第18話 再来

「遅かったな」


「いや、これが普通です。普通の人間なら窓から飛ぶなんて事考えませんから⋯」


「ふん! まぁよい。さっさと始めようではないか」


「分かりました。とりあえず負けを認めた方が負けでいいんですか?」


「何を言うとる。厳正な決闘は完全な勝敗ーーつまりどちらかの死だ」


「え〜⋯⋯、せめて死までじゃなく完全な戦闘続行不能までにしましょうよ」


「なら、お主はそれで行けばよかろう。ワシを完全に負けを認めさした状態まで持っていけるものならばな!」

 王様の真上にバスケットボールぐらいの火球が出現する。

「さて、まずは小手調べから行こうか!!」

 火球はそのままにソフトボールぐらいの火球が飛んでくる。


 それをマジックブレイカーで消滅させる。


「さぁ、次々といくぞ!」

 頭の上にある火球はどれだけ火球を排出しようと一向に小さくなる気配はない。それより急速と排出速度が徐々に上がっている。


「なら、これはどうだ!」


 ソフトボールより更に卓球球(たっきゅうだま)ぐらいの大きさになり、横が長く速度が更に上がったファイアランスとなる。


 それも、遅速を使わずに反応できた。

(これって⋯⋯オールフォーワンの恩恵なのか)

 見ている人数分だけステータスが上がる能力だが、ここまで力が増えているのは初めてである。


「初見で避けるとはやるではないか!!」


「この決闘って、ここにいる人以外も見てたりしてるんですか?」

 考えられるのは鏡竜である。こいつが映している映像も適応されていると思う。


「勿論じゃ! 我が魔法技術は求める者が多いからな。それに話題性で申せば貴様の武勇伝も一役買っておるわ!」


 次々と火槍(ファイアランス)が飛び交う。


「成る程、これで納得いきました」

 火槍(ファイアランス)をマジックブレイカーで消し回避しながら接近していく。


「最弱ステータスとは思えぬ動きだな! それが『時の遅速』とやらか!!」

 真上の火球を右手で掲げ、前に突き出すとマシンガンの様に火弾が発射されていく。


「てか、その魔法⋯⋯かなり使い勝手がかなり良さそうです⋯⋯っね⋯!」

 王様の周りを疾走するが、中々近づけない。


 最弱ステータスであれば、既に静止しているかもしれないが、今のステータスはかなり高い事を表している。


(もう一歩⋯⋯)

 意を決して、前に一歩足を出す。


「この状態で前に出るとは、そんなに死にたいのか! この愚か者めが!!」

 更に火球は形を変え、マシンガンタイプからガトリングタイプに変化する。


 ここで、今現在出せる全力で足を踏み込み、王様の周りを走りながら距離を一気に稼ぐ。


「なんじゃと!!」

 一瞬で、ゼロ加速した俺に、標準を一瞬失う。


 再び捕捉した時には既に距離は5メートルもないが、王はまだ十分な距離だと思いニヤリと笑う。


「残念ですが、ここは俺の距離です」

 ここで初めて『時の遅速』を使い、火球にマジックブレイカーを刺し、術式を破壊する。


「ちぃっ!! 今の違和感が遅速か!! なら、今までの動きは全て貴様の実力だったのか」


「さぁ? どうですかね?」


「ステータスの改竄があの時に出来ているはずはない! ならば、やはり剣王で何か別の力を手に入れたのじゃろう!」


 足で地面を踏むと、俺の真下に魔法陣が現れる。


「出した魔法が壊せるのは知っている。ならば、即座に出る火嵐(ファイアストーム)はどうじゃ!!」


 手に持っていたマジックブレイカーをくるんと逆さに持ち変え地面に突き立てて術式破壊を破壊する。


「成る程のぅ! 流石は神器級の武具だ。そしてそれを使いこなす貴様も認めよう!」


「それはありがとうございます。王様がもし魔術職であり、そしてこの戦いに意味がないと思ったのなら、ここでもうやめませんか?」


「くはは! 確かにワシは魔術師じゃ。スキルも『無詠唱』『魔法創造』『魔力の器』などを持ち合わした魔術師最強と呼ばれていた事もある」


「なら、マジックブレイカーとは相性がとても悪いじゃないですか⋯」


「そう、魔術師にとって魔法が使えないと言うのは只の人間となんら変わらない存在だ」

 王様の身体中に魔法文字が浮かび上がる。

「だから、ワシは栄光も名声も捨て研究に没頭した。全てに対応をした魔術師とならんが為にな」


 空間に手を入れると剣を2本取り出し、その二本を合わすと一本の剣となる。


「それって⋯⋯」

 あれは剣王の所にあった武器だ。パッと見た時に2本で一本になる剣だったから覚えている。


「覚えておるか⋯⋯そうだ。これは剣王の一振りと呼ばれる内のその一本である」

 剣を持った腕からは魔法文字が常に浮かび上がっている。

「本来ならば実力がないと逆に喰われるとも言われておる代物だな。だが、ワシにかかればこの通りよ」


「でも、その身体中から発している魔法文字のおかげですよね? 魔法文字であればマジックブレイカーで消せるのでは?」


「魔法文字? 確かに魔術回路を改造したのだが⋯⋯一目で見破られるとはな」


(あれ? 文字はもしかして見えないのか?)


