第5話 王城

「コレより、奴隷の競売を始める!」


 王が高々と声を上げると、D〜Fランクの男女が首輪を嵌められ更には首輪に付けられている鎖で手足も繋げられており辛うじて歩く事が出来たのである。


 あの日、Gランクのやつと別れた後、城に戻ると有無を言わずに捕縛された。


 そして、そのまま牢屋に追い込められるように牢に入れられると他の奴らもいた。


「お前⋯よく6日も生きてたな⋯⋯」


「あぁ⋯」


「俺なんて最初の2日でギブアップだった⋯⋯それからはココで1週間後の明日まで放置だった」


「俺⋯らはゴブリンに捕まって順番待ちだった⋯⋯」


「あぁ〜⋯⋯そうか、それにしてもよく生きていたな」


「あぁ、なんかGランクが来て時間を稼いでいたら誰かが助けてくれたんだよ」


「まじか、そんな人が俺たちもたすけてくんねぇかな⋯。で、そのGはどうしたんだよ?」


「さぁ? なんかゴブリンや死んだ人間の墓を掘っていたから頭がおかしくなってたんだと思う。今はもう殺されてるんじゃないかな」


「まぁ、ここに戻ってきても死以外の選択肢がないもんな」


(お前等も奴隷いきは確実だけどな! ⋯俺だけはコレを使い絶対に奴隷から抜け出してやる!)

 ランダムに振り分けられているのは幸運だと感じた。俺はGから貰った切札になりえそうなスクロールをズボンの中に忍ばしていたからだ。コレはあの時一緒にいた仲間にも言っていない事だった。



 そして次の日、生き残った数十人の生徒は中庭に集められ、奴隷を買いに来た奴らもまた集まっていた。


「さて1週間、外で生き残る事をやめ、価値を示せなかった貴殿らは奴隷となる。買われた後は買主の所持品となるゆえ、最後に何ができるかアピールぐらいはさしてやろう」


 よく見ると⋯元俺たちと同じ生徒もいることに気づく。そして、その中には花蓮先輩もいた。


 それぞれがアピールをしていく。


 ある者は料理を、ある者は裁縫、ある者は剣技などの技術を。出来る限り奴隷となった上で少しでも扱いがマシになるようにアピールしていく。


 そしていよいよ俺の番になると、俺は腹の奥から大声で叫ぶようにいう。


「王様!! おれはぁ! 自分の価値を証明する物を持っています!!!」


「ほう⋯ならば、その証を示せ!」


 そう言われて、俺はスクロールを取り出し、あいつに言われた通りに解除すると、様々な武防具その姿を表す。


(おぉ! なんだコレ、すげぇ宝じゃねぇか!)


『お⋯⋯おぉぉぉぉおぉおぉ!!!!』


 買主達も王も全てが一斉に声を張り上げる。


(掴みはいいんじゃないか! これは貴族入り⋯いや、花蓮先輩と一緒の王族入りも夢じゃないんじゃないか!)

 そして、花蓮と仲良くなっていきその内⋯⋯妄想に浸っていく。


「よもや! 財宝を手にするとは!! ようやった!! 本物かどうかを鑑定せい! して、これはどこで手に入れたのだ!」


「ゴブリンに捕まっている時に見つけたものでございます!」


 兵士が鑑定書を王の元へ運んでいく。


「こ⋯これは⋯⋯こんな事はありえん⋯」


 王が何かを呟くと、黒いローブ羽織った奴らが呪文唱えると生徒達の下に赤い魔法陣が浮かび上がる。


「王よ。準備が整いました」


「うむ。貴様等に質問をする! 真実を答えぬと苦痛と絶望に陥る為、言葉には気をつけよ!」


(な⋯⋯なんだ? なんだかおかしな事になってないか?)


