自分の居場所。4
僕が、王室の子供に……!?
「──っ!」
「アオイ君は『神子』なのよね?」
僕が何か言おうとした所を遮り、僕に尋ねる。
「……」
僕はこの世界のことをほとんど知らない。『神子』が神の子供ってことくらいは分かるけれど、それがどういう風にこの世界で広まっているかわからない。
果たして、言っていいのかどうか……
「『神子』って言うのはね、神様の子供なの。伝承では、ある日突然身綺麗な小さい子供が倒れていて、その子は神様の子供で拾って育ててあげると神様の祝福を得られる、って言われているの」
パトリシアさんを見ると、こくりと頷いた。
疑っていたわけじゃないんだけど、確認したかったのか無意識の行動なんだけど、その意を汲んでくれたみたいだ。
パトリシアさん、凄いなこの人。
「私達は、貴方を関所の手前の道端に倒れていたところを見つけたの。捨てられたにしては、清潔で上等な服を着ていたし、それに」
リナ様が僕のそばまで近付いてきて、髪の毛に触れる。
美人な上、いい匂いがしてちょっとドキドキする。
「この髪色はウィンドミリナ王家の一族しか持っていないの。この世界でね。だから私達はアオイ君を『神子』だと判断したの」
そのまま僕の目を見つめて言う。
「その髪を持っているあなたを、外に放り出す訳にはいかないの。それに、伝承の通りならば、貴方は身よりもないし、行くあてもない。私達はあなたを育てる事で祝福を得られる。ほら?誰も損しないでしょう?」
リナ様はにっこりと笑って、もう一度言った。
リナ様の瞳の奥に、揺るがない信念のような強いものを感じた。
「アオイ君。私達の、子供になってくれないかな?」
……僕はこの人たちを信じてもいいのだろうか。
僕はこの世界に全く身寄りがない。行くあても全く無い。
そんな僕には、願ってもない話。
部屋にはパトリシアさんやリリィさん、それにリナ様。皆一様に優しそうな表情で僕を見つめている。
『いいかい?誰かを頼る事は、悪いことじゃない。』
『……碧、君にとって正しく《イデア》であり、幸せな暮らしを送ることが出来るよう、祈っている……』
2人(1人と1柱?)の言葉が頭をよぎる。
僕は……
「──っ」
「えっと!アオイくーん!俺達の子供に──ぃ!」
ユーリが僕が口を開いた瞬間、駆け込んできた。
今度はきちんとシャツとズボンを着ている。
ふっと黒い影が飛び込んできたユーリに近づいていき……
「むぐっ!!」
渾身の右ストレートが再びユーリの鳩尾に吸い込まれた。
犯人はもちろん……パトリシアさん。
ドアから数歩ほど距離があったのに一瞬で移動して、ユーリを殴りに行ったのだ。
「ま、また殴るなんてひどいじゃないかパトリシアぁ……」
痛そうにしているけど、あの威力のパンチまともに受けて立っていられるってどんな人間なんだ……
「陛下のタイミングが悪すぎるんですよっ!」
「あなたは本当に昔から学習しないわね……」
リリィもリナ様もそんなユーリをジト目で見ている。
そういう僕も、心の中で国王陛下であるはずのユーリを呼び捨てにしているんだけど……
「……まぁこの人は無視して、返事を聞かせてもらえないかしら?」
「酷いなっ!」
僕は、大きく息を吸って吐く。
そして僕は。
「……よろしくおねがいします!」
そうして、僕の異世界での生活は幕を開けた。
○
僕は元々着ていた服を返してもらい、それに着替える。
こちらに来る直前に着ていた服を今の僕のサイズまで縮めた服のようで、白いワイシャツに黒いスキニー。
服飾の技術が発達しているのか、僕の来ていた服に関して違和感等は本当に感じていないみたいだ。
とは言え、流石に上がシャツ1枚なのもどうなのかとパトリシアさんがベストを貸してくれたので、それも着る。
最初は僕の着替えを手伝うと言って聞かなかったが、僕が全力を賭して抵抗したので、渋々引き下がってくれた。
仕事を奪ってしまっているので申し訳ないが、僕にも一応男としてのプライドがあるんです。許してください。
着替えた僕が案内されたのは食卓。
そこには既に何人かの人が座って待っていた。
白いテーブルクロスのかかった、長方形のテーブルにユーリ(なんかもう様付けられないなこの人に)とリナ様が向かい合って座っており、リナ様の横には今の僕と同じくらいの歳であろう女の子。
王家の一族特有と言う、アッシュブロンドの髪の毛を肩まで伸ばしてハーフアップにしている。俯いているので表情は見えない。
ユーリの横には同じくアッシュブロンドの髪を長く伸ばし、後ろの首あたりで括った男が座っている。
女の子の傍にはメイドさんが1人立っており、大きな扉の傍には、白髪のおじいさん(執事かな?)が立っている。
「こちらにお座り下さい」
パトリシアさんは女の子の隣の椅子を引き、僕を招く。
恐る恐る座ると、椅子を前に出しナプキンを付けてくれた。
……凄い場違い感だなぁ……
僕は基本的に1人で食事をとっていたので、大人数、しかも知らない人ばかりに囲まれているこの状況。
ふと、視線を感じる。なんて言うか……むず痒い感じ。
横を見てみれば、女の子が僕をキツく睨みつけている。
その視線に耐えられず向かいの方を見ると、長髪の男の人はニヤニヤと僕のことを観察している。
すごく居心地悪い……
この場にいる人達がみんな僕のことを見ているような……そんな気がして落ち着かない。
何とも言えないこの沈黙の中で最初に声を発したのはユーリだった。
「さて、今日新しく家族が増えた。彼の名前はアオイ君だ。仲良くしてやって欲しい」
と、ユーリが僕を紹介してくれる。
……家族。
はっきりとユーリは言ってくれた。でも、僕はまだそんな実感は全く持てない。
優しい人だな、と思う。
けれど、なんだかホームステイしているような、そんな感じ。
彼の言葉を受けて、ユーリの隣りに座っている長髪の男の人が名乗る
「なるほど、聞いていた通り確かにアオイは間違いなく神子だな。俺の名前はエリアス。そこのなんちゃって国王の弟だ。よろしくな!」
そう言ってニヤッと笑う。
おい、歯が白く光ったぞ。僕あんなの初めて見たよ。
「なんちゃってって……」
ユーリは不満そうな顔をしているが、周りの大人達は納得と言った顔をしている。女の子の表情は俯いていて分からず、扉の傍の執事さんはニコニコと感情が見えない笑顔だ。
女の子の様子を見たリナ様は苦笑いして
「この子は、私達の娘のカレンよ。ほら、よろしくって挨拶しなさい」
「……」
リナ様にそう言われたカレンだったが、ぷいと、顔を背けて無視する。すると今度は僕と目が合ってしまう。彼女は母譲りの黒い瞳、どこまでも吸い込まれそうな綺麗な瞳だった。目が合ってしまった彼女は慌てて反対を向くが、今度はリナ様と目が合ってしまう。
「あうぅぅ……」
結局、また下を向いてしまった。
「はぁ……ごめんなさいねアオイ君。カレン、普段はあまり人見知りしないんだけど……同世代の子に会うのが初めてだから緊張しているのかも」
と、申し訳無さそうに言う。
だが、彼女は確かに僕を睨んでいた。
それを知っている僕は、彼女がただの人見知りでそうしているとは思えなかった。
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