第7話 王都へ帰還
「今日も平和だな」
「あぁ、王城周辺のモンスターは最近見なくなってきたしな」
「あぁ、ゴブリン達が消えたんだろ? それで縄張りの位置関係が変動したって聞いた」
「大集落も跡形もなく消えてたらしいな。調査隊が言っていた」
「あぁ、まじで何があったんだろうな?」
森の方から、ガサガサと音が響く。
「ん? なんだ? モンスターか?」
影が姿を表す。
「あ〜なんか初めて見る感じだ」
実際、こうじっくり見るのは初めてである。最初はサッサと転生の洞窟に行って、それっきりであった。
「おい! 止まれ!!」
「はい?」
「何者だ! どうやって森から来た!」
「守乃白鴉です。10日前ぐらいに召喚されそのまま転生の洞窟に行かされたんだけど、もしかして忘れられている?」
「嘘をいうな! 単独で森で生き残れるわけがないだろう!」
「どうした? なにか問題か?」
「隊長! 10日前に森に入ったと嘘を言った男がいます! 森へ追い返してもよろしいでしょうか?」
「ふむ⋯」
目の前の男を見ると、心臓が強く跳ねる。
「い⋯いや、コイツで会っている。お前は今すぐ王の元へ走りすぐに報告せよ!」
「はっ!!」
「こちらの門兵が失礼した。報告が終わるまでこちらにどうぞ。
そう言われて兵舎に移動する。
「何か飲むかね?」
「いえ、大丈夫です」
「本当に君は転生の洞窟に行って戻ってきたのか?」
「えぇ⋯。そうですね」
兵士が息を切らしながら戻ってくると隊長に報告をする。
「待たせたね。王がすぐにでも会いたいそうだ。このまま城まで案内しよう」
「ありがとうございます」
「おお!! よう戻ってこられた英雄よ!!」
城に入るなり、王がものすごい満面の笑みで出迎えてくる。
「英雄?」
「そうじゃ! 誰にも成し得なかった転生の洞窟を越えてきたんじゃ! コレを英雄と言わずになんと言えばよい」
うざいぐらいの手のひら返しである。
「申し訳ないですが、たまたま運が良かっただけですので⋯⋯」
「謙虚な所も器のデカさを感じられるわい!」
うっぜぇー。もう何言っても無理っぽいな。
「それよりも花蓮先輩はどうしていますか? 一応生きていた報告をしたいんですが⋯」
笑顔から一変真面目な顔になる。
「その話は昼食の時に話をしよう」
豪華な長テーブルに他の貴族だろうか? それぞれが座っている。
「さて、英雄が帰還したことにより、この城に様々な武防具が戻ってきた! 皆の者、彼の顔を脳裏に刻み、彼の顔に泥を塗った場合は、我に唾を吐いたと認識せよ!」
(おっもいなぁ⋯⋯。ってか、こんな豪華な食事なんて食い方知らないっつーの)
「して、彼女の事だったな」
「はい」
「彼女はここにある本や言語、武術による勉強を次々に吸収し、つい前日、英雄殿を探しに森の探索部隊と一緒に行ってしまった」
「なら、すぐに俺も⋯!」
「いや、探索といえ本格的ではなく実際の森を体験する慣らしみたいなものじゃ、明日には戻ってくるからまたすれ違いになるやもしれぬ」
「そうなのですか?」
「あぁ、だから今日はすまんが、我々にお主の話を聞かせてもらいたい」
「分かりました」
こうして、これまでの経緯を語る。ただしそれは転生の洞窟を越えてゴブリンで仲間と会った所までであり、その後は水辺と果物を食べながらなんとか生き延びていた事にした。
「なるほどのぅ。生き延びている時点で素晴らしいとは思うが、剣王の時に何かを貰ったりはしなかったのか?」
「ここに戻ってきた仲間が持っていたスクロールが全てですが、あぁけど一応、自分にはコレを頂きました」
ナイフを見せる。
「コレは?」
「マジックブレイカーをワンランク上にしたと言っていました。性能は一切変わらないんですが、時の進行をすこしだけ緩やかにしてくれるので、モンスターに見つかった時はこれで逃げていました」
「時の遅速か、流石は神器級じゃな」
「はい、この武器だからできたとも言っていました。デメリットが多いほど強力な付加ができると」
「なるほどな。確かにこんなのを一般が使えるならそれこそ無敵じゃな」
「あと言いにくいのですが、この装備は私が死ぬと元のマジックブレイカーに戻るとの事です。呪いと連結してると言っていました」
これはハッタリである。呪いを解除して奪われても困るのでフラグを立てておく。
「⋯大丈夫じゃ。それはそなたに差し上げた物。そのまま持ってもらっていた方がその武器も意味があるというもの。これであらかた話は聞いたかの? 今日はこの城で部屋を用意しておくが、夜まで時間があるが街を見に行かれるか?」
「あ、はい。よろしくお願いします」
「うむ。ならば、案内役を用意させよう。何か必要なものがあれば案内役に言えば問題ない」
