第9話 妖精三日会わざれば刮目して見よ

「ふぅ⋯⋯」


 なんだか、街より森の方が身体が生き生きするのは気のせいだろうか。


「にしても、この地図やっぱ便利だわ」


 樹海の様なこの森。目的地までの最短ルートを示してくれる。


 山水は美味いし、果物もみずみずしくとても糖度が高い。もう少しこういう所に目を向ければ、変ないざこざや争いも減るんじゃないかと思う。


「よしっと、もう少し頑張るか!」


 小休憩を挟み体力を温存しながら、目的地まで向かう。


 更に深く進んでいくと人の気配がする為、立ち止まる。


「⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️」

「⬛️⬛️⬛️⬛️」


 言葉はやはり分からないが、こっそり姿を確認するとエルフの様だ。


 武器は木の弓と鉈みたいな剣。正直に兵士相手に向かっていく様な装備ではないと思う。


(さて⋯どうするか)


 言葉が通じないし、先に進むには鉢合わせするしかない。


(まぁ、元から考えは決まっているが⋯)


 フードを深く被るとバッと姿を表し、堂々と正面突破である。


「⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!!!」

 敵襲とでも叫んでいるのだろうか、大勢のエルフが道を阻む様に武器を構えている。


(⋯⋯⋯攻撃してこない⋯⋯)

 もう、この時点で話とは全然違う。


 どう見てもこのエルフ達は威嚇行動であり、争いたくはないから帰ってくれって言っている様に感じる。


 近寄ると一歩後退し武器を前に突き出してくるがその腰は引けている。


 攻撃が届く距離まで近寄ると、目を瞑り槍を突き刺してくるが、時間の遅速を使う必要もなく避けると、槍を手放し両腕で頭をガードする様にうずくまる。


 周りが斬りかかってくるが、これは遅速を使い全員の武器を同士討ちしない様に上に向けると、バランスを崩しそのまま全員がこける。


 何をされたか分からないエルフの男性達は、その恐怖に顔を歪め立とうとしなかった。


(おかしい⋯⋯これは⋯おかしい)

 まるでこれは躾されている犬である。家族を守ろうとする志はあるが、それ以上にご主人である人間に服従をしているような⋯。


 立たないエルフを後に、俺は足早に歩を進める。


 その後も幾度か交戦はあるものの、全てが先ほどと同じであった。


 村に侵入すると、女性や子供、先の戦いで負傷を負った男性が怯えながら警戒している。


 奥に進むと目的の物が見えた。


 大きなクリスタルの地面からはいくつもの結晶が剣山の様に生えており、クリスタルの中に人の影が見える。


 急いで行こうとしたが、クリスタルを守るかのように震える女性達が列を組み、更には負傷している男性エルフも剣を取りおぼつかない足で立ちふさがる。


 その光景を見て立ち止まっていると、俺の前に左右から2本の矢が刺さる。


「帰れ! これ以上エルフを苦しめるな! それならば、お前達をきる!」


 綺麗な声なのだが、言っている言葉に微妙に違和感を感じながらも、通じる言葉を叫んでいることに少しだけ安堵する。


「喋れるのか? ならば話を聞きたい。俺はあんた達に危害を加えるつもりはなく、知り合いを助けたいだけだ」


 フードを脱ぎ、両手をあげる。


「⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!!」

 先ほどより大きな声で、ドタドタと音を出して下に降りてくる。


 まだかなり若いエルフが二人、左右から同時に降りてくる。


 一人はサラサラな髪、もう一人はクリクリな髪だが二人とも同じ顔をしていた。


(なんだか、あの時の二人の子供を思い出すな)


 と、思っていたら二人が同時にタックルをかましてくる。


「⬛️⬛️⬛️⬛️!!」

「⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!」


 静止しないという事は、攻撃ではなく、ただの抱きつきだという事。


「な⋯なんだ?」


 更に二人の後ろから見覚えのあるイケメンと美女が現れる。


「えっと⋯⋯あの時、助けに来た二人だよな⋯⋯っという事は⋯⋯」


 もう一度改めて二人を見るが、確かに特徴が一致している。


 3日前までは子供だったのに⋯⋯いまでは美少女に成長していた⋯⋯。


 男子三日会わざれば刮目して見よというが⋯⋯成長というよりかは、これは最早進化ではなかろうか⋯?



