第15話 黒竜召喚

 激しい物が割れる音の後に、発狂するかのような怒声。


 八つ当たりを含め、苛立ちを他者に移そうとする罵声。


 王様は、楽しんでる最中に大切な物を取り上げられた子供の様に暴れている。


「お⋯⋯落ち着いてください!! 王様」


「落ち着いてくだだいじゃと!! ふざけるな!! 何をどう落ち着けというんじゃ!! 何が起こったんじゃ!! 説明をせい!!」


「わ⋯⋯分かりません」


「がぁぁぁぁ!! なんだ! 何をどうしたらここまで破綻できるのじゃ!!」


「わ⋯⋯わかりませんが⋯あのGランクの少年が⋯⋯」


「バカか!!! そんな事はわかっておるわ! あれは何なのじゃ! 最低ランクでなぜのうのうと今も生きておる!! あの光は確実に発動していた!! あそこからどうやって解除したのじゃ!!」


「⋯⋯⋯わかりません⋯」


「クソ! この爆発でワシの華麗なる舞台が始まるというのに!」


『なら、舞台を整えてさしあげましょうか?』

 暗闇から、女が一人音もなく入ってくる。


「誰だ! 貴様は!! 何をしておるか! いとも容易く侵入を許すとは!」


『敵対する為に来たのではありませんのでご安心を。私はイオ様のお言葉を伝えに参っただけです』


「無音の聖女のだと? 聞かせてみい!」


『爆発の件は残念でしたね。でも、もし貴方が望むのであれば舞台を用意してあげます。ただ、その舞台でノア君と対峙して価値を示しなさい。折角、用意したその懐に入っているキューブを無駄にしたくは無いのでしょう?』


「⋯⋯ふん、気に喰わんが良かろう。用意すると言ったからには派手にしてもらおうか! ただし、ワシからは一切払わんからな!」


『分かりました。では、詳しく決まり次第、報告致します』

 音もなく影に沈むように消えていく。


「ふん。どこまで知っておるかは知らぬし、ワシよりも⋯⋯あのGランクが本来の目的だろう。⋯⋯が、派手な舞台を用意してくれるのだ。大いに有効活用をさしてもらう。ただし、思い通りになるとおもうな女狐」

 懐から手の平サイズのキューブを取り出す。

「この性能を理解まではしておらぬだろう⋯⋯理解していれば、戦うという発想はあり得ぬのだから」


 キューブが光ると、王様の姿は赤いマントをなびかせながら白銀の全身鎧に包まれていた。

 


