[10.2] SKIT DO —— ③

 SKIT DOは配られた11枚の手札から2枚を選んで、相手よりも強いスキットを作って5ピリオドを戦い抜く——これが基本的なルールだ。

 5回のピリオド全体を見越して、5つのスキットを構成していくんだけど、単に5ピリオド中3ピリオドを勝てばいいって訳じゃない。何故なら、各ピリオドで勝利得点VPが違うから。さっき配らなかった5枚がピリオド毎にめくられて、その数字がVPとなる。

 そして、SKIT DOは完全情報公開ゲーム。面になったカードはすべて、自分も相手も確認することができる。つまり、ピリオドが進めば進むほど、自分も相手も手札が透けてくるのである。如何に相手の手札を読み、如何に自分の手札を隠し果せるかが勝負なのだ!

「で、さっき説明しなかったカードの真ん中の文章——」

「うんうん、これって?」

 僕の言葉を遮って、神無月さんが身を乗り出す。

「そんなに気になってたの?」

「うん。だって、カードのど真ん中にあるんだもの。気にならない方がおかしいわ。で、いくつか読んでみたけど、どんなときにその効果が出てくるのか分からないし……」

「ま、そうだね。……このゲームはね、スキットを場にセットして公開する前に各プレイヤーは相手の場にあるカードを1枚、『オープン』させることができるんだ。これは任意のアクション。オープンさせてもいいし、何もしなくてもいい。ただ、『オープン』を選んだら、どちらかのカードをめくってそのカードに書かれている効果に従わなければいけない。で、この効果は数字によって決まってるんだ。……そうだね、例として……どうせ、このピリオドのVPも決めなくちゃいけないから、VPをめくろうか」

 僕が促すと、神無月さんがVPとなるカードをめくる。

「……緑の4。えっと、『オープンしたプレイヤーはオープンされたプレイヤーのもう1枚のカードの色か数字を聞いた上で、自分のカードを1枚交換できる』?」

 ちょっと首を傾げた神無月さん。

「うん」と首肯して、僕は説明を続ける。

「つまりね、僕がこのカードをセットしていて、神無月さんがこのカードをオープンしたとする。そしたら僕はオープンされていない方のカードの色か数字を言わなくちゃいけないんだ。で、神無月さんはそれを聞いた上で、自分のセットしたカードのうち1枚を手札の1枚と交換することができる」

「うわぁ、それってすっごく有利じゃない?」

「うん、有利だよ。このカードはオープンした側に凄く有利。でも、カードの効果は、なにもオープンした側に有利になるものばかりじゃない。例えば——」

 僕はカードスタンドの中から「0」を指に挟んで見せる。

「——この『0』。これはオープンした側は即負けになっちゃう。だから、これだけは両方に1枚ずつ配られてると思うんだけど」

「そっかぁ。切り札的な部分もあるのか、『0』には」

「かもね、とは言え、使い処は難しいかも知れないなぁ。……あ、カードの効果はそれぞれのカードにも書いてあるけど、コッチのルールにも書いてあるから。と、そう言えば、カードとルールに間違いがあったんだ。『3』のカード効果は『カードをオープンした』じゃなくて、『カードをオープンされた』が正しいみたいだよ」

「うん、了解! じゃ、VPが4でこのピリオドはスタートね!」

 神無月さんの指がカードに掛かる。今日は何だか逸っている様に見えるのは気のせいかなぁ。

「まぁ、ちょっと待ってよ。まだ、どうやったら勝ちになるかを説明してないってば」

「あ、そっか」

 ぺろりと舌を出す神無月さん。

「単にスキットの強さだけの勝負じゃないんだよ、SKIT DOは。これもVP同様、ピリオド毎に変化する。それを決めるのが、このルールカードなんだ。ピリオドの最初にめくられるから、ピリオド分5枚ある。1枚めくるよ? ……『STRONG』だね。今回は強いスキットの勝ち」

「つまり、普通にやればいいのね?」

「うん、今回はね。5枚のルールカードのうち、『STRONG』は3枚。今、神無月さんが言った通り、フツーにスキットの強い方が勝ち。でも、残り2枚はそうじゃない。それぞれ『WEAK』と『TOTAL』なんだけど、まぁ、分かるよね? 『WEAK』は『ブタ』以外で弱いスキットのが勝ち。『TOTAL』はスキット関係なく、2枚のカードの和が大きい方が勝ち。……よし、これで説明終わり! それじゃ、始めようか」

 神無月さんの眼鏡がきらりと光る。……ヤル気満々だなぁ。けど、こっちも気合十分! 負けるつもりは毛頭ないからね。

 ゆっくりとカードに手を伸ばしたときだった。

「——!?」

 な、なんだとォ!

