第19話 決闘 その2
赤いマントを翻し、土煙が払われると白銀の甲冑が姿を現わす。
傍観している皆がその一点だけを見つめ、呼吸をするのを忘れるほど魅入っていた。
そして王が剣を地面に差し込むと、王を中心に周囲に一陣の風が吹き抜ける。
金縛りにあったような感覚が風により吹き飛ばされ皆が正気を取り戻すが、先程までの笑いは既に何処かに飛んでしまい、全員が彼の姿の威圧に驚愕している。
「皆の者、そう身構えるでない。剣王といっても中身はワシのままじゃからな」
右手でヘルメットを触ると消える。
「性能は先程よりほんの少しばかり上がっただけじゃ。まぁ、使える技は増えておるがな」
「それが剣王の姿だったのか?」
「ん? お主は見た事はないのか?」
「いや、会った時は⋯⋯ん〜? あぁ⋯確かに後ろで全身鎧が鎮座していたな」
「ふむ。それは少しおかしいな⋯⋯お前は一体⋯何と闘ったのだ? お前が持ってきたスクロールには全身鎧の中に剣王がおったぞ」
「それは何かの間違いでは?」
確かにあの時、剣王は言った。あのガラクタなどはくれてやれと⋯⋯そういえば⋯⋯なんでマジックブレイカーで吸収でき⋯たんだ⋯⋯?
あの時、既に鎧の中には剣王がいたという事は魂か何か魔力的な何かだったのかもしれないが、今となっては調べる方法はない。
「まぁ良い。どちらにせよ。今はワシが剣王だからな」
「鎧が着れるからですか? それだけで剣王と呼ぶのはおかしい気がするんですが⋯」
武防具を装備しただけで剣王になれるなら誰でも慣れるんじゃないのか?
「ガハハ! 流石に力量の差までは分からんか。装備しただけで慣れはせぬ。先程言ったであろう? 魔術回路をいじったと。死した剣王の身体から全ての回路を私の回路に合わしたのだ」
地面に刺していた剣を抜くと、風が舞っているのが分かる。
「剣気というらしいぞ。魔術回路に似たものとでもいうのか⋯⋯ワシは『剣聖回路』と呼んでおるがな」
「だから、今は剣王といったんですね⋯⋯そこまでして力が欲しいものなんですか?」
「当然じゃ! 人生の楽しみは探求と追求しかなかろうが! そして、その結果として全ての人間がワシにひれ伏し、ワシ自身が神となり貴様らを導き、永遠に我を崇め讃えるのだ」
「ふ〜ん。そういうもんですかね? 俺にはその感覚は分かりそうにありません。適度に気の合う仲間と美味いもの食べながら、適度に喋り、適度に遊び、まったりとスローライフを楽しむ方が何倍も楽しそうですね」
「ならば、ワシを倒して手に入れるが良かろう。いつの時代も最後にたった者が正しいのじゃからな!!」
剣を俺に向けて突き出すと、光の剣が空間に出現する。
「さて、第2ラウンドじゃ! いくぞ!!」
剣が襲ってくるのを、マジックブレイカーで消そうとしたが消えない。
「当たり前じゃ! これは魔力ではなく剣気と言ったであろう!」
(剣王の時は消えたのに⋯)
やはり、あの時は魔力体だったのだろうと確信する。
未来視を使い、方向をズラし回避していくが、一瞬でも隙を見せると王が間合いを詰めて斬りかかってくる。
速度も攻撃力も先程より遥かに上がっており、王が間合いを詰めてくる=必ず吹き飛ばされていた。
その度にフィスの部位が潰れるのだが、数回目でフィスの全身が液状化がした。
「そろそろ、そのトカゲも限界か!!」
それでも攻撃は止む事はなく、再び吹き飛ばされた時に「おわっ!」と、奇妙な回転をした事に驚いてしまう。
地面には爪跡、俺は身体にはG(重力)の負担だけがかかっているだけであった。
「なんだ? いまのは」
「なんだそれは! なぜマジックブレイカー所持者が装備できるのだ!!」
「装備?」
自分の腕を見ると黒くコーティングされた感じになっていた。
背中には竜の翼手が丁度背中に引っ込んでいくところであり、これで受け身を取ったのだと理解した。
「フィス? お前なのか?」
頭の中で【きゅぅ!】と伝わる。
黒竜召喚とはいえ、マジックブレイカーの一部だからなのだろうか。装備と呼べるかは分からないが、王が強くなればなるほど、俺自身も状況に合わして死ななくなる事に特化していっているように実感する。
死ななくなる事に特化と言ったのは、この黒いコーティングも俺の意思では動かず、相手の攻撃に対して防衛していくものであったからである。
「先程いっていたアポフィスが、王の攻撃に合わしてくれたんですよ。小さい姿だろうが、俺を守ってくれてる有難い相棒です」
頭の中で喜んでいるのが伝わる。
「ワシが技を披露するたびに進化しているという訳か! この化け物め⋯⋯!」
(それをアンタが言うのかよ!)
