第2話 転生の洞窟

 この名前の知らない王城から、徒歩15分程度で洞窟へ辿り着く。


 王城を去る時⋯⋯先輩が必死になにかを叫んでいたが⋯⋯聞き取る事は出来なかった。


「っていうか、この世界の地図って便利すぎね?」

 地図を持っている人が地図にひっついている盤石を表し、あるけどズズズと歩いていく仕様である。

 迷うことなく、目的地まで最短ルートを示してくれる。

 一回わざと道を逸れてみると、新しいルートを検出してくれた。


 目の前に転生の洞窟っていうより、偉い人のお墓と感じるんだが⋯。


「ってか、素人でも分かるほど⋯⋯背筋が凍りそうなんだけど⋯」

 本当にやばい心霊スポットに入る前の感じに近い。


 生唾をゴクリと音をたてて飲み込む。


 向かっても『死』、戻っても『死』、結局は運命だったのだと思う。


「あ〜くそ!! こんなことなら⋯⋯胸も直に触ったり、ケツも触っておけばよかった」

 左の頬はすでに痛みも熱もない。


 頬をそっと触れると、少しだけ先輩の先を想いながら洞窟の中へと入っていった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 洞窟の中は、『静寂』その言葉だけが浮かぶ。


 カンテラを灯し、奥に進むに連れて寒気が襲ってくる。


 脳が引き返せと強く命令をしているのが分かる。


 更に奥に進むと身体中が凍えているかのように、倦怠感と手足の感覚が鈍感になる。


 血液が回っていないのか、頭が⋯脳がとろけている感覚?


 歩いているのか、立っているのか、倒れているのかワカラナイ。


 ライトが暗く感じると、世界の色素が飛んでおり、更には片目が眼底出血で真っ黒に染まっていた。


 言葉を出している? おれ? 何している? あぁ、これは⋯夢か。起きたら飯食って学校行って、平穏な日常を⋯⋯。


 そこでブラックアウトした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 眼が覚める。


(俺は寝ていたのか?)


 目だけで辺りを見ると、広い石室の広場にはいっていた。


 後ろを見ると、真っ暗な通路に青白い灯火が配置されており出口が見える。


 今、進んだのはたったあれだけの距離だったのか??


 再び真正面を見据えると、全身鎧と棺桶が置かれている。


【この場に何を求めにきた小僧】


 頭に声が響く。


「俺の評価が低く、死かこの転生の洞窟にいけの2択を迫られたのでこちらにきました」


【ここが転生の場所⋯⋯ククク、くだらん戯言を⋯】


「違うのですか?」


【ここは剣王と言われた我の墓だ。誰にも侵略することはできず、誰も足を踏み入れる事は許される領域】


 ⋯⋯⋯きちぃわ。死亡確定じゃないか?


【死出の道を歩みこの場にこられた事は賞賛に値しよう。約1000振りの来客だからな】


「待ってください! なら、だれもここに来ていなかったのですか?」


【無論。たったその距離で皆朽ち果てていった】


 おいおいおい。


「なら、コレであなたを倒せるかもしれないと言われたのは⋯⋯」


【そんな小刀で我を倒す? 片腹痛いわ! まぁよい。さぁ、貴様の価値を見極めてみようか】


 咄嗟に後ろの通路に引き返そうとしたが、既に通路はなく退路は絶たれていた。


【よそ見とは随分余裕なのだな!】


 巨大な剣が既に俺の首まで来ていた。


 死んだ。走馬灯が走るという一瞬の間も感じられずに首と身体が離れると実感した。



【⋯⋯⋯む?】

 が、剣王の剣は空を斬り、俺は少し離れていたところにいた。


「ちょっと待ってくだ⋯⋯」


 更に縦、横、袈裟斬りを一瞬の内に連続で何度も斬りつける。


 普通なら細切れになっていてもおかしくはないが、俺は再び離れていた。


「⋯⋯⋯⋯っ」


【さすが死出のを越え来た者だ。ならばこれはどうだ!】

 空間にいくつもの魔法陣が出現すると、魔法で出来た剣が出現し俺に向かってきた。


「⋯⋯⋯⋯⋯」

 それをマジックブレイカーで無効化していく。


 埃が舞い上がり視界が塞がれると、剣王は巨大な剣を俺に向かって投げており、それを避ける。


 避けた時には既に背後に回っており、投げた剣を手でとりそのまま斬りはらう。


【⋯⋯⋯⋯貴様何者だ】


 全てを避けた俺は⋯⋯剣王の背後に立っていた。


「先程、この異世界に来たただの学生のはずです」


 剣王の殺気が消える。

 最強であったと自負していた剣士の全力を無傷で避けられ、更には自然と背後に回られたのだ。


【我の負けを⋯⋯認めよう】


 潔く負けを認めるの剣士の姿が、とてもかっこよく器のでかさを感じさせられた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