「いま数々の財宝を出したこの者と一緒にいた者は前に出よ!」


 そう言われると昨日のメンバーが前に揃う。


「こやつがスクロールを持っていたのを知っていた者は名乗り出よ!」


 みんな顔を見合わせるが、誰一人名乗り出なかった。


「ふむ? ならお主達は昨日までの間どこにいたのか答えよ!」


 そういうと、思い出すかのように全員が話しをしてゴブリンに捕まり、順番待ちの状態だった事を告げる。


「そのゴブリンの集落からはどうやって脱したのだ?」


 そこでGランクの彼が巨大なゴブリンと対峙している時に、誰かが助けてくれたのだという。


「彼⋯⋯は、まだ生きているのか!!!」

 花蓮の眼に生気が戻る。


「なるほどな⋯⋯あの少年の話は改めて後で聞くとする。なら、今一度聞こう。貴様はどうやって、このスクロールを手に入れたのだ」


「だ、だから⋯ゴブリンの集落で見つけ⋯⋯」

 右手を上げて説明しようとしたが、右手の感覚がフッと消えるとダラんと垂れ、自分の意思で動かなくなっていた。


「この魔法陣は、嘘をつけば身体を捧げるようにできておる」


「捧げるって⋯誰に⋯」


「さぁそれは誰にも分からん? 悪魔か天使か神かは知らぬよ。さて、もう一度聞こう。お前はあのスクロールをどうやって手に入れた?」


 全身の汗が噴き出る。


「⋯⋯⋯Gランクの彼が⋯⋯残り1日でも許されなかったらコレを使って交渉してみろと言い渡してくれました⋯」

 最後には頭以外は既に動かなくなっていた。


「して、彼はどうなったのだ?」


「分かりません⋯⋯が、もう少し森を探索して城に戻ると言っていました」


「そうか。これで質問は終わろう」


「あ⋯⋯あの、これ元に戻るんですよね?」

 男は目に涙を浮かべている。


「残念だが、半分以上持っていかれておるのだ。既に貴様は向こう側にいっておる」


「え? え? それはどういうこ⋯⋯」


 魔法陣が消え去ると同時に彼のその姿も痕跡もかき消されていた。


「そこの男女はGランクだった彼についてまだ聞くことがあるゆえ奴隷は免除とし、この財宝の数々を持ち帰った褒美として平民として迎えよう」


 他は生徒達は一人も残す事なく買われていき閉幕となった。



 その夜、王城にて小さな晩餐会が行われ、少しの間だったがGランクの彼の話をする。


「助けてくれたのは⋯誰かはわかりません⋯。気づけばゴブリン達の殆どが斬られていました」


「それは心当たりはあるのだが。ふむ⋯。やはり彼を捜索するしかないのかもしれないな」


「結局、彼は転生の洞窟はいっていないのですか?」


「いや、確実に行っておる。この数々の財宝は⋯⋯過去の英雄である剣王クロノスが所持していた伝説級の代物でな。剣王に会わなければ手に入れる事はできぬ」


「なら、何かの武器や防具を盗んで強くなったとかでしょうか?」


「それも不可能だ。彼は呪いで全ての武防具は装備できないのだからな。まぁよい、話は以上だ。貴殿等は特殊な条件として平民として迎え入れた。皆が全員で住める家と当面の資金だけ渡すゆえ、あとは生活に慣れていくがよかろう」


