第17話 決闘その1

 扉が開き、謁見の間に繋がる。


 中には不自然な程、沢山の人がいた。


 着物系、軍服系、民族系、戦士系、魔法系など、それぞれが仮装パーティの会場に集まったのではと感じるのだが、それぞれの近くにはイオさんが見せてくれた鏡竜が飛んでいるので、どうにか異世界だと認識ができる。


『こいつが例の⋯⋯』

『アレが言うほどのものなのか』

『無駄足にならなければよいが⋯⋯』


 小言で何かを言っているが、それは観戦というより分析をしに来た感じに感じた。


 あるものは、実験動物を見るかの様に。


 あるものは、殺意を抱き。


 あるものは、さっさと何かを見せろと叫んだり。


 王都で歩いていた人達は少なくとも観戦をしに来たイメージがあったが、ここにいる人達は違う目的で来たというイメージしかなかった。


「ふむ。イオさんが言った言葉がわかった気がする」


「えっと、この他に街があるってことですか?」


「それも結果としては当たっているが、もしかすると此処は⋯⋯王城ではないのかもしれないな」


「え?!」


「よく考えて見たまえ。王が玉座に座っているのに、誰も静まらないし好き放題やっている。もし、この世界で一番偉いのであれば⋯それは絶対にありえないのだ」


「確かに⋯⋯」


「だとして推測できるのは、この国は国として認められていないのではなかろうか? 他国の情報はなく、行き方も不明、ここが全てだと私達が勝手に思っていただけであったのではないのだろうか?」


「それだと、学校ごと転移したなら他国もすぐに気づいて動くはずでは?」


「そこなんだ。私達がそう思わされていたポイントは。他国の情報や行き方が不明だったのにこれだけ集まっている。そうなると、ここは隔離されていたのではないかと考えられる」


「なるほど。それで、今回の決闘で隔離を解放したと」


「そうだな。こう考えると王様が勝負を応じたのも理解ができる。他国に宣伝を含めた新しい国を作った事を知らしめる為に」


「それは分かったんですが⋯⋯そう考えると、表が宣伝だとすると⋯裏って⋯王様って他国に負けないぐらいの力を持っているという宣伝ですよね⋯」


「⋯⋯期待してるぞ。ダーリン。油断しないで頑張ろう」

 ポンッと肩を叩かれる。




「久しいな英雄殿」


「いや、何回も言ってますけど、英雄ではないですから⋯」

 本来なら頭を下げるべきなんだろうけど⋯絵図的にできないため立ったまま会話をしている。


「この度の決闘は既に聞いてるな?」


「えぇ、俺が平穏な生活ができるには、これしかないと聞きましたし⋯⋯ただ、本当にこの手しかないんですか? 俺としては放っておいてくれたらそれで満足なんですが⋯⋯」


「まだ表面だからと思い上がり、そんな世迷言を言っておるのか。既に貴殿の裏面は理解した。その上で我が理想の障害となっておる。平穏がほしければその命を絶てばよい」


「表面? 裏面? よく分からないですけど⋯そんなに難しいもんですかね⋯⋯? もし、俺1人で異世界に来てたら命を絶ってたんだろうけど、大事な人もいますし⋯できましたからね。身勝手には死ねませんよ」


(大事な人!! もしかして、わ⋯!)

「あ、大事な人ではなく大切な友人でした」

 遅かった。後ろの人が妄想に入ってる⋯。


「⋯まぁ、よい。その余裕も決闘が始まれば消し去ってくれる」


「はぁ⋯お手柔らかにお願いします。ちなみに無理だと思いますが、これで俺たちを放っておく事できますか?」

 黒竜の残骸が入ったスクロールを取り出す。

「えっと、黒竜の残骸です。エルフの村に埋めておくと誰かが掘り返しにきそうなので、こちらに持ってきました」


 会場がざわめく。


『アレがアポフィス⋯⋯本当に死んだのか⋯』

『元々、弱らしてはいたのだろう?』

『それでも、こちらに来て多少過ごした奴が倒せるものなのか?』


「コレを渡すから、見逃せというのか? 悪くはない提案だ」


「なら⋯⋯」


「だが! 断る。先程もいったであろう。もし見逃したとしてもいずれ障害になる。ならば早めに芽を摘んでおくことに越したことはない」


「そうですか⋯⋯残念です。まぁ、残骸はどちらにせよ必要ないので、そちらの自由にしてください。あ、肉の方が残念ですが食べたのであしからず⋯」


 さらに会場がざわめいた。


 まぁ食べたのは、アポフィス本人(?)なんだけど、なんでいちいちざわめくんだ?


