第16話 3度目の王都

『では早速、日時はいつに致しましょうか?』


「日時ですか?」


『はい。向こうには分かり次第連絡すると申しておりますので、ノア様が決めていただいて構いませんよ』


「そう言われても、特に指定はないので⋯⋯イオさんが決めてしまっていいですよ」


『分かりました。では準備もありますので3日後に致します』


「分かりました。3日後に王城に行けばいいんですよね?」


『はい。ただ、その前にして頂きたい事がありますがよろしいですか?』


「できる事ならしますが⋯何をするんですか?」


 イオが胸の谷間からスクロールを取り出し、使用すると中から1つ目の奇妙な飛竜が現れる。


 そこは無論あえて突っ込む必要はない。そして後ろにいる先輩も『私もそれぐらいできる』みたいに張り合わないでほしい。


『これは鏡竜(きょうりゅう)といって、この子が見ている場面を他の鏡竜に映しだす事ができます』

 ふむ。いわゆるテレビみたいなもんか?

『ですので、これで今回は挑戦者であるノア様の意気込みを宣伝しようかと思っています』


「はぁ⋯⋯いまいちピンとこないんですが⋯これは必要な事なのですか?」


『大事な事ですよ。観戦される方はノア様の事が一切お分かりになっていません。もしかすると納得しない者もでるでしょう⋯。ですので、よろしくお願いします』


「わかりました。どうすればいいですか?」


『では、ひらがなを一文字ずつ言ってもらえますか? 後はこちらで調整致しますので、難しい事はお任せください』


「分かりました。ただ信用していいんですよね? 調整できるって事は色々出来そうな気もするんですが⋯?」


 ボカロみたいなもんだよな? どう調整できるのかは気になるところだけど⋯。


『ふふふ⋯心配なさらないでください。平穏と自由、そして王都にいるお友達の方をもう少しマシになる様にお願いするようなお言葉に致します』


 ふむ。まぁ⋯俺は先輩みたいにみんなの前で発言するタイプじゃないしな⋯。


「分かりました。よろしくお願いします」


『はい。承りました。それとそこの椅子に座ってもらってよろしいですか? あとはS級の彼女はノア様の背後に立ち肩に手を置いてください。双子のエルフは左右に立ってノア様の手と自分の手を重ねて下さい』


 言われた通りに動くが、花蓮先輩は立ち止まっている。


「先輩?」


「動く前に先程の話を聞きたい。私はまだ貴女を信用することはできない」


「先程の話って一緒に寝たというやつですか?」


「一緒に寝たのはどうでもいい! やったかどうかが重要だ」


(引きずっていると思いきや、くだらない事にこだわるなぁ⋯)


『なるほど、そういうことですか。申し訳ございません。沢山の女性に囲まれていたノア様に嫉妬してしまい嘘をつきました。私如きの身体で迫っても相手にもされなかったですよ。どうしてかと思いましたが、こんなに可愛らしいS級のお嬢様がいらっしゃるなら納得いたしました』


(すげぇ⋯。イオさんの言い方がっぱねぇ)


「ノア君⋯⋯私は彼女を敵と思っていたが、どうやら敵ではなさそうだ」


(そしてちょれぇ(ちょろい)⋯。先輩、ちょろすぎる)


 るんるん気分で、イオが言った配置通りになる。


「これは?」


『言葉を言う時に、ただ立ってもらっているだけでは味気ないと思いますので、ノア様にとっての大事な3人も周りにいる事で華を持たせるべきかと思います』


「⋯⋯分かりました。このままでいればいいですか?」


『はい。では、少しばかり失礼致しますね』


 イオが近づき、細かい配置を言おうとした瞬間に、「あっ」っとバランスを崩し、それと同時に花蓮先輩、双子、そして俺も同時にバランスを崩した。


「⋯⋯⋯⋯」

(なんだ? これは⋯。一体どうなっている⋯。イオさんだけがバランスを崩した筈なのにどうやったらこうなるんだ?)


 左手はティヤの服ーー襟から貫通するようにすっぽりと入り、ティヤの股に掌が挟まれているのが分かる。


 右手はサラの上着をたくし上げつつ、後ろに回した手がサラの右胸にガッチリとフィットしていた。


 花蓮先輩は、俺が右上に向いており、先輩の唇が完全に右の頬に密着している状態である⋯⋯それに真正面からは分からないと思うが、心地よい感触がする2つのお餅がピッタリと俺にくっついていた。


 最後にイオさんだが、俺の腰に手を回し、開いた足の間に顔を埋めている。


「ちょっ!!」


 俺が動こうとすると全員がピクっと動く。


(てか、どんなToLOVEるだよ! しかも、この人達⋯一向に離れようとしねぇ)


「離れ⋯⋯⋯!! 〜〜っ!!」

 離れる様に言おうとしたが、ここで花蓮先輩の唇が近づいているのが分かったので口を塞ぐ。

 まるでカマキリや蛇の捕食行動である。喋っていたら舌を絡み取られるイメージが咄嗟に湧いた。


 結局、離れたのはその数分後である。サラが不満そうにして手の位置を変えようとしたところで主導権を握り、花蓮先輩の脇腹を親指で指し、なぜか小刻みに動いていたイオさんを離して、最後にティヤの服から手を抜き去る。


