第11話 双子と先輩

「あ、の⋯ちょっまっ! ムグっ」


 右には同じ世界からきた河合花蓮先輩。


 左には、この世界でひょんな機会があり、その時に助けた双子の美少女。


 現在、何故か俺はその間に座らされており、強制給餌(ガヴァージュ)レベルで熊の肉を腹に詰め込まれていた⋯⋯。




 それは時を遡ること数時間前、俺は運ぶダルさから大熊を絶壁から落として、みんなの食料も持ち帰ったところからはじまる。



 土煙が晴れると双子が、すぐに駆け寄って身体中をべたべたと触り始めた。


「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎??」

「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎!!」


「ん? どうしたんだ?」

 甘えてるというよりかは、生きているのを確認しているような⋯⋯。

「あ〜、死んでない死んでない⋯ってか、伝える方法が見つかんねぇ!」

 絵に描いても通じないだろうし、実際に見せることも不可能だ。


「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎。⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎」

 後ろから声が聞こえる。

 そこには、まだエルフに支えられてじゃないと立てないが、花蓮先輩がゆっくりと歩いていた。


「か⋯花蓮⋯⋯先輩」

 またこうして会えて喋れるとは思わなかった為、少し目頭熱くなる。


「男子三日会わざれば刮目して見よと言うが、ほんの11日と5時間32分56秒見ないうちに随分と男の子らしくなったな⋯⋯」


「いや⋯秒まで数えているにはドン引きです。本当なら大丈夫ですか? と言う声もかけたかったですが、秒まで数えているなら大丈夫そうですね」

 ものの見事に感涙しそうだった涙は引っ込んだ。


「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎」

 肩を貸してくれるエルフに何かを言うと、エルフが離れていき、先輩が前に倒れそうだったので慌てて抱きしめて支える。


「ちょっ! なにやってんですか?!」


「すまない。君から見て大丈夫そうと言われたから歩こうとしただけなのだが⋯⋯すまない⋯ただ、もう少し強く抱きしめて支えてもらっていいか」

 苦しそうにハァハァと言っている。


「あーもう! 無茶しないでくださいよ! せっかく先輩を助けに来たのに」


「それにしては⋯あの双子と仲が良さそうだったじゃないか⋯?」


「あれは、ちょっとした機会があって助けただけですよ。それに⋯助けた時はまだ小さな子供だったですし」


「ふ〜ん」


「ん?」

 なんか、いま普通の声に聞こえたんだが⋯?


「⋯⋯ゴホっゴホッ。すまないが立つのが辛くなってきたから、そろそろ休める所に連れていってくれないか?」


「分かりました。すぐに行きましょうか」


 そう思って歩こうとすると、双子が花蓮先輩を俺から引き剥がす。


「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎!!!」

「な⋯⋯なにをするんだ⋯や、やめろ、やめてくれ! ノア君助けてくれ!」

「⬛︎⬛︎⬛︎!!」

 花蓮先輩に青色の液体を無理やり飲ませ始める。


「お⋯おい!」


 花蓮先輩の身体が淡く光ると、顔色がみるみる内に元気になっていく。


「んん??」

 さっきまで死にそうだったようにみえたんだが? あの液体でそんなに元気になるようなものなのか?


「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎!」


「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎!」


「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎!」


 花蓮先輩とサラサラ髪が、なにかを言い争っているが聞き取れないでいると、クリクリ髪がイラストに起こしてくれる。


「あぁ、なるほど⋯⋯要するに魔力切れによる精神倦怠感ってことか⋯⋯どうでもいいけど⋯先輩、その⋯テヘペロみたいな顔やめてくれませんかね?」


「⬛︎⬛︎⬛︎!」


 通じたのが嬉しかったのか真正面からハグをして、マーキングするかのように自分の匂いを俺につけるようにグリグリとしている。


「あ! こら! 私のを上書きをするな!」


「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎!!」


 双子の片割れと花蓮先輩も抱きついてきた。


「ははは⋯⋯なんだコレ⋯」


 それから、村のエルフ達が果物をジュースにしてくれたり、大熊を解体して焼いたりしてくれて大食事会が始まって今に至る。



「ま⋯ムグ、ちょ⋯まムグ! しぬ。死ぬからコレ!」


「美味しいか? 私の愛情たっぷりの肉は美味しいか?」

「おいしいか? わたしのあいじょうたっぷりのにくはおいしいか?」

「こら、私の言葉真似るな! お前は通じないエルフ語でも喋っていればいいだろう!」


 あーなるほどね。この村に来て最初に弓で牽制された時に語りかけられた言葉は花蓮先輩の言葉だったのか。だから、違和感があったんだな。


 ウンウンと思っていると、「アー!!」叫びながら思い出す。


 これには流石に3人共ビクっと驚く。


「こんな事してる暇ないじゃないか! 花蓮先輩! そういえば情報交換しましょうよ。なんでこうなったのかとか」


「ふむ⋯。なら、ベットに入ってゆっくりはなそうではないか?」


「いや、この場所でいいでしょ⋯?」


「ここでやるのか? まぁ、私はかまわんが⋯」


「⋯⋯やるってなにをですか?」


「セッ◯ス。純情交換するのだろう? 純情とはだな⋯一途な愛情⋯⋯」


「いやいやいや⋯どうやって聞き間違えたらそこまでズレるんですか? その間違い⋯噛みましたじゃすまないレベルですよ? てか、ゆっくり話そうって行ってる時点で悪意100パーセントですよね?!」


