図書館帰りのジェイクさんの話
「ジェイクさん、もう閉館の時間なんですけど」
「え?」
呆れたような声に本から顔を上げたジェイクは、きょとんとしている。そこにいるのは図書館の司書だ。いつものことと言いたげな態度の相手に、ジェイクは困ったように笑った。
「いやー、すみません。ついつい読みふけってしまったようですね」
「むしろ、半日ずーっと読んでましたよ」
「充実した休暇でした」
「……そうですか」
本当に幸せそうに笑うジェイクに、司書はもう何も言うまいと決意したようだった。閉館ですから出て下さいと言われて、素直に荷物を纏めて立上がる程度には、ジェイクは聞き分けの良い常連でもある。
そしてジェイクは、身支度を調えると司書に感謝の言葉を告げて、図書館を後にした。王都ドラヘルンの図書館は、少なくともこの国では最大の図書館である。ジェイクの知識欲を満たしてくれる実に素晴らしい娯楽施設だった。休暇には図書館か本屋へ足を運ぶのが彼のライフスタイルだ。
さて、そんなジェイクなのだが……。
「……何度目になるか解らんが、言わせて貰うぞ。何故図書館から帰ってくると毎度毎度倒れているんだ」
「……?」
「大方、水分補給もろくにしていなかったんだろう。とりあえず飲め」
「……っ」
差し出された水筒を、震える指先で受け取ってジェイクは少しずつ中身を口に含んでいく。一気にがっつかないで少量ずつにしているのは、身体への負担を考えてだろう。だがしかし、玄関に入ってすぐの場所で行き倒れているジェイクを発見し、襟首を引っ掴んでつまみ上げ、他者の邪魔にならない場所に移動させてから苦言を呈しているブルックにしてみれば、そこに気を配るぐらいならばもう少し日中に水分補給をしろ、と言いたくなるのであった。
ジェイクの帰りが遅いと聞いて探しに行くかと動いたら、玄関で行き倒れ発見なのである。一応、無事にアジトまで帰ってきているので、そこは生存本能が仕事をしているのかも知れない。屋外でこの状態になったら、確実に死ぬ。
「ありがとうございます、ブルック」
「……まぁ、説教は俺の仕事じゃないからな」
「え?」
ほわっと笑って礼を口にした三十路のおっさんを相手に、ブルックは淡々と事実を指摘した。不思議そうに首を傾げたジェイクであるが、次の瞬間顔を引きつらせて息を飲んだ。
というのも。
「おーまーえーは」
「ひっ」
「何度同じことを繰り返せば気が済むんだ、ド阿呆ぉおおお!
「痛い!アリー、痛い!ちょっ、頭割れる……!」
いつの間にか背後にやってきていたアリーに、アイアンクローをされていた。見慣れた二人の姿に、ブルックはウチは今日も愉快だなと思うのであった。
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