行き倒れジェイクさんと凍ったゼリー

「……僕が言うのも何ですけど、何で毎回毎回玄関口とか廊下とかで行き倒れてるんですか?」

「……いちおう、おくない……」

「屋内入ってても、倒れてたら意味が無いと思うんですけど」


 玄関からほんの少し進んだ廊下でぶっ倒れているジェイクをつんつんと突っつきながら、悠利は呆れたように呟いた。体力が一般人レベルどころか、下手したら一般人以下でしかないのでは?と疑惑を持たれるようなジェイクは、今日も日課のようにアジトで倒れていた。

 ただでさえ体力が少ないのに、面白そうな本を見つけると時間も忘れて読みふけるのが彼の常だった。そして、今現在の夏という季候が、彼から更に体力を奪っている。よって、いつものように彼は廊下で倒れていた。

 ……それがいつものことと言われるのってどうだろう。大人として色々間違っている。ジェイクさんは今日もダメ大人として、皆の反面教師です。


「ルーちゃん、頼める?」

「キュイイ」


 ため息をついた悠利の要請に応えて、ルークスがジェイクの腹の下へと潜りこむ。ごそごそと動くスライムに何かを言う気力も無いのか、されるがままのジェイク。対してルークスは、慣れたものと言いたげにジェイクを頭の上に載せ、みにょーんと身体の一部を伸ばしてはみ出た部分が引きずられないように支えていた。出来る従魔は今日も元気です。

 ちなみに、ルークスが慣れているのは、こうやってジェイクを運搬するのが始めてでは無いからだ。むしろ、廊下で倒れているのを掃除中に発見すると、自主的に人の居るところまで運んでくれる良い子である。


「キュキュ?」

「うん、とりあえずリビングのソファの上にでも運んであげて」

「キュキュイ」


 悠利に言われて素直に返事をしたルークスは、そのままリビングへとダメ大人を運んで行った。途中ですれ違った何人かが「あ、また倒れてたんだ」みたいな発言が聞こえたが、悠利は気にしなかった。いつものことなので。

 ジェイクをルークスに任せて、悠利は台所へと向かった。暑さでダウンしているなら、とりあえず冷たい飲み物と食べ物を、と思ったのだった。とはいえ、今から何かを作るほどの時間もないので、どうしようかと考えた。

 考えて、そして。


「あ、凍らせたゼリー残ってた」


 以前大量に作った一口ゼリーが数個、奇跡的に冷凍庫に残っているのを発見した。いそいそとそれを手頃な器に盛りつけて、水分補給にとハーブ水にレモンと蜂蜜を加えた水を用意した。経口補水液を与えるほどではないのは、解っている。ジェイクは脱水で倒れたのではなく、単なる睡眠不足と暑さに敗北しただけなのだから。

 用意を調えた悠利が台所からリビングへと向かうと、そこには奇妙な光景が広がっていた。ソファにぐでーっと寝転がっている成人男性が一人。これは予想通りなので問題無い。予想と違ったのは、その成人男性が、腹の辺りに金色のまん丸スライムを抱きしめていることだった。


「……ジェイクさん、何でルーちゃん抱っこしてるんですか?」

「ひんやり、きもちよいです」

「はいはい、ルーちゃんはアジトの掃除で忙しいんですから、邪魔しないでくださいね。ルーちゃん、抜け出して良いよ」

「キュ」

「あぁー……、ひんやりが……」

「バカ言ってないで、起きて下さい」


 ぴょんっとジェイクの腹の上から抜け出したルークスは、途中だったアジトの掃除へと向かっていった。出来るスライムは今日もお仕事を頑張っています。

 ぐでぐでぐだぐだしながらも上半身を起こしたジェイクは、悠利が差し出したグラスの中身を飲んで目を見張った。ひんやりとしたハーブ水(レモンと蜂蜜入り)は喉ごしさっぱりで美味しかった。目が覚めるぐらいに。


「美味しいですね、これ」

「レモンと蜂蜜入りですからね。あと、これでも食べて下さい。凍らせたゼリーです。一気に囓ると冷たいですけど」

「ありがうございます」

「廊下で行き倒れられてると邪魔ですからねー」

「……そして君は、笑顔でざくざく刺しますよね……」

「ジェイクさん限定です」


 乙男オトメンは笑顔で鬼だった。しかし、これもまたいつものことなのでありました。


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