「だが、マジックブレイカーをワシがなぜ持っていたか分かるか? 魔術師にとって最悪の武器を対抗する為にこの魔術を作ったのだよ。それを追求していくうちに最終的には、魔術師ながら剣士として模倣できるようになった。その武器の強さはどんな魔術にでも対応できる分、呪いとして他の武器が一切持てない! 魔術により強化されたこの身体に! その武器程度では傷すらつけれぬ!」


 一瞬、姿が消えたと思ったら目の前にあらわる。


(⋯⋯はやっ!)

 遅速を使い躱すが、ピッタリと俺にくっつき次々と斬りつけてくるが、それを遅速とマジックブレイカーを使い凌いでいく。


「どうした! ワシの体力が尽きるまで頑張ってみるつもりか?!」


 遅速を使っていくが⋯徐々に遅速と剣速の歯車が噛み合わなくなっていき、とうとう王が横に薙ぎ払った時に一歩間に合わず、マジックブレイカーで受け止めるが衝撃が強すぎて『ガァッ』と腹から声を漏らし吹き飛ばされる。


 たった一撃だが、地面が抉れ衝撃の凄まじさを物語っていた。


「どうした?! もう死んだのか?!」


「いいえ。死んでません⋯⋯が、いってぇ⋯⋯」

 打撲と擦り傷はあったが、骨の異常はなさそうで、自分のステータスが高いのが悔やまれる。


 これが、剣王の言っていた事なのだろう。

(たしか⋯ステータスが最弱でちょっとした事で死の静止が発動するが、ステータスが上がっていけば、それだけ全ての能力値が高くなり死まで辿り着かないだっけ)


【きゅぅぅぅ〜⋯⋯⋯】

 俺の服からアポフィスが出てくる。


「あっ! そういえば服の中にフィスがいたんだ⋯大丈夫か?」


【きゅう⋯⋯きゅう」

 よく見ると下半身が潰れていた。

 かといって内臓が出ている訳ではなく、その代わりに黒い液体が服にベッタリとついていたが、すぐに液状が結合し元どおりの下半身として繋がった。


「フィスがクッションになってくれたのか⋯⋯すまない。ありがとうな」

 偶然かもしれないが、あの地面はアポフィスがべったりと潰れた衝撃のようだ。


「なんだ? そのトカゲは」


「さぁ? アポフィスが死んだ後に産まれたからアポフィスじゃないですかね?」


「それは面白いな。だが、たとえそれがアポフィスだとして、そのトカゲに何ができるというのだ。まぁよい、興味が唆る検体だからな。貴殿を倒した後で実験動物として、じっくり調べてやろう」

 再び襲ってくる。


 同じ事をしても、歯車が噛み合わなくなり先程と同じようになるのは目に見えている。


 どうしたもんかと考えていると、フィスの眼が紅くなると、俺の頭に今から攻めてくる王の映像が先に頭に流れる。


 それを先出しをする様に身体を動かして避ける。


 すぐに斬り返しの映像が現れ、それを避けていく。


(これ⋯⋯フィスの『未来視』なのか?)


 未来の映像が見える訳ではなく、ほんの数秒先が見えているようだ。


 王の攻撃を避けながら考える。


 戦闘中に考えるという事は、ゆとりがあるという事。


 フィスの未来視も気にはなるが、まずは前の敵に集中をしよう。


「いきなりどうなっておる⋯⋯! 先程までギリギリで避けていたやつが今はなぜだ!!」


 王の剣をギリギリで避けながらナイフを先置きする様に斬る。


 斬り傷はついたが、魔術回路まで到達する事はなく皮膚を少し斬ったぐらいである。


「傷をつけられるとはおもわなんだが⋯⋯回路まで到達することは出来ぬようだな」

 斬り傷はすぐに修復される。これも肉体強化の恩恵なのだろう。


 その場で斬り合いを続けていく。


 俺は避けながら、王に徐々に傷をつけていく。


「そういえば⋯⋯」


「なんじゃ!」


「先程から斬り方が大雑把になってるけど⋯⋯」


「っっ!!」


「大丈夫ですか?」


「つぁ!!」

 王が間合いを取る。


「俺が前にいた世界では、ナイフというのは人の殺傷は二の次なんですよね。小回りを利用して相手を少しずつ傷つけていくのが目的なんですよ」


「それがどうした!」


「いくら修復しようが斬られた時の一瞬の痛さと熱さは脳が学習してしまうんです。剣士なら忍耐もついてるしそうもいかないでしょうが、魔術師であれば何度も何度も傷ついていく内に恐怖が脳に刻まれているんです」


「何を言っておる!」


「先程から大振りになっているから、ナイフに恐怖しているんじゃないかな?」


 会場が王を見て笑う。

『所詮、魔術師か』

『あの少年が人を殺せるなら、勝負はとっくについているだろ』


「〜〜〜〜〜っ!!」


「そろそろ、やめにしましょう。正直に斬っていて気持ちのいいもんじゃないんですよ」


「どこまでも⋯⋯ワシをコケにしよるか⋯」


「いや⋯だから、放っておいてほしいだけなんですって」


 王は懐から銀色の小さい匣を取り出す。

「これは、貴殿を殺したあとに披露するつもりだったのだがな⋯」

 箱を指で掴みながら、天にかざす。


「これを見ている者すべて刮目してみよ!」


 銀色の匣に白い亀裂が入り、王が光に包まれる。


「剣王の再来だ!」


 光が収縮すると、そこには白銀の甲冑に包まれ赤いマントを翻した騎士が佇んでいた。

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