『あ⋯ありがとうございます!』



 深夜、広い部屋からテラスに出ると、空に浮かぶ月を見つめる。


「生きていたか⋯⋯良かった。本当に良かった」

 花蓮は胸に手を当て、学園の思い出に浸る。


 いつもの様に仮面を被り、完璧にこなす毎日。


 誰からも認められるように演じ続けていた毎日。


 図書室の整理がされていなかった為、整理をしていると、ふと夕焼けを見る。


 その夕焼けはとても綺麗で⋯⋯教員以外残っていない学校で、なぜ私は一人で頑張っているのだろうと思ってしまった。


 今まで、思ったことがない事を思ったという事は事後だ。なぜか涙を流してしまい、本も落としてしまうが拾う事もできずしゃがみ込んで静かに泣いてしまった。


「ん? なんで泣いているんだ? いじめか?」


 声をかけられて、振り向くと男の子がいた。


「な⋯なんでもない⋯大丈夫だから⋯」


「そっか⋯」


 そういって、彼は去っていくと徐々に落ち着きを取り戻し作業に戻るが寂しい感じは拭えなかった。


 再び図書室の扉が開く。


「お、やっぱまだ作業してたんだ」


「あぁ、もう少しだったからな。⋯⋯先ほどはかっこ悪いところを見せて申し訳ない」


「ん? それが普通じゃないか? なんつーか頑張りすぎじゃないか?」


「それでも私は⋯⋯ヒャァ!!」

 頬に冷たいドリンク当てられる。

「な⋯何をする」


「差し入れ」


「あ⋯ありがとう」


「あとコレも」


 そう言われて、口に紐グミを自然に入れられる。


「美味いが⋯⋯それにしても長いな⋯⋯いや、それよりもだな! 学校にこういう⋯⋯っ!!」

 長い紐グミのもう一つの端を自分の口に入れていた。


「ほら、繋がった。もう寂しくないか? じゃあ、ちゃっちゃと片付けよう」


「なっ! ななっ! どうして?!」

 数々の出来事に頭が追いつかない。


「あ〜どうしてだろう? たま〜にイトコのチビがそうして欲しそうな時があったからかな? その状況によく似てたから誰かに寄り添いたいのかなって」


「プっ!」

 思わず笑ってしまう。


「ん? なんか可笑しかったか?」


「当たり前だろう。子供だからそういう繋がりもいいかもしれんが、いい年頃の男女がこんな事をすればセクハラもしくはヘンタイ行為ではないか?」


「そうか〜? 俺からにしてみれば、肩を寄せて慰める方が嫌だけどな。特に女の子なら好きなやつにやってもらいたいだろ?」


「まぁ、今回は私のせいだから全てを不問とするけど⋯⋯先に、このグミを切った方が負けだぞ? 私が勝てば連絡先を教えてもらう」


「え? 勝負になってんの? ポッキーゲームじゃなく紐ゲームかよ。で、俺が勝てば? ってか、俺の連絡先なんていらんでしょ?」


「君が勝てばなんでも言うことを聞こう! 連絡先は手段だ。また、私が困った時に手伝ってもらうのが私の望みだ」


 あの時の紐グミを思い出す。

 私は目を逸らさずに彼の口に近づいていく。

 唇まで少しの所で、ノア君が顔をそらした。


「私の勝ちだな!」


「いや、あのままいっていたら確実にやってたよ? そういうのはキチンと好きな人とした方がいい。俺は今日たまたま寂しい時にで会っていいように見えてるだけ」


「そんな事はない。私は誰であろうと一線を引かれていたし、誰にも興味が持てなかったんだ。⋯あぁ、だからか⋯⋯君と一緒にいると世界に色がついているようなのは」


「⋯⋯⋯そうですか」

 少し俯き紅くなっている姿がかわいい。って、さっきのグミの方がよっぽど恥ずかしいとはおもうのだが⋯。


「改めて、河合花蓮だ。次も手伝いをよろしくお願いする」


「⋯分かりました。守野白鴉です。こちらこそよろしくお願いします花蓮先輩」


 こうして始まった二人だけの時間。


 彼が最後に勝った後に、異世界へとやってきた。


「願いがアレでとてもズルかったから⋯⋯会った時にどうしても説教しないと気が済まない⋯」


 アレとはここでノア君に言われた、私を助ける為の言い分全て。

 約束は反故できなかった。すればノア君との関係も終わってしまうと感じた為⋯。


 だから、外に出るように必死にこの世界の事を学んだが、1日2日でどうにかなるものでなく、日が経つにつれて私はヤル気が起きなくなっていた。

 このまま、今日の生徒を助けようとして一緒に死んでも良かったのだが⋯⋯希望を持ってきてくれた。


 ノア君は生きている。ならば、私は出来る限りこの世界の情報を持って外に出ようと決心したのであった。


 改めて月を見る。


 学校の帰り、何を想っているかは分からなかったが、いつも空をみていた彼も必ず月を見ていると信じている。


 単純だが、それだけで私はヤル気がで満ちてくるのである。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「この世界の月はおおきくて丸くて美味そうだ。たこ焼き⋯いや、これぐらい大きいとお好み焼きか⋯⋯あっつあっつのお好み焼きにからしマヨネーズかけて喰いて〜な」


 こうして俺は眠りについていった。

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