「それ⋯は」
「お主は少し謙虚すぎる。此度の武防具の献上はこれまでにない偉業を達成したのだ。装備できないとはいえ武防具の一つ一つの価値は一生遊んで暮らせる価値以上であるのだ」
「分かりました⋯甘えさしていただきます」
「うむ!」
その後は客間に案内されて、しばらくするとコンコン扉がなり、綺麗な女性が入ってくる。
「はじめまして、今日、街の案内をさせて頂くイオと申します。よろしくお願いします」
可愛いというよりかはキリッとした綺麗な美女がメイド服を着用している。
「はぁ、よろしくお願いします。っというか案内役はメイドさんだったんですね」
「この格好はお気に召しませんか? 身体には多少自身がありますので、肌を露出さした方がお好みでしたら着替えて参りますが?」
「いえ、それで構いません。が、女性と二人で街を歩くといっても慣れてないし、面白くないかもしれませんが⋯」
「大丈夫ですよ。私の事は荷物持ちだと思っていただければ⋯それと、私の身体もご自由に使って頂いて構いませんので、お気軽に申してください」
身体を自由にって⋯。そういう事なんだろうけど⋯⋯。
改めて見ると胸は大きいのに、腰はキュッとしまり、お尻もちょうどいい感じに出ている。
「ご所望であれば、脱ぎましょうか?」
ジッと見ていたのが気になったらしい。
「大丈夫です。手を出す気はないですのでそういう発言はしなくても大丈夫です。では、早速街に行きましょうか」
「⋯⋯はい、かしこまりました⋯」
街に出て歩くと、かなり賑わっている。
「すごい活気ですね」
「そうですね。この辺りではこの街が最重要拠点ですので」
「なら、他の街もあるんですか?」
「分かりません。この森を越えた先にもしかすると更に大きな街があるかもしれません」
「っという事は、ここ以外に街がないかもしれないってことですか?」
「いえ、たまに外から迷い込む人間もいらっしゃるので存在するとは思いますが⋯⋯それも今回のあなた達みたいに召喚されているのかもしれません⋯」
「なるほど⋯」
嘘を言ってる様には見えないが、信憑性にかける。エルフはいたが、その事を話してはいけないだろうと思う。
「あ、そういえば、俺がスクロールを渡した人達はどうしているんですか?」
「⋯⋯平民として迎えられましたよ。ただ、特殊例ですので、金銭とそのグループで住める家のみを提供致したとの事でした」
「会えますか?」
「はい。ただし、後悔するかもしれませんが⋯よろしいですか?」
「えっと⋯⋯何かあったのですか?」
平民⋯⋯って確か、前の生活とそう変わらないって聞いたけど⋯。
「奴隷を免除し、家も与え金銭も用意致しましたが、その後は自己責任だということです」
言葉が引っかかるも、その家に案内される。
案内された家はそれなりに大きく、特にボロボロには見えなかった。
が、中に入るとムワッと性の匂いが充満していおり思わず顔を背けた。
「いらっしゃいませ。初めての方ですか?」
入ってすぐに受付のカウンターがあり、そして女の子のプロフィールが書いてあるメニュー表が貼ってあった。
「俺を覚えていないか?」
「お客様をですか? 申し訳ございません。王城のメイドを連れた方が来店される事態初めてですので⋯⋯」
「いや、俺はあの時、ゴブリンの集落であっただろう?」
「ゴブリンの集落⋯⋯あぁ! あの時のGか!」
「おお、そうそう。それで悪いんだが少し話を⋯」
そう思っていたが、見る見る内に青ざめた表情に変わっていく。
「おい、大丈夫か?」
「申し訳ありませんお客様。仕事中ですので⋯⋯」
俺を見て青ざめたんじゃないと思うが、これ以上は話ができそうになかった。
「そういえばここは病気とかは大丈夫なのか?」
「えぇ、それは問題ありません」
「イオさん、少しここで遊んでもいいでしょうか?」
「構いませんが⋯⋯私ではダメなのでしょうか? 私であれば貴方の望むままにご奉仕をいたしますが?」
「正直にいうと⋯⋯イオさんが美人すぎて心の準備ができていません⋯。それよりかは同じ世界にいた人間のほうが最初は楽なので⋯」
「⋯分かりました。では、私は外で待機していますので、ごゆっくりとお楽しみください」
「じゃあ、すまないが、俺の望むタイプでお願いします」
メニュー表をなぞるように、話が聞きたいと指で伝える。
「分かりました。では、この票と同じ番号にどうぞ」
二階に上がり、番号の扉に入るとあの時のグループにいた女の子がランジェリー姿でいた。
「あれ⋯⋯君はあの時の?」
男と違い女の方は覚えてくれていたらしい。
「あぁ」
「そんな事より扉閉めて入りなよ。どういう店か理解して入ったんでしょ?」
扉を閉めると、女の子が近寄り、腕に胸を押し当てて奥に引いていく。