 チョンチョンと先輩に肩を突かれる。


「どうしました先輩?」


「ノア君⋯⋯1つ大変な物を見つけてしまったんだが⋯」


 先輩が指を指す先ーー俺らがこの部屋に入った扉に上に挑戦者用としての大きい写真があった。


「⋯⋯なんぞ⋯コレ⋯」

 写真はいい。写真はチャレンジャーだし、イオさんも言ってたので有りとしよう。

 ただ、写真がよろしくない!! てか、あの時にToLOVEる写真じゃねぇか!!


「やはり、あの時、ワシが放った黒竜も隠された実力で瞬殺したのだな。そして、この程度の素材なぞ必要ないということか」


「いやいやいやいや!! 待ってください! 誤解です! 誤解ですってば!!」


「誤解も何もこんな映像もこちらに送りつけてきおったのだ!」


 鏡竜が映像を流す。


【あ〜ぁ、剣王とやらが搭乗していた竜もこの程度だったのかよ。この世界⋯緩すぎやしないか? 緩すぎてまじで萎える。まぁ、女はそれなりにいい素材が多い事だけが⋯せめてもの救いぐらいか⋯。暇つぶしにさっさと世界を征服してハーレム王にでもなるか】


 あの時の映像であったが、そこに映っている俺はまるで俺ではなく、エルフの双子を揉み触りながら、先輩に色んな場所をキスさしながら、イオさんに何かを舐めさせるように強要している映像であった。


「⋯⋯⋯」

 無言である。てか、言葉が出ない。


「な⋯⋯中々、ノア君のドSもいい⋯⋯かも」

 後ろでボソボソとゴキュリと喉を鳴らしているが、つっこむ事も出来ないほど言葉が出ないのである。


「なんですか? コレ⋯?」


「自分がした事じゃ! 分かっておるのであろうが! 鏡竜で映像を撮りにきた『無音の聖女』を屈服し更にはエルフ、人間を相手に好き放題にしていたのであろう。見てみろ! この後ろにはエルフの女性達も全員裸にされておるだろう!」


「うわ⋯ほんとだ」


「やらせたくせに白々しいわ!」


「そうはいっても⋯本当にしらないんですってば。それに無音の聖女って言葉も初めて聞きましたよ。イオさんの事でしょうけど⋯⋯」


「まぁ、どちらにせよ。分かったであろう? ここにいる傍観者達は貴殿という障害物を見に来た奴らばっかりじゃ」


「えっと、とりあえず⋯⋯ごめんなさい。これからはひっそりとと生きていくので見逃してください」

 深々と頭を下げたが、王様はどうやら舐められてると思い頭に血が昇っていた。


『クスクス』

 後ろの方で笑い声が聞こえる。

『本当にノア様は面白いですね』

 妖艶な着物衣装でイオさんが入ってくる。

『ごめんなさいね。気合いをいれておめかししていたら遅れてしまいました』


 一歩、進むごとに皆が振り返る。


 鏡竜が次々とイオさんを真近で映そうと周りに集まる。


 イオさんが歩く中、俺はイオさんに早歩きで近づき肩を抑える。


「イオさーーん!! どういう事ですか!! まじで説明お願いします! 完全に悪者腫物扱いですよ! お願いですから誤解を解いてください!!」


 肩を前後に揺らす。


『ああん。あまり揺らされるとはだけてしまいますよ? もし、はだけた場合その手でおさえてくださいね』

 たゆんたゆんと揺れていた物が大きく揺れピタっと止めた瞬間に、イオさんが抱きつき耳に囁く。

(それにですね。鏡竜で編集作業をできる事を知っている人はほぼいません)


 だからか⋯⋯だから、全員映像を鵜呑みにしていたのか⋯。


(なんで、こんな事をするんですか! まじで何を言っても聞き入れられず泣きそうなんですけど!)


(泣いてるノア様も可愛いかもしれませんね。それに、それがノア様にとって必要な事だからです。ここは絶対に越えないと何も始まりません。既にある程度は予想が付いているのでしょう?)


(じゃあ、俺が越えたら誤解解いてくれるのでしょうね?! それに約束も果たしていただきますからね!)


