第6話 二人の妖精

「ふぁ〜ぁ」


 目が覚め、大きくゆっくりと背伸びをすりと、朝食である果物を食べながら地図を広げる。


「さてっと⋯今日はどこに行こうかな」


 今、現在いる場所から赤い点はそれなりに数があり、これはゴブリンからみて脅威だと思われるが、強さのランクは不明であった。


「ま、近場から見ていくしかないよな」


 赤い点が他の点より離れている場所に決める。


「さて、行くか」


 途中、水辺で水を確保し、更に果物もいくつか調達して赤い点の場所に向かっていった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 その場所には、とてつもなく大きな洞穴がある。


 中は全てを塗りつぶすかの様な光も通さぬ黒一色。


 その洞穴の入り口には人工的に作った祭壇の様なものがあり、そこに二人の子供がガタガタと震えていた。


【すまない⋯⋯本当にすまない⋯】


 二人の少女は村の生贄に捧げらていた。


【今月は双子を所望されてしまった⋯⋯まるで我らを監視しているかのようだ⋯⋯だが⋯歯向かえばこの小さな村は⋯⋯本当にすまない⋯】


 村の人間に抗議をしたのだろうけど⋯⋯それも虚しく話し合いすらならずに終わった。


 村を出たとしても、いくあてもない。


【不甲斐ない父を恨んでくれ⋯⋯サラ⋯⋯ティヤ⋯】


 その後、泣きじゃくる私達を村のみんなは檻にいれ、ここまで運ばれてきた。


 暫くすると洞穴から巨大な足音が響く。


「こわいよ⋯⋯サラ」

 ガタガタと震えている。

「うん⋯私も怖いよティヤ⋯⋯」

 お互いが連動するように、ガタガタと身体は勝手に震えている。

「眼を瞑ってずっとこうしていよ。そうすれば怖いの⋯⋯なくなるから」


 眼を開かなくてもわかる程、何か巨大なモノが近づいてくるたびに大地が振動する。


 その音が大きくなるにつれて、双子の姉妹はお互いを力一杯抱きしめていった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「うーキツイ」

 都会っ子ではないが、街に住んでいた人間がジャングルみたいな森を探索するのは思ってたよりずっと厳しかった。


 地図を見ながら赤い点に徐々に近づいていく。


「はぁ〜はぁはぁ⋯もう少しだ。ここを抜ければ、やっと印ポイントにィィィィィィ!!」


 もう少しで到着するという達成感に最後はダッシュで行こうとしたのが失敗したと実感した。


「断崖絶壁なんて聞いてねぇよ!!」


 森の中にポッカリと穴が空いていたクレーターにそのまま落下する。


 走ったことにより、止まりきれず、そのままいい角度で落下しているので、何かに掴む事もできず、みるみる内に地面にが近づいてくる。


(あ、死んだわ)


 そうして、1日ぶりの静止した世界に入り地面に潰れた。


「ブハァ!! 死んでない? 俺生きてる?!」


 全身は黒く赤いラインが全身に這っており、例えるなら自分の形影をしたプールに飛び込む様に潜ったみたいだった。


「た⋯⋯たすかった〜」


 ここで、時が動き出す。


【貴様⋯⋯なにものだ】


「へっ?」


 後ろを見ると真っ黒い龍が俺を殺すかのように睨んでいた。


 そして後ろには牢の中に二人の子供。


 絵図的には、俺がこの二人を助けるために割って入った形となっていた。


【愚かな小僧め! 我を誰か知っていての行動であろうな】


「えぇっと、申し訳ない⋯知らないので⋯できれば教えてくれると助かります。人ではないけれど言葉が通じるのはとても助かりますので⋯」


 時が静止する。


 龍の爪が既に俺の左側に迫っていた。


「問答無用ですか⋯⋯けど、喋れる相手だし⋯説得したい気も⋯」


【脆弱な種族が己の無知を悔いて逝け】

 龍爪を軽く振っただけで、地面が削れ、更には断崖絶壁の壁に爪痕が深く残る。


「で、結局だれなのでしょうか? 無知ですいませんが、本当に知らないので教えてもらえると助かります」


【ククク、此度は中々骨のある奴がきたじゃないか? お前があの村にいる強者か?】

 

 再び静止し、その爪や尻尾の反対側に移動する。


【なにをしているかは分からぬがやるではないか。今まで連れてきた生贄も散々助けようとする雑魚供が来たが全員喰ってやったわ!】


 龍が大きく息を吸う。


【ブレスを防げるモノなら防いでみろ! その生贄を守りながらな!】


 静止する。


「俺一人ならどうとでも逃げれるけど、確かにこの場合はこれから先に重要なポイントになってくるかも」


 そう、もし仲間ができた時、自分一人だけ助かる可能性が大いに実感できた。多分、仲間を庇って止めるスタイルは正しい。


 クロノスを神剣にし、自分も剣王モードに入る。


「殺してもいけないし、これでどうにか話を聞いてくれるとうれしいな⋯』


『絶剣』

 読んで字の如く、絶つ剣。


 ブレスによる炎は全て真上に流されて魔術喰らいにより飛散していき、剣圧の衝撃波で龍の下顎からアッパーカットしたみたいになり、巨大な龍も宙にひっくり返りピクピクしていた。