 既に神無月さんの前には2枚のカードが並んでいるじゃないか! ど、どういうことだ!?

 僅かの逡巡も、少しの躊躇も見せることなく置かれていたカード。

 ……最初ハナっから勝負を捨てた? いやいやいや、それは無い。絶対にあり得ない。相手はあの神無月さんだぞ? VPが4と高得点といえるこの状況では考えられない。何を狙ってる? カードの内容を気にさせるような素振りからのオープン戦術? いや、それとも——

「ふむ」と小さく声が漏れた。カードスタンドに並ぶカードを見渡して、まずは紫5を手にする。紫4の2枚に目が行った。スキットととしては「ストレート」——同じ色の連番で構成され、2番目に強い。

 でも、手が伸びかけて、止まる。

「……」

 何かが引っ掛かった。理由は分からないけど、手が止まった。

 ……紫4を使うなってか? じゃ、どうする?

 カードスタンドに並ぶ10枚のカードの内、紫4以外で組み合わせられるのは黃5、紫2、青4といったところ。だけど、これらではストレートより弱いスキットしかできない。それを踏まえた上での紫4の選択だったはずだ。でも、僕の感覚がそれを拒んでいる。霊感かヤマ勘か、はたまた第六感か。

 とにかく、このピリオドのVPは4点だ。落とす訳にはいかない。

 SKIT DO 最強の役はバーレスク——同色で1と5の組み合わせ——黃5と黃1はあるけど、バーレスクで勝負するのはまだ先のピリオドのような気がするんだ。

 ——とすると。

 黃5。コレとの組み合わせだと異色同数字の「パジェント」——三番目に強いスキット——になる。「5」の効果は「オープンされたプレイヤーは、オープンされてないもう1枚のカードを交換しなければいけない」、か。

 悪い選択じゃないけど、そうなると黃5をオープンされたときのダメージが大きい。強制交換でもう1枚の紫5を替えちゃうから、強いスキットにはならない。

 すっぱりとカードをセットした神無月さんとは対象的に、僕はカードの選択に悩みに悩んでいた。

「あっ!」

 思わず声が出ていた。

 首を傾げた神無月さんが微笑む。

「どうかした? ……ふふ、そんなに悩んじゃって。優柔不断って思われちゃうよ」

「な、何を! このピリオドのVPは4点だから、そう簡単に落とす訳にはいかないからだよ!」

「ふーん……」

 神無月さんが僕の目を覗き込む。

「な、な、何だよぉ」

「……別に♪」

 茶目っ気たっぷりの視線。クッソー、またそうやって、僕の心を読むつもりだな! けど、コレに耐えることがこの先への布石!

 上気してくる熱もそのままに、目を瞑ってカードをセットした。……ここまでの一連の動作、これに乗ってくれれば!

 さて、場にカードは出揃った。先手は僕だ。僕からカードをオープンするかどうかを決める。

 頬にまだ熱が残る。

 クスッと笑った神無月さんが「何だか顔、赤いよ?」と言いながら僕を指差す。

「さぁ、芳孝くん? オープンする? ……それとも、しない?」

 訊かれるまでもなく、僕の腹は決まっていた。だから、間髪入れずに答える。

「今回はオープンしないよ。……じゃ、神無月さんは?」

 僅かに神無月さんが口唇を噛んだように見えた。……もしかして、僕がオープンすると思ってたのかなぁ。

 ……さて、問題はこの後だ。

 またしても、神無月さんが僕を見据えてきた。負けじと僕も視線を返す。

「へぇー」

 な、何か気取られたか!? 僕は堪り兼ねたように目を逸らした。半分は本当に。半分は演技としてだ! 

「うん、決めた。……オープン! 私から見て右側!」

「……オーケー。じゃ、オープンするよ?」

 僕はゆっくりと手を伸ばして、カードをひっくり返した。

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