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 相変わらず言葉は通じないため、木の棒で地面に絵を描く。


 まずはこの双子のエルフを髪の毛で表現し手を握らした絵を。


 次に花蓮先輩と俺も同じように描く。


「⬛️⬛️⬛️⬛️?」

「⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!」

 理解してくれているようである。


 次に琥珀結晶を見せクリスタルにつけると先輩が出てくるように描くが、首を横に振られる。


「ちがうのか?」

「⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️」

 双子が木の棒を持つと琥珀結晶の形を描き、クリスタルに近づけると大爆発する様に描く。

(絵が上手いな⋯⋯)


「っという事は、俺がコレをしていたら全員死んでいたというわけか」


 次はマジックブレイカーを取り出すと、魔法を無効化する様にイラストに描く。


「⬛️⬛️⬛️!」

 双子の一人が手のひらに炎を出すと、ナイフでやってくれと差し出してくるので、無効化すると大変驚いていた。


 このナイフでクリスタルを無効化出来るか? とジェスチャーすると、頷いてくれた。


 双子がみんなに説明をすると道をあけてくれ、俺は久々に花蓮先輩と対面した。


 マジックブレイカーをクリスタルに差し込むと、魔力無効化ではなく魔力喰いが発動し貪り喰うかのように吸収していくとクリスタルにヒビが入りそのまま弾けるように割れて、先輩が地面に倒れこんだ。


「先輩? 大丈夫ですか?」

 返事はない。呼吸をしているようには見えず胸に耳を当てると、ゆっくりとトクンットクンと心臓の音が聞こえた。


(ふぅ、とりあえずは生きているか)


「⬛️⬛️⬛️⬛️!」

「⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️」

 その魔法無効化の様子を見ていた双子が何かを言っていると、女性エルフ達を連れてくる。


 女性エルフ達は上半身の服を脱ぐと胸を手で隠し身体の刺青みたいな模様を見せてくる。


「な⋯なにを?!」


 スレンダーだが、そのラインはとても妖艶で綺麗である⋯しかも自分の周り⋯⋯360度どこを見ても全員が上半身裸である。


「⬛️⬛️⬛️⬛️!」

 ナイフで模様を切ってほしいとジェスチャーをしている。

「⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️」


「わ⋯⋯わかった⋯」

 正直、俺の鼻の下伸びてないだろうか? 多分顔は真っ赤どころかハバネロな気がする。


 双子が女性の胸にある印を指で指して教えてくれる。


 そこにナイフを当てると、刺青がナイフの中に吸い込まれていく様に消えていく。


「刺青ではないのか?」

 綺麗になった身体に感動したのか、胸から手を離し感涙していたが、俺はそれどころではなかった。ぷるんと揺れるプリンの先には小さなサクランボが出現していたからだ。


 すでに俺自身の理性との戦いが始まっており、

(はんにゃーはーらーみーたーしんぎょう〜)

 咄嗟に心の中で般若心経を歌い冷静になろうとする。


 俺はそう! 医者だ。いまは治療していると思え!


 その後も、双子から次々とエルフ女性の指定された箇所を解除していく。


 綺麗な背中のラインからみえる臀部、たゆんと揺れる胸、数々の誘惑を般若心経を唱えながらクリアしていく。


 そして何とか全員の治療が終わると女性エルフ達はお礼の言葉だろうか? 一礼していくと急いで出て行った。


「結局なんだったんだ? あれ?」

「⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!!」

「⬛️⬛️⬛️!」

 見たいならついてきてと言わんばかりに、双子が俺の両腕を引っ張るが抵抗する。


「まて! もう少し待ってくれ!」

 それでも止まらない双子に引っ張られる様に立ってしまった。

 そう、先ほどの治療で既に俺の息子もギンギンにテントを張っている事は言うまでもなかった。


(やめて⋯⋯そんなにマジマジと下を見ないでほしい)

 男ならしょうがないだろと思いつつ、死にたい気持ちで一杯である。


 落ち着き外に出ると、女性達が負傷者を魔法で治療をしていた。


「なるほどな、先ほどの刺青で魔法が使えなかったということか」


 少し見て回るだけで、魔法効果の恩恵はすごいと言わざるを得ないと感じる。


 ただ、それに対しての食料は非常に少なく俺が取ってきたのも先輩と俺の分が満足して食べてる程度だったので、双子にその食料を渡し地図を広げて周辺の食料確保を聞く。


 少し離れた所を教えてくれるが、地面に熊と狼の絵を描く。狼は◯のマークが、熊は✖️のマークがつき、熊の場合は逃げる様に描かれる。


「あぁ、大丈夫だ。行ってくる」


 心配する双子もついてこようとしていたが、花蓮先輩をお願いすると、渋々了承してくれた。


 すでに俺から見た王国への信頼度は地の底に落ち、これからの行動はひとまず花蓮先輩が起きてからを考えるようにすればいい。


(いまは余計な事を考える必要もない)

「とりあえず食料を集める事だけを考えよう」

 

 それだけを考え、俺は行動を開始した。

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