「はぁはぁはぁ⋯⋯地獄を見た」


「何を言う天国だろう。私のキスは最初の時にされたお返しだからな? 本当はディープを求めたかったが⋯⋯まぁ、よしとしよう」


 嫌われるためとはいえ⋯もう二度とあんな事をしないと心に刻もう⋯。


『申し訳ございません。私が体制を崩しコケてしまったばかりに』


「わざとじゃないですよね?」


『⋯⋯勿論でございます。これで、一応揃いましたので、私はそろそろ準備に取り掛かりますので失礼致しますね』


 一瞬の間がきになる⋯。


「⋯分かりました。準備の件、ありがとうございます。そして改めてよろしくお願いします」


『お気になさらないでください。私としてもノア様の助力になれて嬉しいです。それと、素材を入れるスクロールはこちらをお使い下さい』


 再び胸の谷間から取り出そうとするのをジッと見ていると『取られますか?』とからかわれる。


 いっそ取ってやろうかと思ったが、それはそれで後ろにいる人が倍返しみたいにしそうなのでやめておこう⋯。


『では、失礼致しますね。あ、そうそう、私が求めても拒否されましたが、王都にある娼婦館にてノア様と同じ日に転移された女性と一緒に部屋には入られていましたよ』


「ちょっ!!」

 忘れてたよ! 俺の頭から忘れてたよ。なのになんでここで蒸し返すのさ。こんちくしょう!


「ほう⋯⋯⋯それは、詳しく聞くしかなさそうだね」


「痛い⋯頭が痛いです! S級腕力で頭を鷲掴みにしないでください。骨の形が変わりますから!」


 クスクスと笑いながら、そのまま一礼をして森の影に吸い込まれるように消えていき、俺は先輩に家の中へと引きずられていった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 3日後。


 俺は王城の前まできていた。


 ちなみに先に言っておくが、家の中に引きずられたが何かあったと言うわけではないとだけ言っておこうと思う。


 むしろ、家の中に入ると普通の先輩に戻ってくれていたので逆に嬉しかった程だ。


「流石の私でも空気は読むさ。とりあえず、この三日間の間に情報に整理をきちんとしよう。鍛えようとしても君の能力では無意味だろうしな。だから、運動と食事、あとは体調に気をつけるだけでいいと思う」


 襲われると思った俺に対しての返答がコレである。


 要するにライバル(?)や気分高揚に陥ると、テンパると言うわけだ。あれ? 普通は逆じゃないか? あ、いや俺が変人が好きと思わせるならこの方法もあるのか⋯などと、この三日間は考えさせられてしまっていた。


(まぁ、答えはでてないけど)



「にしても、凄いですね⋯⋯」


「あぁ⋯⋯、本当に彼女は何者なんだ? ここまでの行動力は一市民や一冒険者ではなく、もっと高位に感じるが」


 訪れた王都は、カーニバル状態である。活気はあるといえ前の王城と比べればビフォアアフターぐらいの差がある。


 殺風景だった城下町は、風船やカラフルな色どりの街に変わり、人もそこそこだったのが満員御礼である。


 ひとまずは王城に向かおうとするが、どうも住人から殺意が感じられる。


(なんだ?)

「先輩⋯⋯なんか敵意を感じるんですが気のせいですかね?」


「気のせいではないみたいだな。私にはそこまで視線はないが、どうやらこの街にいる人たちはノア君を見てるようだ」


「なんか悪いことしたんですかね⋯⋯」

(っていっても、そこまでこの街に関わってないし、剣王の武防具も渡してるだけなんだが⋯)


「まぁ、考えられるとすれば、王国にとってのノア君は反乱者になるのではないか? 王様を倒すという事なのだから、当然といえば当然だと思う。殺意はあるのにかかってこないのは、厳粛なルールに基づいている気はする」


「そう言われてみれば、そっか⋯⋯。なんで王様と戦う事になっているのかはよく分からないけど⋯⋯むしろ王様って戦えるんですかね?」


「イオさんの話を考えれば、戦えるのだろうね。接近戦ではなく、もしかしたら魔法使いの可能性もあるだろうし」


「あぁ、そうか。ここは地球じゃなかったでしたね⋯⋯」


「そういう事だ」


 王城まで辿り着くと、兵士に睨まれながらも案内される。


(それにしては、男からの殺意しかないんだよな⋯⋯女性達には『あの子が戦うのね』ぐらいの注目である)


「最初にご説明を致しますのでどうぞ中へ。王や皆様がお待ちしております。それと決闘は中庭で致しますので謁見の間で開始しない様、くれぐれもお願い致します」


「分かりました」

(そんなに血気盛んに見えるのか?)


 どうも俺が思うイメージと違う。なんていうか、『うわ、雑魚が来た』とか『最低ランクの虫がきた』みたいなイメージで歯向かうのが無謀ぐらいの気持ちだったんだけどな⋯。


 大きな扉が開き、謁見の間に入っていくと⋯⋯。


「う⋯⋯うそだろ! だれか嘘といってくれ!!」


 なんで敵意を持たれていたのか、その理由が瞬時に分かってしまったのであった。

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