【なるほどな】

 剣王が俺を調べてくれていた。


「何か分かりましたか?」


【あぁ、ステータスは覆すことができないほど『最弱』だ。しかも成長率すら皆無】


「⋯⋯マジですか⋯⋯」


【だが、それに見合うスキルというべきなのか⋯⋯お主は『死の絶対回避(ヴォイド)』を心層に刻み込まれている】


「心層に?」


【あぁ、標準で使えないから調べても表に出る事はない固有スキル。取り出すことも捨てることも不可能なスキルだ。発動条件はもう分かっているだろう?】


「確実な死⋯⋯」


【そうだ。絶対死を回避する為に発動しうる為だけのスキル。その効果は5秒程度の時間停止だな】


「えぇ⋯」

 そう、先程の剣王がしてきた数々の攻撃は全て時間停止で回避していた。


 最初は分からなかったが、あれだけの短時間であんなに発動したら誰でもゆとりが持てる訳である。


【この最弱ステータスに死の絶対回避が、とんでもないぐらいに歯車が噛み合わさっておる。それに加えてマジックブレイカーの所持、貴殿を倒せる者がいるのか怪しいものだ】


「調べていただいてありがとうございました。一度城に帰ってみようと思います」


【まてまて、そんなにせっかちに動くでない。主は我に勝ったのだ。ワシが出来る限りの事はしてやる。それに、すぐに帰れば逃げたと思われてもおかしくはないのだろう?】


「確かに⋯⋯D〜Fは1週間城外で生きて価値を示せといわれていた⋯」


【なるほどな⋯確かに城外で1週間も生きていれば、確実に運だけではないな】


「そんなにきついんですか?」


【森の中は縄張り争いが激しいからな。餌をとるなら間違いなく死地をこえるしかない。この周辺でいえばゴブリンだが、一人殺せばゴブリンが敵わぬと思わぬ限り執拗に襲ってくる。更に奥にすすめば来たばかりでは確実に喰われるだろうな】


「⋯⋯⋯」


【ちなみにお主が運が良かったなどと思うな? ここが全ての死を誘う場所だったのだからな】


「⋯⋯はい」


【よろしい。ならば、報酬をやらんとな】


「報酬ですか?」


【あぁ、少なくともワシの未練はもうない。ここの財宝は全て主にやる】


「けど、おれはマジックブレイカーのせいで⋯」


【わかっておる。じゃから、この伝説級の武防具は王国にくれてやれ。お主の能力からしてみればガラクタに等しい】

 そういうとスクロールにしまい込む。


「いいんですか?」


【先程も言ったであろう? ガラクタに等しいと。そして、我が神剣『クロノス』は主のマジックブレイカーに喰わせよ】


「いや、喰わせるって⋯⋯。それに、そのような巨大な剣を持って振ることすらできません⋯」


 両刃の刀身だけで自分の身長より少し長く、更には持つ方も身長までとは言わないがかなり長い。


【案ずるな。なにも表で持つとはいうてはおらぬ。儂の力を贄にマジックブレイカーを進化させようと思っておる】


「それだと⋯」


【この世に未練はないが、儂自身が神器になるのも一興じゃ】

 フルフェイスを脱ぐと、黒い形をした人型だけがある。

【さぁ、その小刀で我が身を貫くがよい】


「そんな事できるわけが⋯」


 時間が静止する。


 剣王の剣が、顔面スレスレで止まっている。


 尻餅をつき、時が動いた瞬間再び止まる。


 これはメッセージなのだろうと感じる。


 敗北は認めたが、剣を誇りにしていた剣王の最後はやはり戦いの中なんだと。


 立ち上がり間合いを取る。


【準備はできたか? 覚悟はできたか小僧?】


「はい。ありがとうございました」


【殺そうとしている相手に礼とは⋯⋯それもまた一興か】


 再び静止し、俺はマジックブレイカーを剣王に刺した。


【⋯⋯見事。なかなか面白い人生であったわ。全ての生物に恐れられた我も最後は最弱に倒されるとはな】


 剣王の神剣も鎧も黒い人型も全てが小刀の中に収まっていくと、心臓が強く跳ねる。


「がぁ!!!」


 心臓が破裂しそうに熱く、鼓動が早くなる。


 そして再び身体中にラインがほとばしり、地面に空間に壁に魔法式が描かれていく。


「ガァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」


 身体中にマグマが行き渡るような感覚に耐えきれず、視界が暗転した。

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