第21話 決着

 全てが静止する世界で、2人の騎士が戦っている。


 片や、剣技で相手を圧倒しようとする白銀の騎士。


 片や、技を使わず己の剣だけで立ち向かう漆黒の騎士。


 誰も見られず、誰も知らず、どんなに歴史に残るような勝負だったとしても、誰からも認識されないまま、たった1人を除き覚えられる事もなく激しい戦闘が繰り出されていく。


 そして2人は言葉を発することもなく、更に戦闘を激化させ、お互いの存在と存在意義の為にぶつかっていった。



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 バランスを崩した人間は盛大にこけて、落ちていたコップは盛大に地面とぶつかり割れ、中に入っていた液体は地面が吸いあげる。


 そして、たった今⋯空が赤くなり、耳に時を刻む音がなり響き、徐々に身体が動かしにくいと思っていたと思っていたのだが⋯⋯全てが嘘だったように身体も世界も元通りに動いていた。


 全員が注目するのは中庭。


 そして、そこには立ったままの2人がいる。


 動こうとしない2人は、ただ沈黙に包まれており、観戦者達もまた誰一人声を出す事はなかった。




「⋯⋯⋯見事じゃ⋯」

 王が膝をつくと、白銀の鎧が粒子となり消え、銀色の箱に戻ると地面に落ちる。⋯が、それを拾う事もなく、王はよろけながらその場で立とうとする。


「そういう訳だったのじゃな。コレは禁技ではなく⋯人が入ってはいけない領域の類いであったか⋯」


 みるみる内に痩せ細っていく。


「アレを使った時点でワシの死は確定していたのか⋯⋯くくく、本当にお主は化け物じゃ」


 右手がパラパラと砂の様に崩れていくが、既に血すら出ていなかった。


「お主はこれからどうするのだ? その計り知れない力を持ちどうするのだ?」


「いや、どうもしないですよ。とりあえずスローライフを送りたい。最初から言ってるでしょう? 適度でいいんです。それが俺の望む全てなので⋯」


「くはは、そうか⋯⋯最後まで⋯そう願うか⋯⋯」


 脚が崩れて地面に仰向けに倒れこむ。


「じゃがまぁ、お前さんはそれでよいのかもな⋯。ワシはワシで満足じゃ⋯。負けたとはいえ一瞬でも魔術師でありながら⋯剣神の座につき、過去の最強と手合わせができたのじゃ⋯⋯所詮、ワシは器ではなかったの⋯じゃな」


 パラパラと崩れていく中、左手で何かを投げるとそのまま崩れる。


「これは⋯?」


「この領域の管理キーじゃ。液状化できる黒竜にでも喰わしておけ。⋯⋯これでもう⋯喋る事はない。この余韻のまま静かに消えるとしようか。では、さらばじゃ⋯ノア君」


 左手が崩れた事がキッカケで雪崩のように全てが崩れて風に飛ばされて消えていった。




【⋯⋯勝者、守乃白鴉さま】


 歓声は湧き上がる事はなく。


 全員が、ただ静かに佇む。


 ノアが本当に勝者と言えるのか、誰にも分からなかったが、結果論だけでいえばノアがその大地に足をつけて立っていた事が事実なのであろう。


 そして王が最後に渡した鍵こそ、何より認めた証拠だと言わざるを得なかったのであった。


「ノア君、終わったのか?」


 先輩が近寄ると、肩にいたフィスが俺の元に戻る。


「えぇ、終わりました。残念ですが⋯⋯最後まで戦うことを選ばれましたね⋯⋯」


「それは仕方がないだろう⋯⋯それがこの世界のルールなのだから⋯」


「そうですね⋯」


 黒竜がフンフンと管理鍵を匂っているので、鍵を渡すと取り(呑み)込んだ。


【アポフィス=ウォーカー】

 LV5

(お疲れモード)