『勿論です。ご主人様』


「そこだけ、艶っぽく声に出さなくていいですから⋯」


 謁見の間はここ一番のざわめきと殺気で溢れかえる。


『本当だったのか!! あのクソガキ!! 我らの聖女様を!!!』

『ルールなんて関係ねぇ! 全員でぶっ殺しちまえ!!』


 今にも襲ってきそうな中、誰かが一言いうだけで静寂に戻る。


『だけど、本当に無音の聖女に触れる人間がいたんだな』


 その一言だけ、それだけで静まる。


「⋯⋯イオさんって、あまり触らせないんですか?」

 何なの、触る触らないだけでこの静寂。同じ人間だから触ったりもするでしょうに⋯。


『そういう訳でもないんですけど、触ると死んでる人が多いのです』


「⋯⋯⋯んん?? なんか呪い的なものか何かですか?」


『いいえ、そこら辺は乙女の秘密ですので、暴露するのは恥ずかしいです』

 いや⋯可愛らしく言ってるけど物騒すぎる。


「なら、俺も死ぬんですかね⋯⋯」


『いいえ、本来なら触った瞬間に逝っていますので大丈夫です。死んでいるなら、最初に出逢った時に逝っていますよ』


「そ⋯そうですか⋯」


『ふふふ、嘘ですよ。では、頑張ってくださいね』




【さて、皆様大変お待たせ致しました。そして各国の使者で来られた皆さまもわざわざご足労ありがとうございます。此度の詳細は事前にお伝えした通りでございます】


 イオさんが喋りながら説明をしている。


【決闘を始める前に、軽くご紹介を致します。まずは皆様がご存知のモクシャ=スクリット。ほとんど裏舞台で生きていた彼が此度、表舞台に現れたのは確固たる力を持った事によります。詳しくは私も分かりませんが、その力が気になってきた人もいるのではないでしょうか?】


【そして、彼に立ち向かう挑戦者は、彼に召喚された異界の住人、守乃白鴉様です! こちらに来てまだ20日程度ながらにして、剣王の撃破、アポフィスの撃破など、未だ誰にも成し遂げれない事を成し遂げました。ステータスは詳細をお配りしたように最弱ながら、最強を下すその実力が今回の戦いで皆様にも分かると思われます】


「なるほどな。イオさんの魂胆はそれか」

 花蓮先輩が真面目に考えていた。


「何か分かったんですか?」


「予想だが、多分⋯⋯君の実力を解析したいのだと思う。ノア君が求めた自由、平穏と皆の生活にも当てはまっているしな。今回でノア君が勝てば見ている人達からは、危険人物になるかもしれないが⋯攻撃しなければ無害だと思うのではなかろうか」


「あぁ、なるほど。⋯けど、映像のはやりすぎじゃないです?」


「そうしないと、各国が動かなかったといえば説明がつく。剣王や黒竜を撃破する輩が征服という単語をだせば実力の有無を測りに来るしかないからな」


 納得してしまう。確かに俺からにしてみれば他になんと思われようがどうでもいい⋯。それよりも平穏に過ごせるに越したことはないからだ。


「イオさんもノア君の実力を知った上で攻めたほうが楽だと思ったのかもしれないな」


「ん? 攻めるって何のことです」


「なに。気にするな。これは君ではなく私達の問題だろう」




【ちなみに映像で見せた通り、いま求愛中ですので、各国の男性達はこれ以上しつこく私に告白しないで下さいとだけこの場を借りて言っておきます】


『ぐあぁぁ!! 聞きたくなかったぁぁ!!』

『嘘だと言ってくれー!!』


「てか、どんだけイオさんって人気なんだ? アイドルみたいなものなのか??」


「ノア君⋯⋯いまサラリと告白されたのに気にしないのか?」


「映像で見せた通りって、あれです? あれじゃないと思いますよ。どう見ても、卑猥な映像を告白とはならないでしょ。もし、あれならドン引きですよ」


「ふむふむ。そうかそうか。じゃあ、決闘を頑張ってくれ。私は決闘がはじまればイオさんに話をしておくよ」

 なんか嬉しそうだ。


「決闘の心配はしてくれないんですか?」


「うん? 心配はしたくてもできないかな。結果は見えてるんだし。君は喜んで相手を殺す人ではないだろう?」


「まぁそうですね⋯」

 とりあえずはどうやって負けを認めさすかが、今回のポイントだとずっと考えていた。

 相手の攻撃を受け止め続け、その上で王様に負けを認めさすのが理想である。


【さて、2人は中庭へ移動をしてください】


 モクシャ王が、謁見の窓にいくと「さっさと貴殿も来い」とだけ言って、そのまま飛び降りた。


 たまに思うんだけどさ、実力がある人ってなんで飛び降りたがるんだろうか⋯⋯。


 王が飛び降りると視線は自然に俺に向けられる。


 いや、できるよ? できるけど、こんなところで自分で飛び降り自殺した気分になりたくないんだよね。


「えっと、すみませんが⋯中庭まで案内できますか?」


 いい感じで始まろうとしたピリっとした空気が失笑に流される。


 しょうがないじゃん。俺はこの王城を自由に歩いた事ないんだし。扉を使わないと扉が可哀想だろ?

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