第3話 目覚め

「う⋯⋯あぁ⋯⋯」


 目がさめる。


 自分はどれだけ倒れていたのか、どれだけ時間が経っているのか疑問に感じたが知る術はない。


 あるのは身体のだるさと空腹のみである。


 王国から渡された少量の食料を全て平らげる。


 これで少し落ち着き、目の前に王城で見た時よりも豪華な鑑定書が無造作に置かれているのに気づく。


 あからさまに剣王が起きたら見ろと言っているようなものだった為、鑑定書に手を置く。


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 守野(かみの)白鴉(はくあ)


・HP(体力):E

・STR(スタミナ):E

・MP(魔力の貯蓄量):E

・POW(力):E

・DEF(防御力:E

・INT(頭の良さ):E

・AGL(素早さ):E

・DEX(器用さ):E

・MND(精神力):E


 スキル:⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️、オールフォーワン、ステータス成長【砕】


 武器:【クロノス】神器級

 :魔術喰らい・魔式破壊・魔法無効化・時の番人


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 「オールフォーワン?」

 そっと、指に触れる。


【オールフォーワン】

 周りの人数だけ、全てのステータスが+1補正され、その人物の信頼度が高ければ永続する。


【ステータス成長(砕)】

 自身のステータスが成長できない。魔法などによるステータス強化も無効。


【時の番人】

 元は神剣クロノスのスキルである『時の流れを遅速できる能力』に加わり『時の静止中、特殊状態となる事が可能』


 そして黒に塗り潰されている項目にタッチすると鑑定書が一瞬のうちに燃え尽きた。


「たまたま⋯⋯本当に運が良かったとしか思えないが⋯⋯ここまでしてくれて本当にありがとうございます」


 既にもう存在してない剣王に再度お礼を祈る。

 

 ここから出て、王国に戻ろうとすると、入口の方から声が聞こえる。


 ゴブリン達が3匹ほど、侵入してくる。


「どうして⋯」


 剣王がいなくなり、この空間の威圧感がなくなったのかもしれない。そしてそれを偵察しに来たのかもしれなかった。


 周りを見るが出口は一箇所しかなく、すぐさま鉢合わせになる。


 マジックブレイカーを出現させると、カービングナイフがコンバットナイフに進化していた。

 

 ゴブリンが早速襲ってくる。


 避ける。剣王の剣速が早かったせいか、それに比べては読みやすいが、こちらのナイフも避けられる。


 残りのゴブリンは戦闘を観戦して楽しんでいる。


「はぁ⋯⋯はぁはぁ」

 額から汗を出し、息切れをおこす。


「ギャハハ!!」

 ゴブリンの方はまだ軽快にステップを踏みながら、嘲笑っている。


 観戦中のゴブリンは、いつのまにか何かを齧っていた。


「うっ!!」

 胃の中が込み上げてくる。


 齧っていたのは、まだ新しい人間の腕だった。


 吐かずに飲み込む。


 殺さなければ殺される⋯これがルールである。


 その一瞬の隙をついて、ゴブリンが狙いすましたかのように襲いかかってくる。


 焦りからかナイフをグッと握ると、ゴブリンがスローに感じた。


 それは剣王の時だった静止ではなくスロー、襲ってくる軌道を見て、その胸にナイフを置く。


 時間が元に戻るとゴブリンは自らナイフに突っ込み、そのまま俺とぶつかり倒れる。


 生ぬるい液体の感触が手に伝わる。


「うわっ⋯」


 思わず手を離すが、ゴブリンは絶命していた。


 残りのゴブリンが敵意を剥き出しにする。


(そういえば⋯⋯剣王が言ってた。仲間が殺されれば力の差を見せつけない限り執拗に追ってくると⋯)