【ラグナロク(終焉の紅)】【未来視】【門(ゲート)】【混沌】


 いつのまにか【混沌】が増えており、これは俺の身体を守る時の液状化した事による性質変化の所為ではないかと思う。

 あとは【門】を覚えたので、これは後で調べる事にする。



【お疲れ様でしたノア様。これで晴れてノア様がこの新生王国の代表となりました】


「代表?」


【はい。王様と言った方がよろしいでしょうか?】


「いやいやいや⋯⋯王でも代表でもないですよ⋯。嫌ですよ⋯そんなめんどくさいの⋯」


【本当によろしいのですか? もしノア様が代表を辞退なさると言われるのなら、各国の奴隷としてこの国を徴収することになりますが⋯】


「え? それは約束が違うじゃないですか!」


【いえ、間違っておりません。その話は王が生きていたらのお話です。死んでしまった今、それを倒した者が王となり、皆を引っ張って行くしかありませんよ】


「イオさん⋯もしかして⋯初めからそのつもりでした?」


【そうなればいいとは思っていましたが、そこまでいくとは思いませんでした。それに考えてみてください。この国の代表になるという事は、色んな場所に行けますし、民の事も自由にできますよ?】


(そういう捉え方するしかないとも考えられるんだけど⋯)


「⋯⋯分かりましたよ。一応、代表になりますよ」


【ふふふ、ありがとうございます。それでこそノア様です。では、暫くおまちください】


 そういうと、10人とそれと同じ数だけの鏡竜を連れてくる。


【では改めて、各国の皆様、盟約通りにここに新生王国の誕生です】


 全員が俺の事を見る。


【ノア様、こちらが各国の使者の皆様です。近い内に正式に挨拶をするようにはなりますので、今日のところはおつかれでしょうから、先に相手に顔を覚えてもらっていた方がよろしいかと】


 簡単な挨拶をすませていく。


 代表としては認めてくれているらしい。国としてはどうかは怪しいと感じる。


「そうだ、イオさん。なら、皆様にお願いというか提案をしておいてもよろしいですか?」


【はい? 構いませんよ】


 向こうの王に伝わるように、鏡竜が俺の周りに集まる。


「初めまして、この王国の代表となった守乃白鴉と申します。新参者なのでお手柔らかにしていただけるととうれしいですが⋯⋯まずは⋯いきなりで失礼かもしれませんが、取引をしませんか?」


 おれは早速、勝負に出るのである。


「取引といっても、同盟とかではありません。仲良くしていただけたら⋯まぁ、大変ありがたいのですが⋯いまはとりあえず、その話は後回しにしましょう。今、ご存知の通り、この新参国には剣王の全身鎧に武器、そしてアポフィスの素材や魔術の研究者達が存在しています。それを各国に分配したいのです。勿論、自分の国以外でです」


 使者達がざわめき、動揺する。


「その見返りとして、こちらが望むのはこの土地の平穏と当面の支援です。この土地に強力なモノは全て排除して、ゆっくりと俺は暮らしていきたい。ですので、この土地に関しての侵略などの禁止、そして俺たちが自立できるまでの支援を要請です。この国の人間のほとんどは、俺も含めてほとんどが外を見たことがない。ここで暮らすのもいいけど、広い世界に出るのもありだと思うから、その時に差別をしないで初心者として扱ってほしい。決して優遇をしてくれとかではなく、やりたい事をやって自分の道を進ませる為の生き方の可能性を示したい」


 かっこ良く言っているが、要するに土地から出ていけという事である。


「王を倒した俺が強力だと思うかもしれませんが、俺から攻撃をする事はありえません。ありえないというよりそういう性質(もの)なので、できないと言っても過言ではありません。ですが、仲間を狙うなら容赦する気は無い事だけは覚えておいてほしいです」


「あと、外ではエルフ達がどういう扱いをしているのかは分かりませんが、この土地に暮らすエルフやもし他の種族がいるなら、それも家族だと認識してもらえると助かります。武防具や黒竜素材の分配は皆さんで決めてくれたら問題ありません」


 まとめると、要するに武力放棄して国民を追い出して、ゆっくりと過ごしていく俺の土地が欲しかっただけである。分配は正直、さっさと渡すから勝手に話し合ってくれと投げやり状態であり、知った事ではない。