「あ〜⋯あ〜⋯⋯」

 加減はした⋯⋯加減はしたのだが、見えない所から不意打ちに攻撃を受けるのだから、ほぼ確実にクリティカル確定攻撃なのである。

 ボクシングでいう一発KOと同じだと実感した。


 目覚めるまでボケーっとしているのもなんなので、双子の子供を閉じ込めている牢の鍵を壊し、抱きしめあって震えている子供の頭に手を置いた。


 子供が頭をあげる。


(うわっ! 超可愛いな)

 オッドアイの二人とも天使と言っても過言ではない。一人はクリンクリンの髪の毛、一人はサラサラな髪だけど顔つきは全くそっくりである。


(よく見ると耳がトンガっている?)


 俺をジッと見た後、後ろに巨大な龍が倒れているのを見るとピィィと泣き出した。


「うぉ! 急に泣き出した! なんだ? 腹でも減ってるのか」

 持っていた果物を渡すと恐る恐る手に取り食べはじめた。

(リスみたいだな〜)

 小さな口でカジカジと食べている。


 後ろでズズズっと音がする。


【我は⋯⋯】


「お、目覚めた?」


【貴様⋯⋯⋯いや、主(ヌシ)は一体何者だ】


「1週間前ぐらいにここに連れてこられた人間。そして状況も何も把握できていない脆弱な種族です」


【人? 人がここまで単独で?】


「あ〜うん。なんか王から最低ランクだって言われ、転生の洞窟に強制的に行かされて、そこで剣王とあって、今に至る」


【剣王に会ったのか!!】


「あぁ。今はもういないけど」


【数々の装備品はどうしたのだ? 剣王と会い生きて戻ったのなら、何かを手に入れているはずだが】


「全部、城の連中に渡ってるとおもう。一緒に来た仲間の交渉に持って行かした。俺はこれだけ貰ったな」


 ナイフを見せる。


【これは⋯⋯なるほど⋯あやつがコレを継承させたのならば納得がいった」


「剣王の事知っているのか?」


【あぁ、過去に戦場をかけた相棒だったからな】


「で、なんで、そんな英雄みたいな龍がこんな子供を喰うような情けない事をしてるんだ?」


【⋯⋯ふむ。我もやっと⋯⋯。ならば見せてやろう。人が作りし呪いを、そしてこの世界の⋯⋯】

 洞穴から、巨大な鎖が瞬時に巻きつき、龍鱗もお構いなく割って締めつけていく。

【グ⋯ググゥ、コレを見ろ】

 洞穴に引きずり込まれるのを耐えるが、次々に鎖が龍を束縛していき徐々に喰い込み激しくなり血が溢れてくる。


「お⋯おい」


【この場所は実験場と思え! 人を信用するな。我が名はアポフィス=ウォーカー。次に会う時は必ず⋯⋯我を殺すのだ!】

 最後は殆ど鎖の繭状態になり、そのまま引きずり込まれていった。


 その後、洞窟の中を見たのだが、そこまで深い洞穴ではなく、そして流れ落ちた血痕以外何もなかったのである。


「⋯⋯さて、どうするか⋯」

 人を信用すると言われたが、前に進むにはひとまず喋れる場所に行くしかない。


 後ろでガサガサと聞こえると、若い男性と女性が震えながら立っていた。


「あぁ、たしか生贄を助けにくる奴らって言ってたな」


「⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!!」


 言語は通じないが、二人を返せと言っている事だけはわかる。


 二人を見ると、脚の裏に隠れていたので、一息ついて、もう一度頭に手をのせる。


「お前達の父ちゃんと母ちゃんな、殺される覚悟で迎えに来たんだ。それはとても怖い思いをしながらな来たんだと思うぞ? 来たとしても娘達が食われていたならとてもつらいし、守ったとしても順番が違うだけで何も未来は変わらなかったのかもしれない。それでも大切だから来たのだと思うからちゃんと行って話してあげな」


 二人は少し俯いて考えた結果、自分の親に大泣きしながら駆けだした。


 その後、双子はチラチラと俺の方を何度も振り向きながら森の中へ帰っていった。


「⋯⋯⋯ってか、イケメンに美女は反則じゃないか? エルフとかって⋯⋯ゲームとかで見た通りか⋯⋯っぱねぇな」


 あの双子が天使に見えたのも頷ける。


 こうして家に戻ってみると、誰かが来ていた証拠である足跡があった。

 それも一つ二つじゃなく、10単位である。


 その足跡は更に奥へと続いていた。


 俺を探しているのかどうかは不明なのだが、アポフィスの言葉も気になった為、一度王城を見にいく事にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る