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「⋯⋯⋯と言うわけです」


 村のエルフ達が戻ってきたところで、俺はアポフィスの話をしたが、全員が半信半疑で未だ警戒心は解けずにいた。


 それもそうだろう。先程の魔力削りから⋯⋯まだ10分も経っていない。なのに、黒竜の残骸だけがあり、夢と現実の区別がついていないようであった。


「⋯⋯当然の反応だろうな⋯私も正直に夢でないかと思うほどだよ」


「といいつつ、抱きつくのやめてくれません? 先輩のせいでサラとティヤも真似して悪影響を与えてるんですけど⋯」


「気にするな。私達はこれを夢でないという実感を味わっているだけだ。ノア君のフェロモンで興奮すれば現実だろう」


「てか、目がハートになってるのは、すでに興奮しているのでは⋯⋯。あ〜でも、夢でない事の証明か⋯⋯できるかもしれません」


 そう言って3人を引き離す。


「うぅぅ⋯。この火照った身体⋯⋯証明が嘘だったら分かっているだろうね?」

 双子も頷く。


「⋯⋯なんで、脅しっぽい言い方なんですか⋯。俺の方が被害者なんですけど。⋯まぁ、いいです。とりあえずやってみますね。『黒竜召喚!!』」


 地面が影に呑み込まれ丸い円になると、そのまま黒い影が蠢いていき黒い文字の魔法陣が完成した。


 そのまま黒いモヤが巻き上がり、黒いシルエットのアポフィスが召喚される。


 その姿にエルフ達は武器を構えるのだが、黒いシルエットの形はすぐに飛散していき、その後、魔法陣の真ん中には肩乗りサイズに丁度良さそうな黒い小竜がいた。


 小竜がキョロキョロと辺りを見渡すと、俺と目が合う。


 じぃ〜っと見つめ合う二人。


「お前、アポフィスなのか?」


「きゅ〜〜〜!!」


 俺の肩に乗り、喜んでいる。


『きゃーー!! かわいい!!!』

 緊張感が一瞬で消し飛び、女性陣達は小さな竜に瞬く間に魅了されていった。


 無論、俺も女性に囲まれている。

 そうだな⋯例えるなら女性専用の満員電車で男一人だけでおしくらまんじゅう状態になっている感じか⋯⋯。


 女性の匂いと柔らかさが襲ってくる為、平常心を保つ為、今一度お経を頭の中で唱えて耐える。


 勘違いして欲しくないので追記しておくが、嬉しくない訳ではない。ただ⋯⋯数人ほど小竜ではなく俺の何を確かめているような輩がいるので、もしも反応した場合が怖い為だと言っておく。


 少し頭にゆとりができ、小竜を見てみると⋯確かに可愛い⋯⋯と思っていると、小竜の情報が自然と目に浮かぶ。



【アポフィス=ウォーカー】

 LV1

(空腹中)



「ん? お前、お腹減ってんのか? 食い物⋯⋯えっと、熊の肉ってまだあったっけ⋯」


「きゅ! きゅきゅ!!」

 黒竜の死骸を見ている。


(えっ⋯自分を喰うのか⋯?? いや、もしかして記憶はないのか⋯?)

「まぁ⋯お腹を壊さなければいいんじゃないか」


「きゅ〜〜〜〜〜!!」


 俺の肩から降りると、女性陣の足を縫うように進み一目散に黒竜に向かっていくと、その一歩手前で小さな竜は、ジョーズと思わせるような黒い波状になり大口を開けて黒竜の残骸を丸呑みにした。


「⋯⋯⋯⋯」

 全員が沈黙する。


 すぐにケプッと可愛らしいゲップをすると、こちらを再び可愛らしい顔をして見ている。


 先程と打って変わり、女性陣達は一歩引いているので、どうやら俺が行くしかないらしい。


 覚悟を決めてアポフィスの元に向かうと、影が膨らみ食べれなかった肉以外の部分が排出されていた。


「てか⋯⋯肉(み)の部分だけが綺麗になくなってやがる⋯⋯」

 

 よく見ると、骨の間や関節の間など高圧洗浄をしたような綺麗さになっているが、小竜はすでに興味はなく、再び俺の肩に乗ってきたので状態を確認する。



【アポフィス=ウォーカー】

 LV5

(満腹中)

【ラグナロク(終焉の紅)】【未来視】



「LVが上がっているし、スキルも覚えている⋯」

 ラグナロクって、紅龍の事だよな⋯⋯。小竜で使うとどうなるんだ⋯⋯?

 使ってみたいが被害が出るのかどうかは分からないので、また機会があれば調べるようにしよう。

 未来視は⋯そのまんまだろうけど意味あんのか? これは調べようにもどうやればいいか不明だし、その内分かるか⋯。


 みんなの所に戻ると、たぶん大丈夫と伝える。正確には、たぶんとしか言いようがなかっただけであるが⋯。


「わかった。ノア君がそういうなら信じよう。その小竜のお陰で本当に終わったと実感できたし、王国が次の一手を使ってくるまでに私達も話し合っておかなければな。だけど、その黒竜の残骸はどうするのだ? 敬意を払い埋葬するか?」