ツッコミを入れたかったが、王の雰囲気が変わったことに気付く。
剣を再び2つに分けると、刀身は剣気により輝きを増していく。
「剣王になり、最初の相手が最弱では面白く無いと思っていたが⋯⋯ここまで、実力を隠しているとはな⋯⋯ワシも剣王の力を手に入れた余韻に浸らずに少しワシらしくしてみようか」
その場で剣を振るうと剣刃(かまいたち)が飛んでくる。
2本の剣から、次々と剣刃が飛ばしながら俺に近づき次々と攻撃を繰り出してくる。
それを避けながら、反撃の機会を待ってはいるのだが⋯⋯反撃できる隙がないのである。
そもそも、既にこの武器では王の身体を護っている剣王の鎧に傷がつくことはなかったのである。
唯一、外した顔の部位も狙えるものなら来いという感じで誘っているとしか思えれないのである。
「さて、そろそろよいかのぅ。皆の者に見せる余興としてはかなりのモノになりそうじゃ」
王様が意味深な言葉を放つ。
「見せてやろう! 剣王の技を!」
『アポクリファ!!』
その瞬間、未来視が発動する。
空間の至る部分から先程の剣刃が収束した爪というべきか鎌と言うべきモノが、俺が逃げるスペースがない程湧き出ていた。
既にこの数秒後には逃げ場はない。
だから⋯俺は、咄嗟に映像で見た一番遅く出る場所を遅速を使い、間に合うように願いながら全速力で駆ける。
王の眼前が輝く刃に埋め尽くされる。
「どれだけ避けるのが上手かろうが、全方位逃げ場が無ければ避ける事は出来ぬまい!」
全員がこれで終わったと感じていた。
「ノア君!! 返事をしてくれ!!」
花蓮も全方位攻撃は想像すらしておらず、静止をしたなら反撃をしているはずだが⋯していない事に不安を抱きいつのまにか叫んでいた。
「返事があるわけでがなかろう! これで終いだ!」
剣を再び合わせ、埋め尽くされた刃の目前で振り落とすと、数多の刃が弧を描く様に動きながら消えていく。
全てが消えた後、その地面に並々ならぬ刃の跡が深く刻まれている。
「くくく⋯⋯流石に跡形も残らぬか!」
刃の跡地に足を踏み入れると、まだ新しい血痕を発見する。
「なんだ⋯この違和感は? おかしい⋯⋯斬り刻まれたなら、こんなもんではないはず⋯」
血痕の量に違和感を覚え、その辺りを斬りはらう。
「そんなに慌てなくてもいますよ」
左手の腕が黒く染まっている。
「なんじゃ⋯⋯お前は!! なぜ生きておる!! 剣王の技は絶対死と言われておる! なのに、何故! 地面に立てておるのだ!!」
「いや、逃げきれませんでしたよ⋯⋯現に左腕がぱっくり斬られて気絶したくても痛くて出来ませんし⋯⋯フィスが止血してくれてるから⋯⋯なんとかなってますけど⋯⋯」
「ふざけるなぁ!! この技は絶対死なのじゃぞ! なのに! 腕一本傷を負っただけじゃぞ!! ありえん! ありえん! ありえん!!」
かなり興奮気味になっている。
「それはフィスが未来視を教えてくれたからですよ。あの技の一番最後に出る所を目掛けて頑張って動きましたから⋯」
「未来視じゃと⋯⋯なるほど⋯⋯ありえぬが⋯⋯一応⋯納得ができる⋯。もし、それでないなら他の可能性は時間を止める事しか⋯⋯だが、それでは傷を負うという事には至らぬはず⋯」
研究者思考なのだろう。あり得ない事象が起きた事により、頭で考えて解決しようとしている。
「ふふふ、まぁよい。ワシもお主に興味を抱いたわ。貴様の色々な感情を見たくなった」
「男に言われても気持ち悪いだけなので、そう言うことは言わないでほしいです」
「まぁ、そういうな。そうだな⋯⋯とりあえず怒った顔でも見るとするか⋯⋯」
「怒るって⋯⋯俺は自分に関してはあんまり怒る事がないんですが⋯」
「お主自身はそうじゃろうな⋯。まぁ、最後まで聞け。お主は『時の遅速』をどの範囲で使えるのだ?」
「遅速ですか? 考えた事にありません」
「ふむ、その回答か⋯。ならば、試してみようか。貴様の大事な彼女でな」
王が花蓮の方を見る。
「まて! 先輩は関係ないだろう!」
「関係はあるだろう? お主の能力を確認できるのと、死んだ彼女を目の前にしてお主がどういう顔をするのか。とても見ものじゃわい!!」
花蓮先輩も先程の件からずっとこちらを観戦している。
王が花蓮先輩をみると、俺は咄嗟に声を荒げていた。
「先輩!! 逃げて!!!」
「⋯⋯⋯ぇ」
王の姿が一瞬で消え、俺の声が先輩に届くと同時に剣は花蓮先輩に振り落とされた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます