自分の居場所。3
ドタドタドタ!
部屋の外から、誰かが走ってくるような音がする。
「目を覚ましたのか!」
いきなりドアを開けて入って来たのは───
真っ裸の男だった。
「へ?」
誰だこの男?
なんで裸?
あまりのの出来事に思考が追いつかず、間抜けな声が出てしまう。
「おおっ!よかった!もしかしたらこのまま目を覚まさないんじゃないかと……!」
全くその辺気にしていないのか、真っ直ぐこちらへと歩いてくる。
ゾク……
凍りつきそうなほど冷たい空気が流れてきたような、そんな感覚。
発生源は……パトリシアさんだ。
彼女が、男を絶対零度の圧力を出しながら睨んでいるのだ。
「ユーリ」
ひどく冷たい、ナイフのような鋭い声。
この男の名はユーリと言うらしい。
「……ぱ、パトリシア、いたの……?」
声をかけられたユーリ(?)は石像のように固まり、冷や汗をかき始める。
「えぇ。最初からおりましたよ?陛下が私をアオイ様の養育係に任命されたのですから」
コツコツ。
1歩1歩近づいていくごとにその圧力は増していく。
「で?確かにアオイ様が目を覚まされたら陛下をお呼びするよう承っておりますが、何故陛下はそのような一糸まとわぬ姿で城内を走ってこられたのでしょうか?」
「あ、アハハ……」
ユーリは迫ってくるパトリシアさんから逃げるよう後ずさりする。
「さて、何か言い残すことはございますか?国王陛下」
パトリシアさんが拳をポキリポキリと鳴らす。
「……そっ、その子、アオイって名前なんだね!……」
あ、話を逸らした。
ブチッ。
……何かが切れる音が聞こえたような気がする。
腰を深く落とし、右手を引く。
「……いいからさっさと着替えて来い!」
引いていた右手を勢いよく突き出す。
その拳はユーリの鳩尾みぞおちへと吸い込まれ……寸止め。
「……グホォ……!!ごめんなさぁぉぁぁぁあい……!!」
ユーリは、入って来た扉を越え部屋の外まで吹き飛ばされ、そのままどこかへと落ちていった。
……寸止めなのに……
こちらを振り返った時には
「あれがこの国、ウィンドミリナ王国国王ユーリ=フォン=ウィンドミリナ陛下です。(全く、いい加減国王としての自覚を持ちやがれ)」
最後に小声で呟いた本音、全部聞こえてますよ。
先程の突きもそうだが、毒舌の方も鋭いようだ。
「そ、そうなんですか……」
正直に言おう。パトリシアさんが怖いです。その笑顔、めちゃくちゃ怖いです。
そう言えば、国王をあれ呼ばわりって……というか迷うことなく殴りに行ったよね……
「あの、えっと……」
聞きたいことは山ほどあるけれど、頭の中をぐるぐる回るだけで口から出ない。
それに、今の自分はかなり小さい子供になっているんだ。それらしく振る舞うべきだろう。
「あぁ、あの方は無事ですよ。あれでも、王国一の魔法使いですから」
だからあれって……やっぱり2人の関係性が気になる。
でも、ここでお二人の関係性は~なんて聞き方したら明らかに不審だろう。
僕のことは小さな子供として認識されているはず。
よし、ここは小さな子供のように聞いてみることにしよう。
「ねぇねぇ、ちょっといいー?」
うわぁぁぁぁぁぁぁ!恥ずかしいぃぃぃぃぃぃぃぃ!
穴があったら入りたい……
いや、でも!これを乗り越えないと、普段の生活もままならなくなる!
「どういたしましたか?」
「あの、こくおー様とおねーちゃんは、仲良いの?」
……意識はしたものの、難しい単語の発音が難しいようで自然に子供のような喋り方になる。
パトリシアさんは、ふっと微笑んで
「そうですね、昔からの知り合いであるという点では間違いないですね。以前に一緒に戦っていたことがあります」
そう言ったパトリシアさんの目は、懐かしいものを思い出すような、それでいてもう届かない寂しさと憂いを帯びた目をしていた。
きっと、仲の良い友人だったのだろう。
だけど、僕には。
その気持ちがわからない。
「あぁ、良かった。目を覚ましたんですね」
「ぜぇー、はぁー……た、ただいま、もど……りました……」
入って来たのは上品な雰囲気の黒髪の女性と、息も絶え絶えの先程のメイド……リリィさん、だったかな?
なんかめちゃくちゃ疲れてるけど、何したんだろう。いや、まぁ、さっきのあの様子を考えれば想像はつくけど。
「おはようございます。リナ様」
パトリシアさんは、丁寧にお辞儀をする。
「おはよう、パトリシア。お疲れ様」
リナさんは、微笑んで、パトリシアさんを労う。
……花の咲くような、可憐な笑顔だ。
気付くと、ぼーっとリナさんの方を見ていた。
それを、リナさんが誰なのか疑問に思っているととったのか
「リナ様は、国王陛下の奥様です。リナ様、彼の名はアオイ様でございます」
僕の疑問を解決しつつ、僕の名前をリナ様(でいいのかな?)に教える。
「あら、君名前あったのね。なんて名前つけようか悩んでたのに。ちょっと残念だわ」
……名前は無いって言うべきだったかな……?
っといけない、いけない。
この名前は……両親が残してくれた数少ない繋がりなんだ。簡単に手放すなんて考えたらダメだ。
「えっと……ごめんなさい?」
謝るべきことなのかどうかさっぱり分からないけれど、とりあえず謝っておくことにする。
「いいのいいの、気にしないで。それより」
先程より高くなった太陽の光が室内を明るく照らし、外からは聞いたことの無い鳥のさえずりが聞こえてくる。
リナ様の着ている薄い水色のドレスが、陽の光を受けてキラキラ輝き、リナ様はゆっくりと口を開く
「アオイ君。私達の子供になってくれないかな?」
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