第8話 王の真意
「朝⋯⋯か」
ふにょん。
嫌な夢を見た。先輩が敵に捕らわれたとかどうとか⋯⋯。
ふにょん。ふにょん。
にしても、この布団かなり気持ちいいし、いい匂いがするな⋯。
手触りもウォーターベットなんか比にならないぐらいに絶妙の柔さ。
「⋯⋯んっ⋯⋯」
声? 声もするベットなんてものがあるのか⋯。
(いやいやいや。そんなものある訳ないだろ!)
恐る恐る目をゆっくりとあけると、白い大きな果実が重力で重なっていた。
「うわぁぁ!」
跳び起きると、はだけたシーツを手に取り胸に当てるショーツ一枚のイオさんがいた。
「お目覚めになりましたか?」
「あ⋯⋯う。いつからいたんですか?」
顔を背けて質問をする。
「深夜からですよ。調査隊が帰ってきて呆然となっていましたので⋯」
「えぇっと、もしかしてやりました?」
「もし、そうだとしていたらどうしますか?」
獲物を狙う目で見つめ、舌でペロリと唇をなぞる。
「もし、そうなら責任を⋯⋯」
「え? それは残念です。やっておけば良かったですね」
意外な返答に驚きを隠せずにいた。
「なら⋯⋯」
「えぇ、やってはいませんよ。でも、次があるなら遠慮しないように致します」
「はは⋯そうならないようにします⋯」
「それと昨夜の件で、王様がお話があるそうです」
「分かりました⋯すぐに行きます」
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「クリスタル化というのは⋯」
昨日、深夜に帰ってきた兵士の話を王様から聞く。
「いわゆるエルフ達が得意とする魔力結晶の事なのだ。自分たちで使うなら生活エネルギーへ、敵に使うなら魔力暴走をさせて大爆発を起こす」
「マジックブレイカーなどで、それは解除できるのですか?」
「それは⋯不可能だが、コレを使えば解除できる」
そう言いながら、琥珀色の結晶を出す。
「これは?」
「クリスタル化の完全解除が出来る結晶じゃ、過去に何度か使われてな⋯対策として少し前には完成はしておったんじゃ」
「なるほど⋯」
「使用方法は簡単で、クリスタルに当てるだけ。ただ⋯問題はそのクリスタル結晶の位置だが、村の奥に運ばれていると考えられる。急がねばならぬが⋯戦闘は避けられぬ」
「ちなみにクリスタル化さえ解除すれば、先輩は逃げれそうなんですか?」
「あぁ、こちらに戻ってくる移動術も取得しておる」
「なら、俺一人で解除してきます」
「それはならぬ。わざわざ死なせに行くような事にはさせぬ。すぐに兵士を集めて再度出るように手配しよう」
「いえ、俺の目的は戦闘ではなく先輩の解放ですので、ソロの方が確率は高いです」
「ふむ⋯だがしかし⋯ううむ⋯分かった⋯⋯だが、必ず帰ってくるのだぞ」
部屋に戻り、身支度を済ませる。
「行かれるのですか?」
部屋の中に入ると、メイド姿のに着替えたイオが凛として立っていた。
「イオさん⋯えぇ、単独のほうが楽そうですからね」
「本当に変わったお方なのですね。ここに来た人達は最終的に保身しか考えていませんので⋯」
「朝に良い物を見せていただいたので、調子に乗っているだけですよ」
「ふふ、もし無事に帰ってこられたら私の全てを捧げますよ。ではご武運を」
「えぇ、分かりました。楽しみにしています」
昼には王城をでて、森に入っていくが疑問点がいくつも増えすぎていた。
エルフが有無を言わず攻撃を仕掛け、花蓮先輩をクリスタル化した事。
(アポフィスの時に見たエルフはどちらかと言えば怯えていた。集団で集まったとしても有無をいわずに攻撃する想像がつかない)
クリスタル化について。
(魔力結晶といったのにマジックブレイカーで解除を完全否定し、琥珀結晶を渡した事)
あとはやはり、あの街での生活か⋯⋯。違和感にしか感じられなかった。イオさんも俺の事を気に入ってくれているのかもしれないが⋯⋯何かその奥に得体の知れないのも感じたし。
「まぁ、とりあえずは先輩を助けてからの話だな」
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「行ったか⋯⋯」
「本当によろしいのですか? 王様」
「うむ。貴重な人材は惜しいが剣王の武防具も手に入れ十分であろう」
「で、二人ともモンスター共々吹き飛ばすって訳なのですか?」
いつのまにかメイドが、二人の背後に音もなく立っていた。
「あ⋯⋯貴女はイオ様! どうしてこちらに!」
「剣王の磁場が掻き消されたから様子を来たのよ。そうしたら面白い少年君がいるから貰おうかと思ってたんだけどね」
「なるほど、それは申し訳ないことをしましたな。ただ、剣王の装備が手に入りましたからな。これで、やっと我が国も周りに認められる事になりましょうぞ!」
「そう⋯うまくは行かないと思うけどね」
「あの『無音の聖女』とも言われるイオ様のお言葉とは思いませんな。そんなにあの守乃白鴉が気に入ったのですか?」
「へぇ⋯? そういう名前だったのね彼⋯。彼の事が聞けて嬉しいわ」
「名前すら知らなかったのですか⋯⋯? 相変わらずですね。なら、詳細を知ったなら、あの少年に興味をなくしますよ? あの少年は歴代召喚者の中で最弱ステータスだったので⋯」
鑑定書を見せると嬉しそうににやける。
「コレ⋯貰っていくわ。まぁ、精々がんばって足掻いてくださいませ」
一礼するとそのまま姿を消す。
「何だったのでしょうか?」
「さぁな、剣王の装備も興味がなく、あの最弱に興味を持っていたからな。強い奴ほど何を考えているのか分からんもんだ」
「それにしても物凄い美女でしたね。聖女ってことは⋯⋯」
「アホな事を考えるな。手を出そうとしたら、痛みもなく絶命すると思え」
「え?」
「彼女は暗殺者クラスの中で勇者と呼ばれているからな。自分より強い奴しか求めていない狂者だ」
「えぇ? そんな方がなぜあの少年に?!」
「だから言ったであろう。強者程、考えてる事がよく分からんと」
「なるほど⋯」
「それよりもアポフィスのほうはどうだ?」
「あの黒竜は残念ながら、呪いを拒み身体に腐敗が広がっております」
「そうか⋯⋯我等の下につくことはしなかったのか⋯」
「えぇ⋯⋯最後に喋った言葉はこの国はもうすぐ終わるという言葉だけです」
「どいつもこいつも不吉な事ばかりいいおって! まぁ良い。景気づけに! もうすぐエルフの村が消滅する瞬間を楽しませてもらおうか!」
不気味な笑みをこぼしながら王は笑っていた。
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「守乃白鴉⋯⋯ノア君かぁ」
鑑定書を隅から隅まで何度も読み返す。
「この最弱ステータスで剣王を突破し、更に保身より他人の安否を心配している⋯か」
鑑定書を顔に押し付け足をジタバタする。
「態度も可愛いし、いいな〜。いいな〜。今回だけ手伝⋯⋯⋯ううん、そんなことしたら駄目よね。これで生還するんだったら⋯⋯」
森の方を見る。
「初めて、こんなに読めない相手。そしてこの心臓のトキメキ。ふふふ⋯頑張ってねノア君。もし君が死んだらこの国を潰しておいてあげる。けど、死なないよね? 剣王を越えるよりも遥かに難易度低いんだし」
王城の頂上にて恋い焦がれる様に彼を思いつつ森を眺めていた。
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