「バレたか。なかなかやるではないかワトソン君。ただ、一つ言えるのは悪意ではないのではないのかね? こんな美人でボインな先輩からのお誘いだぞ?」


「ワトソン君は語り手と解決策の提示ですけどね」

(確かに美人でボインだけど、自分の事を言うツッコミはしないでスルーする。


「ふふふ、久々に会ったのだ浮かれて処女を差し出す所までは容認してほしいものだな」


「いや、浮かれて処女差し出すなんて聞いたことないですから!!!」

 くそ! 思わずツッコんでしまった。


「いいツッコミだ。ただ、私が欲しいのはそのツッコミではなく⋯⋯まぁいい、その件はおいおい話すとして⋯情報の共有だったな。私も知りたかったから丁度いいからしておこう」


(その件も何も⋯未来永劫何も話すことはないけどな⋯)


 浮かれ顔からいつものキリッと引き締まった顔にもどった花蓮先輩はやはり可愛い。


「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎? ⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎」

 双子に何かを言っている。


「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎! ⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎」


「成る程、本当にノア君は私を助けに来ただけなのだな」


「えぇっと。さっきからですが⋯このエルフ言葉が分かるんですか?」


「あぁ、王城の書庫で言語書があったから数時間で覚えた」


 すげぇな⋯。


「君の事が知りたいが、まずは私の方から言おう。ノア君を探索しようと調査隊と動いたのだが、ゴブリンの跡地を見た後、そのままどんどん更に奥に進んでいき、その時点で予定と違っていたが⋯私には止める事もできず、ついていくしか無かった。そして、ここまで来ると有無を言わず兵士達が一斉にエルフ達に攻撃を開始した」


「え? エルフ達からじゃなく?」


「あぁ、君もここまで来たら疑問に思っていただろう? お粗末な武器や防具を装備していたのを。この程度の装備でどうやって立ち向かえと」


「それは俺も思いました。俺がこっちに出発する前に聞いた話では、エルフから有無を言わず攻撃され花蓮先輩がクリスタル化されて奪われたと聞きました」


「クリスタル化は実際は兵士にやられたのだよ。私は弱者を蹂躙する趣味はないからな。そこでエルフ側について兵士達を出来る限り殺さないように斬っていくと、クリスタル化されたのだ。そのクリスタル化になる直前に、大きな魔力撃を打ち込んだから兵士は退却して、私は保護されるように奥に運ばれていったとの事だ」


「なるほど、俺の方は先輩を解除するには、この琥珀結晶をクリスタルに当てれば解除と聞いたんですけどね。実際にそれを実行した場合は、大爆発を引き起こしていたらしいです」


「なるほど、そこで地面に描いてある絵という訳か⋯」


「そうですね⋯⋯ただ、この双子と知り合っていなければ間違いなく終わっていました⋯」


 双子の方を見ると、それに気づいたのかニッコリと微笑んでくれる。


「それをふまえて、これから私達はどう動いていくかだな」


「そうですね。俺が出てまだ 1日なので王国が気づくまでは多少時間あると思いますが⋯」


「とはいえ、私達が動く選択肢が少ないのも事実⋯普通に考えて王国に立ち向かうか、村ごと移動して安住の地を探すか⋯」


「そういえば王国で地図などはなかったんですか? 少し前にアポフィスが此処は実験場といっていた言葉が気になるので⋯⋯この渡された地図も森しかないですからね」


「アポフィス?」


「えぇ、この村に生贄を求めていた黒竜です。その時に双子と出会ったんですが、その後に鎖に捕らわれてどこかに消えて行きました」


「アポフィス⋯⋯確か出発前に王城で聞いた事があったような⋯⋯だとすると、やはり安住の地はないかもしれないな」


 王国に立ち向かうも武器も防具も実用性あるものはなく、王国に通用しそうな可能性があるのは魔法だけであった。


 更に王国には元生徒達が住んでおり、モンスターを誘導して王城を荒らすという行為なども封じられていた。


「本当は一番最初に聞きたかったのだが、ノア君はどうやって今日まで生き延びたのだ? 生きてくれて嬉しいのだが、何度も奇跡というものが起こる訳がなく、実力で生き延びたと考えられる」


「それはですね⋯」


【警告:スキル名⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎の詳細を明かした時点で、相手に『審判の天秤(アルカナ)』を付与する】


 説明しようとした瞬間に頭が鈍痛に襲われ、脳に警告(アラートメッセージ)が鳴り響いた。

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