「いえ、埋葬はしないようにしましょう。ここら辺一帯に埋めたとしても武器や防具にするために掘る人もでてきそうですし」


「なら、どうするのだ?」


「出来ればスクロールの中に保存しておきたいですが⋯⋯ここには無いですよね?」


「そうだな⋯⋯。街にも売っていなかったからそれなりに高価なものだと思う」


「うーん。どうしましょうか」



『スクロールをお探しですか? ありますよ?』

 女性陣の中に、見覚えのある女性がいつのまにか混じっている。


「⋯え⋯イオさん⋯? ここで何しているんですか?? てか、いつのまにいたんですか?!」

 なんだ、マジで⋯いつのまにいたんだ? しかもちゃっかりとエルフに変装してるし⋯。


『ずっとお側にいましたが? 先ほど女性に囲まれている時にもノア様の反応を確かめていた一人です』

 一応、恥じらいながら言っているつもりだろうが、その馴染み方が逆に怖い。


「あんたもかよ!!」

 さっき数人と言ったのはその理由だ、あからさまに3人以外もいたことから誰かは想像ができなかったからなのである。


『ノア様の専属メイドとしては当たり前の事です。それに無事に帰ってきたら私の全てを捧げますと申し上げましたよね?』

 妖艶な目つきで見つめてくる。


 それを遮るように先輩と双子が前にでる。


「ノア君! どういうことだ!! 専属メイドなんて聞いたことないぞ!」


「安心して下さい⋯⋯俺も専属メイドなんて初めて聞きました。それよりも⋯気になるところはそこじゃないでしょ⋯⋯イオさんは王国のメイドですよ?」


「それこそ愚問だ。王国より今は彼女との関係性のほうが最重要に決まっている!」


『あら? つれないですね。裸で一緒に寝た仲じゃないですか。私の初めてを捧げたのに、帰ってきたら更に激しくしてくれるとおっしゃられてたので、ずっと待っていたんですよ?』

 上から目線でクスクスと笑いながら、見えないはずの剣が花蓮先輩に見事に突き刺さり⋯。


【クリティカルヒット9999ダメージ】


「そ⋯⋯そんな⋯、彼の初めては⋯」

 そして、先輩はたおれた。


 その光景を見ていたが、俺の中で1つしか思い浮かぶ事はなかった。

(先輩の倒れかたが爆死したヤムチャにしか見えねぇ⋯⋯)


 双子のほうは、初めての意味をよくわかっていないらしく、なんとなく花蓮先輩に合わせて同じように倒れている。


(あぁ⋯先輩のせいで双子の天使が⋯⋯悪影響をうけてるしか思えれない⋯)

 

「はぁ〜、まぁ、そんな事はどうでもいいんですけど、王国と俺たちは現在敵対していますよ? ですから⋯」

 よくねぇ! と言わんばかりに先輩がしがみついてくる。


『私を人質にとりますか?』


「いえ、そのまま帰ってれると嬉しいです。もし、周りのみんなを傷つけるつもりなら、イオさんの事は嫌いになれそうです」


『ぷっ。 あはは! 君はそう言うのですね』


「えぇ、俺は平穏な生活を確保したいだけなんですよ。なので、王国側がこれ以上関与しないのであれば、このままここで暮らすのもいいと思っているんです」


『まぁ、私は直接関与する気はないのですが、それは無理な相談だと思われます。ノア様は自分の価値を再認識するべきです。貴方はもう止まる事は許されませんよ? 分かっているのでしょう? 静かに暮らす事が不可能な程の潜在能力を持っている事を』


「そ⋯それは⋯」

(このひと⋯どこまで知ってるんだ?)


『それと騙していて申し訳ありませんが、私は王国のメイドではありません。ノア様に興味をもった第一人者です。ただ、そろそろ世界も動き始めることでしょう。そうなると、ノア様は死なないかもしれませんが、貴方以外はどうなるかはお分かりになられるかと思いますが?』


「世界? 王国ではなく?」

 会話の何かがズレているのだが、今は何か分からず⋯⋯ただ、俺以外の人が狙われる可能性だけはずっと思っていたことであった。


『残念ながら、ノア様がこれ以上知る必要な情報はまだありません。全ては王国との後に分かる事でしょう』


「⋯⋯なら、イオさんはどうしてこちらに来たんですか?」


『舞台を整えて差し上げようかと思いまして、ノア様が望むように、戦争にならない方法を提案しに参りました』


「提案?」


『はい。後日、王城にて王様とノア様による決闘です。正統なる闘いとなり、各方面から証人として沢山の方が見られるので不正の心配などはありません」


「各方面ってことは⋯⋯やはり、他にも色んな街などはあるんですね」


「そうですね。ただ、貴方達がほかの街に行く事は不可能だという事はお伝えしておきます」

(嘘は言っている素振りはない⋯。本当の事なんだろう⋯その件も王様との決闘が済んでからか⋯)


「そういえば、向こうは承諾したんですか?」


『はい。快く承諾していただけましたよ。それに勝利したあかつきには、自由が約束されます』


 俺らにとっては願ってもいない申し出である。このままいけば、王国に住んでいる同級生にも迷惑がかかるし⋯⋯ただ、なぜ王様は承諾したんだ? 得(メリット)はなさそうに見えるのだが⋯⋯。


 それと、いとも簡単にまとめるイオさんも更に謎が深まる一方である。


「分かりました。その王様の決闘を受けます」


『ノア様ならそういうと思っておりました』


「もちろん、俺が勝った場合は自由と平穏ですが、それとは別にイオさんが隠している事も全て喋ってもらいますよ!」


『ふふふ⋯よろしいですよ。その時はお互い丸裸になって全てお話し致しましょう』

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