 こうして、ゴブリン2匹と戦闘が開始になった。


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「はぁ⋯⋯はぁはぁ⋯」

 俺は森を走っていた。


 ゴブリン二匹を倒した後、森にはいるとゴブリン達が俺を探しはじめていた。


 少しでも隙を見せると襲ってくるのだが、それ以外はある一定の距離を置いて見張っていた。


 徐々にゴブリンの数が増えていると実感できる。


 こうし俺は安全な方へ、安全な方へ、ゴブリン達の思惑通り誘導されてると知らず、誘(いざな)われていた。



 走りきった先に集落があった。


 火を焚べ、木に家が建っていた。


「はぁはぁはぁ⋯」


 息を整える。


「おおぃ! 助けにきてくれたのか!! お願いだ! ここから出してくれ!」

 全裸にされていた男女が檻の中に入れられていた。


「無理よぉ。だってそいつGランクだったやつじゃない?」

 身体を見せないように丸めて、涙で顔がぐちゃぐちゃになっている女子が言う。


「たのむ、ここを開けてくれたらみんなで逃げよう」

「だから⋯⋯!」

「黙れ! ここに居てもいずれは喰われるか楽しそうに嬲り殺しにされるだけだ! 女はいいよな! 相手にしてもらえる分長生きが出来るのだから!」

「ふざけんな!! 散々、ボロ雑巾のようにやられて生きたまま喰われたの見たでしょ!!」


「ゲゲェ⋯」

 こみ上げた笑いが我慢できなかったのか、一匹のゴブリンが笑うと他のゴブリンも合唱のように笑い出した。


「あ⋯⋯あぁぁ⋯」


「いやぁぁ〜いやだよ〜死にたくない⋯」


 檻の隅で丸まって震えて始めていた。


「これがそうか⋯⋯」

 ゴブリンに勝てないと思わさせるまでは、執拗に追ってくる。ある意味ワンフォーオールにとれる。


 だが、なぜかゴブリン達は攻撃しようとはしない。

 それよりも何かを待っているように歓声を上げているように見える。


 その時、奥の方から一匹の巨大なゴブリンが現れた。

 右手には巨大な棍棒、左手には女性。


 女性の足は付け根の方から、おかしな方向に広がっている。


「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」

 女子が謝罪をするかの様に呟いている。


 左手に持っていた女子を檻の目の前に投げ捨てると、女子はかすかに生きているのか手を伸ばす。


 檻の中にいる女子がその手をとろうと伸ばした瞬間に踏み潰された。


『ギェェェェェェェ!!!!!』

 大歓声が響き渡り、檻を開けると手を取ろうとした女子を捕まえる。


「いやぁ!!! いや! いやぁぁ!!」

 足だけでもがいても微動だに動かない。


 そして、俺の方に向かってくる。


「コノエサ、タスケタイカ?」


「あ?」

 正直胸糞悪いものを見せられて気分が悪い。


「ワレニカテバ、エサヲカエソウ」


「意外に律儀なんだな?」


「アァ、キサマはドウホウをコロシタ。そのカオゼツボウにオチテからコロス」


 左腕を前に突き出す。


「く⋯るしい⋯いや、しにたく⋯ない」

 ギチギチと身体をしめる音がする。


「ワレにコウゲキがアタレバ、エサがツブレルカモな」


 ニタァっと笑みを浮かべ、右手の棍棒を大きく振り下ろすと地響きが鳴り響く。


「ヒィぃぃぃ」

 檻の中は隅っこに縮こまるまま震えている。


(時間の遅速で回避はできるが、攻撃ができないのはどうしたものか)


 恐怖はあるが、あの剣王に至る通路より恐ろしい恐怖を感じない為、震えることはなかった。


(あれ?)


 幾度か回避をしていると、疲れがでていないのに気づく。


(これ、もしかしてオールフォーワンの補正値は敵にも当てはまるのか?)

 実際、疲れ果ててここに来たはずなのに、ゴブリン達を見た瞬間に疲れがいつのまにか消えていた。


 ゴブリン達の歓声もいつのまにか消えており、巨大なゴブリンは左腕を再び伸ばし女子を見せる。


「ウゴクナ! ウゴケバコロス」

 プライドより勝利を選んだらしい。


(ちょうど良かった。剣王の時は一瞬すぎて分からなかったから本当に死の直面で静止するのか確かめれる)


 右手から大振りに巨大な棍棒を振り落とされ、俺の顔に当たる直前で全て静止した。


(目の当たりにするとこういう感じに静止するんだな)

 走馬灯を見る寸前にとまるという感覚。


【やっと静止状態に入ったか! 待ちくたびれたぞ小僧】


「剣王? どうしてここに⋯」


【説明もなしはこの世界は扱いきれんじゃろうからな。残滓を利用してるだけだから最後に伝えておく】


【静止の遅速を使えば最長10秒は伸ばせるじゃろう。そして時に番人による特殊状態というのは現在のその姿のことだ】


 よく見ると、全身が黒く身体中に赤いラインが入っている。


【その姿であれば、この世界ならどこでも瞬時に行ける。そしてもう一つが⋯⋯⋯】



「グギェェェェェェェ!!!」

 振り下ろした棍棒を即座に離し、激痛が走る左肘を押さえる。


 静止状態の時に左肘を内側からナイフで刺し、そのまま捻る。


 そのまま女子を救出したという訳だ。


「マテ! マイッタ! コウサンスル! オマエのショウリダ」


「⋯⋯⋯分かった。なら牢を開けて俺らを解放してくれ」


 観戦していたゴブリン達が全員下に降りる。


 そして牢を開けて、俺たちをひとまとめにした瞬間に襲いかかってきた。


 周りの悲鳴も時も全てが再び静止する世界に入り、先ほどの剣王の言葉を思い出す。


【もう一つは我が剣技の全てが、この世界で使える】


 死の瞬間に発動する時間停止に追い討ちをかけるように剣王の剣技による最強のカウンターが加わる。


 手に持っていたナイフをしっかり握ると、神剣クロノスへと変化し、姿もまた全身鎧ーー剣王の姿へと至る。


【終末黙示録(アポカリプス)】

 自分の身長より大きい神剣を地面に突き刺すと地面からいくつもの巨大な剣が剣山のようにゴブリン達を串刺しにしていく。


「ドン引きしかないよ⋯⋯」

 剣王は対人も得意だが本来は対多人数戦の方が得意だったのだ。正直時を止めようが俺を殺そうとすれば出来ていたと思う。


 そうしなかったのは、あの通路を越えて気に入ってくれたのかもしれないし、ただ単に気まぐれだったのかもしれないが今となっては知るよしもない。


 時間が動き出すと、ただの肉塊になったゴブリン達が無造作に落ちていく。

 それでも数十匹は範囲に入らずに難を逃れたが、完全に戦意喪失し完全に敗北を認めたのであった。

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