 それに、領域と言われる土地も詳細はまだ不明だし、外の国と国のいざこざがあるのかもすら不明だが、最初に武力を放棄して安全国として確率しておきたかった。理由としては、このままいくと、まだ何も決まってない状態なのに神器級の装備や素材がある為、すぐに襲われるハメになるのではないかと思っていたからである。


 使者達が了承する。ただし、仮契約みたいなモノで、正式に各国の王と挨拶をする時に本契約をしたいというものであり、それまではこの土地に関しては、全力でフォローしてくれると約束をしてくれた。


 こうして、晴れてこの国は形(?)として成立した。


【では、この国の名前はどうしましょうか?】


「とりあえずなんでもいいんですが⋯⋯前の名前はなかったんですか?」


【人の名前はあっても、この世界では国の名は実はありません。その代わり名称で言われていますのでーー例えば私の国でしたら『速の国』ですね。他にも『空の国』『力の国』など様々ですよ。名称でいえば、ここは『幻の国』や『剣王の領域』とも言われていました。大地に建っている国ではないのです。もちろん、空や地中などにも当てはまりません】


「えっと、じゃあ⋯どこにあるんです?」


【空間の狭間ーー歪みでしょうか。貴方達の言葉を借りるならチャンネルが違う場所で聖域とかいう方もいましたね】


「うーん⋯。まぁ、幻の国でいいんじゃないですか?」


【なりません! 初めての異世界の王なのです。貴方達の世界では国の名前もキチンとつけると聞きましたよ】


「そうですけど⋯⋯でも、名前つけるほどの国に⋯⋯」


 イオさんが、ズイッと寄ってくる。


【僭越ながら、もし宜しければ私が名前をつけてよろしいでしょうか?】

 更に寄ってきて身体を密着してくる。(主に胸)


「なぜでしょうか? それに⋯イオさんに任せるといい事にならない気がするんですが⋯」


【ひどいです⋯。私は異世界の文化にちょっとでも触れたいだけですのに⋯】


 泣き真似と分かっていても、どうしようもない程⋯演技が上手い。てか、この人⋯絶対に諦めないだろうからな⋯。


「分かりましたよ⋯。なら、名前はお任せします。ただ変なのにしないでくださいよ⋯」


【では、皆様! 新生王国の名前が決定しました!】


「え? なに? もう決まってたの? それに、そんなに公に発表するの?」


【剣王の名前にのっとり、新生王国の名前は『クロノス⋯】


(クロノスの名前ならいいんじゃないか)

 グッと親指を上げてOKサインを出す。


【ノア』】


(⋯⋯⋯ん?)


【王国の名前は『クロノスノア』です。旧剣王、そして新剣王を倒したノア様が支配する新しく生まれ変わる狭間の領域】


 その後、イオさんが興奮気味に何かを言っていたが頭に入ってこなかった。


「⋯⋯⋯おもてぇ⋯⋯」


 とりあえず俺は頭を抱えていた。やっぱりイオさんに任せるとこうなんじゃん⋯。


 クロノスノア⋯⋯名前はどうであれ、周りからは新剣王ノアという認識をされる羽目となり、更には⋯。


【そして最後に『速の王』である私ーーイオは、正式に新生国クロノスノアと同盟を組む事を宣言し、その証としてノア様のフィアンセとなる事を宣言します♪】


 キャッ♪と嬉しそうに宣言する中、頭を抱えていた俺はそのまま吐血する様な勢いで吹き、そのまま倒れたのである。


 コレは、この瞬間にコレを見ている男達が絶望に落ちてしまい、画面を見なくなった事によるオールフォーワンの補正が切れて負荷がかかったせいなのか、それともイオさんに主導権を握られて展開していくのについていけなくなったからなのかは誰にも分からないのである。


 それから目が覚めたのは既に夕刻を過ぎた夜であり、『ジョークです。てへっ☆』じゃ済まされないぐらいに各国が騒がしくなっていたのを知ると再び俺は意識を手放したのであった。

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