「悪いが行為をする気はないから、普通に話が聞きたい」
「ふ〜ん? まぁ、お金くれるなら楽だからいいけどね。で、何が聞きたいの?」
「この現状について。家も金銭も用意して平民として迎えたと言っていたが、どうしてもこの状態に疑問を持ってしまう」
「あぁ、なんだ。そんなこと。要するに平民になったとしても能力値が低いから誰にも雇ってもらえず身体を売るしかなかったってだけ。男子は更に焦るから、他の平民女で困っているのを見つけてはここに連れて働いているわ。で、案内役や営業をして店を回してる」
「そ⋯それは⋯」
「悪い事をしたと思わなくていいよ。奴隷になったら本当に⋯⋯」
なぜか先程の男の様に見る見る青ざめていた。
「お⋯おい」
「あ⋯⋯ごめん⋯さっきはそう言ったけど、やっぱり仕事だからちゃんとしたいかも」
ランジェリーを脱ぎ裸になると抱きついてきた。
その肩は震えている。それは、初めてだからではなく何かの恐怖である事はわかる。
「悪いけど⋯俺もあまり慣れていないから電気を消してシーツの中でいいか?」
「え⋯うん」
やるというのはハッタリだが、電気を消してシーツの中に入れば流石に恐怖心は薄れると信じて実行する。
暫くひっついていると肩に震えが少し収まる。
「胸触っていいか?」「動いていいか?」などの言葉を並べてベットを揺らす様に動かしている間、自分達のシーツのすぐ側に誰かが立ちジッと俺たちに対して敵意をむきだしに傍観しており、初めて俺にもその殺意が肌にピリピリと感じた。
本番が終わった様にして一気にシーツを剥ぐが誰もいない。
「気持ちよかった。ありがとうな」
「はい⋯。またいつでもお越しくださいね」
ぎこちない営業スマイルをしながら別れて、そのまま館を出るとイオが人形の様に立っていた。
「イオさん、ずっと立っていたのですか?」
「はい、守乃様が入られた後から、ずっと立って待っていました」
「う⋯⋯本当に申し訳ありません」
「いえ、これぐらいメイドであれば当たり前の事です。ただ、次回は私をご利用くださいませ」
「い⋯いや、イオさんの裸を見ただけで理性が飛んでいきそうなので⋯⋯」
「こう見えても私は処女ですよ」
(何言ってんだこの人⋯)
真顔の爆弾発言はビックリする。
「ええっと、嘘ですよね?」
「信じていただけないなら、広げてみますのでご覧になりますか?」
「いえいえ! 大丈夫です。信じました! 信じましたから大丈夫です!」
「そうですか⋯」
「それなら尚更⋯⋯本当に好きな人ができた時にとっておいた方がいいのでは?」
「⋯⋯? 貴方の事が好きですので、今日の案内役に立候補したのですよ?」
「え?」
「最弱ステータスなのに剣王に認められたのですよ? 少なくともこの街で貴方に求愛されて断る女性はいないと思われますが?」
「嘘じゃなく本気ですか?」
いつのまにかハーレムルートに入ってるじゃん!!
「けど、それって剣王に認められたというステータスですよね?」
「他は知りませんが、私は偉業を達成したにも関わらず普通の生活を求める貴方の性格が好きになりました。ただ少し残念なのは⋯⋯たった今、経験した事でしょうか⋯。初めて同士でしたらとても嬉しかったのですが⋯」
「あはは⋯すみません⋯。あ、ならイオさんにお願いしてもよろしいですか?」
「はい? 何でしょうか?」
「メイドの案内役ではなく、普段のイオさんで一緒に街を見て回りませんか?」
「えぇっと⋯⋯⋯分かりました。暫くあそこにあるお店で待っていてもらえますか?」
そのまま店に入るとコーヒーを用意してくれた。
「お⋯お待たせしました」
先程のキツそうな綺麗なメイドから一転、ワンピースにカーディガンという、とても女の子らしい格好で現れる。
「⋯⋯⋯」
先程は綺麗しか思わなかったが、今は綺麗というよりかは美しいや可愛いと感じ言葉を失う。
「に⋯似合いませんか?」
「あ⋯⋯いや、あまりに可愛くて見惚れてました」
「そうですか! よかったです」
俯いて頬を紅潮させる姿がまた可愛く、そして、そのまま彼女の案内で街を周った。
夕方には城にもどり、彼女は名残惜しそうだったが城に戻るとピシッと最初に顔にもどっていたが、紅潮した顔はすぐには冷めず一礼をし去っていった。
就寝している中、城が慌ただしくなり起きる。
「申し訳ございません。エルフの村までいくと有無を言わず攻撃をされ、Sクラスである彼女がクリスタル化され敵の手に落ちました!!」
退却したらしい兵士が他にも被害の事やら色々と叫んでいたが、俺の耳に入ることはなく、ただ呆然と立ちつくしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます