第4話 ゴブリン

「これからどうする?」

 装備を取り戻した男女が会議をはじめる。


「あと何日あるのよ⋯⋯もう嫌だよ。お家に帰りたいよ」


「今日で6日だから⋯あと1日だ」


 などと、会話している中、俺はとりあえず穴を掘っていた。


「それより、あのGクラスの人⋯さっきから何やってるのよ。穴なんか掘って」

「あ、なんかゴブリンと死体を埋めるんだとよ。頭おかしくなったんじゃないか? 自分が助けたと思ってるかもな」

「うえぇぇ、気持ちわる」


 聞こえているが俺はそのまま穴を掘り死体を埋める。先程の潰された女性は足跡の穴があるので少し広げて残っている部分を入れた。


 当たり前だが、ずっと胃の中は吐き出したい状態である。

 なぜそうするかは自分でも分からないのだが、たぶんこの世界で生きていくには早急に死体に慣れるしかないと思ったからだ。

 人間、どんなものでもやってみると慣れてくるものである。

 でなければ、電車事故の処理やもっといえば病院の手術などもできるものではない。


 かといって、ゴブリンの数が数なので大きな穴を掘るしかないのだが⋯⋯。

 正直にゴブリンは臭い。臭いと言っても野生的な匂いではあるが、身体の中身が出ているのが大半なのでかなりの悪臭が充満する。



「おい、お前はどうするだ?」

 鼻から下を抑えながら、男が聞いてきた。


「ん? 俺は墓を作って適当に動くよ」

 正直、すぐに城にもどるのではなく、森を探索していきたいと思うようになっていた。


「そうか⋯⋯俺らは残り1日残っているんだが⋯⋯城に帰って交渉してみる」


「そうか。頑張れよ」


「あぁ、誰かが助けてくれたにしろ。お前が時間を稼いでくれた事は感謝してる」


「あぁ。あ、そうだ」

 伝説級の武防具が入っているスクロールを投げて渡す。


「これは?」


「交渉材料。1日も許すわけもいかないとかグダグダ言ったらソレを渡して交渉して見たらいい」


「あぁ⋯⋯分かった。これどうしたんだ?」


「貰った」


「⋯⋯そうか」


 また、仲間の所に戻ると、コソコソと喋っているが、時間が経つといつのまにか姿は無くなっていた。



「ふぅ⋯」

(結構、大きな穴が掘れたな)

 ゴブリンを中に入れていく。

 手はグチャグチャな感触を味わう度に吐気がおきる。鼻はもう麻痺して機能していない。


 穴が一杯になると土をかぶせて、別の場所に再び穴を掘る。


 そうしていると、もしかしたら弔い方が一緒なのかはわからないが、いつのまにか生き残っていたゴブリンも俺とは別に穴を掘っていた。


 そのおかげで夕方には、死体は地上から無くなっていた。


「はぁ⋯疲れた」

 正直、最後らへんはゴブリン達が全てやったといっても過言ではなかった。

 補正値の効果が消えていくと同時に身体が重くなり、最後はスコップを持つのも厳しくなっていた。


「グゲ⋯ゲェ」

 一人のゴブリンが、頭を下げながら近づいてくると、何かを案内するようなジェスチャーをしてくれる。


 それについていき、森に少し入ると川を見せてくれた。


「洗えってことか?」

 ゴブリンは頭を下げたまま、ずっと立っていた。

 川に入り、身体の汚れを落とすと、木箱を服の横に置く。

「?」

 箱を開けると綺麗な服が入っていた。使用目的が無かったのか、何かの交渉で使うのかは分からないが、少しサイズは大きかったが、初心者っぽい冒険者には見える。


「すまない。ありがとう」


 そういって、再び案内されると広い部屋に案内される。

 元はあの巨大なゴブリンの部屋だったと思うが、模様替えが施されて少し臭いはあったが果物の汁で隠そうと努力はしてくれていた。


 部屋に入ると、ゴブリンは一礼をして消えていった。


「敵地で寝る事は⋯⋯いや、ならここまではしないか⋯⋯」

 礼には礼で返してくれたのだと信じて、その場でゴロンと転がる。

「あ〜疲れた。久々に働いた気がする」


 現実世界なら、学校いって帰りに寄り道して、家帰って飯食って適当に過ごして寝るだけの毎日だったからな⋯。


 それよりかは面白いのかもしれない⋯⋯。


「いや、面白くなったのは⋯たまたま運が良かっただけか⋯最弱ステに隠された隠しスキルに剣王との出会い⋯」


 まぁ、どちらにせよ城に戻ってもいいようにならない気がしたので、もう少し森の探索して戻ろうと考えながら就寝していった。



 朝になり起きると果物が置いてあった。


「礼には礼なのか⋯⋯?」

 かなり尽くしてくれてないか? それとも巨大なゴブリンを倒し、リーダーが入れ替わったと思っているのだろうか?


 家から出るとゴブリン達が、大きな集落を潰していくように片付けている。

 ゴブリン達が地面に必死にイラストを描いている。

「なるほど、大人数がいれば大きな集落でも安心だが、人数が減り安全の為に小さい集落を作れそうな場所に移動するって事か?」


 頷き、大きな家を指さし、壊すか残すか教えてくれと言っているようだった。


「残しておいてもらっていいか?」

 少なくとも匂いはまだあるが、俺一人でまた一からと考えれば快適だと思う。


 次の絵は、今いる場所から果物や強そうな敵がいる場所を示すイラストだった。


 地図を取り出すとゴブリンがじっくりと見てくるが、すぐに理解をすると、木のみを潰して指をつけると地図にピッピと塗っていってくれた。


 赤色はどうやら強い敵で、青色は水辺、緑は果物らしい。


 その後、お礼を言うとゴブリン達は頭を下げて作業に戻る。


 その後、水辺にいく。


「お、あったあった」


 水辺に咲いてあった花を摘むと集落に戻り、それぞれのお墓に果物と一緒に供える。


 再び森に戻り、果物や水辺を確保して少し探索していると、すぐに夕方になり集落に戻ると大きな集落はすっかりとなくなっており、ゴブリン達も居なくなっていたが、俺の家は少し補強をして、さらに位置が分かりにくいようにカモフラージュをしていてくれていた。


「お!」

 ふと、お墓を見ると俺が備えていた花は綺麗に地面に植えており、果物は壊した材料でつくった供物用の置物に置かれていた。


「そうか⋯⋯確かに元いた世界に枯れるまで飾っていたが⋯⋯こっちでは植えていてもいいんだな」


 こうして再び一人になった俺は家に戻り、明日は様子見も含めて、強敵に向かうつもりだったので、その日はすぐに寝た。

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