

 って、そんな事じゃなくて!


 どういうことだ?なんでナノマシンがこちらの世界に存在しているんだ……?




 ふと、思い出す。


 確か、この世界とあの世界は通路が出来やすい……


「そうか、そういう事か……」


 その通路を通って、ナノマシンがこちらに流れたのか。

 ナノマシンは自己増殖出来る。自分達の数を常に把握していて、足りたくなったら補うためだ。




「……なにが、そういうことなんだい?」


「うわ!」


 そばに来て、訝しげにこちらを見ていたのは、エリアスさん。

 自慢の長髪は夜なのでもちろん解いている。


 暗闇なのも相まって、本当に驚いた。


「いや、これはなんだろうなぁって思って……」


 とりあえず、誤魔化すことにする。

 何かは分かっているが、青い板を指さした。


「あぁ、それはステータス魔法だ。まだ彼女たちはそれ教えてないはずなのに、よく見つけたな」


 エリアスさんが光を指先に灯しながら歩いてくる。


 この人には、バレたら不味い気がする。

 僕と同じはずのその琥珀色の瞳は、全てを見透かしてしまいそうな鋭い光を宿していた気がしたのだ。


「な、なんか目が覚めたら出てたんです……」


 咄嗟に言い訳をする。


 うわぁ、苦しいなぁ……


 エリアスさんは、何に納得したのか、ウンウン頷きながら


「なるほど、さすが神子だ」


 と、ニヤッとした。


 ……暗闇の中で照らし出された顔がニヤッとしたら普通に怖いんですが……


「分かっているかもしれないけど、クローズって言えば消えるよ」


「あ、はい。ありがとうございます」


 もちろん知っているが、素直にお礼を言ってウィンドウを消す。


 ……やばい、もう目が冴えてしまった。寝られない。


「散歩でもしようか?一緒にさ」


 寝直そうかと思ったが、目は冴えてしまっていた。

 エリアスさんはそれに気がついたのだろう。


 どうせ寝られないし、それに外に出たことが無いので是非ついて行きたい。


「はい、お願いします」


 そうして僕ら2人、まだ闇に沈んでいる街へと繰り出した。

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