第327話 ナーマルの戦略
「ロシュタニアンドライカレー…うん♪私はいいと思います♪」
「そうね♪私も砂漠の真ん中にあるこの国にピッタリな名前だと思います♪」
と、ミンに続いてリンも賛成する。
「よし。じゃあとりあえず名前も決まったし、とりあえず食べてみてくれるかい?」
「「はい♪」」
ミンとリンはスプーンを手にし、黄色、茶色、緑、白の四色が綺麗に盛り付けられた皿の中を一度眺めた後、まずはスパイスたっぷりのドライカレーから食べ始めた。
「わっ!美味しいっ!」
「うん!すっごく美味しいわ!」
そして食べた瞬間、姉妹は笑顔で顔を見合わせた。
「あのソースみたいなのがなくても、こんなに美味しいのね♪」
「うん♪直接ご飯に味付けされてる分、ソースがあるよりこっちの方が、辛味がガツンと舌にくるわね♪」
「じゃあ次!アメリア様のお肉に行くわよ、リン」
「そうね♪」
そうして二人は、アメリアの焼いたステーキを食べる。
「「……うっま…」」
そしてそれを口にした瞬間、二人は感動に打ち震えた。
「い、いつだってアメリア様のお肉料理は美味しいかったけど…」
「う、うん。中でもこれは格別ね…」
そして姉妹は最後に、ピナが持った白い付け合わせを食べる。
「あ…これってマッシュポテトだ」
「うん。お肉と同じソースがかかってて、これも美味しいわね、姉さん♪」
「…アメリア様、これってなんのソースなんですか?」
と、ミンは額に汗を浮かべながら肉を焼くアメリアに聞く。
「それは肉を焼いたときに出る肉汁に、ワインや鶏と野菜のスープなどを合わせて煮詰めたソースです」
つまり地球のソースでいうなら、グレービーソースである。
「すごい手が込んでるんですね♪」
「うん♪そりゃ美味しいわけだ♪」
「…二人ともちょっといいですか?」
アメリアは肉を焼く手を止め、恍惚としながら肉を噛み締めるミンとリンの方を向く。
「「はい。なんでしょうアメリア様?」」
「次は全部を合わせて食べてみてくれませんか?」
「ぜんぶって…」
リンはもともと切られている肉をさらに小さく切り、その上にソースの付いたマッシュポテトを乗せ、スプーンでその二つとドライカレーを一緒にすくい取った。
「こんな感じですか?」
「えぇ。まぁそうです。
リンもお願いできますか」
「はい♪」
そうして二人は、皿にある全てが乗ったスプーンを大きく口を開けてパクッと一口で食べる。
「「!!!」」
「…どうです?」
と、アメリアはスプーンを口にしたままガッと目を見開く二人に聞いた。
「ひ、一つ一つでもすっごく美味しかったですけど…」
「う、うん…合わせて食べた方がずっと美味しいです」
「良かった。それはなによりです♪」
と、ミンとリンの感想を聞いたアメリアは、柔らかな笑顔を浮かべる。
「すごいわ!ドライカレーのスパイスの辛さと、お肉とポテトのソースがこんなに合うなんて!」
ミンはそう言いながら、今度は肉を小さく切らずにポテトとドライカレーと共に口へと運んだ。
「ひゃっぱり!ふぉのぐらい、ふぉもいっきりくひぃに入れたほぉうがふぉいしいわ♪」
「フフッ♪何言ってるのがぜんぜんわからないけど、その顔でだいたいわかるわね、姉さん♪」
そしてリンも、ミンと同じようにして再び皿に乗る全部を一緒に食べる。
「そっか…ドライカレーのスパイスの辛さとお肉とポテトの少しだけ甘いソースの味が合わさって、ちょうどいい味になるのね」
「…うん。これは、キチンと合わせて食べることを考えて作ってるって感じがするわ」
「フフッ♪そうだね、ミン。まったく君の言う通りだよ♪」
「ほら♪やっぱりそうですよね♪」
「うん♪僕とアメリアさんは、全部をひっくるめて食べた時にどうなるかを考えて、この一皿を作ったんだ♪」
それは、ナーマルとアメリアがまだルーのカレーを試作していた時に遡る。
「最初は二人が前に食べたソースのカレー、つまりルーのあるカレーにアメリアさんのお肉を合わせてみたんだけど…」
「えぇ、あれはダメでしたね…」
「それはどうしてダメだったんですか?」
と、ミンはナーマルに聞く。
「ルーにお肉の脂が混ざっちゃって、あんまり美味しくなくなっちゃったんだよ」
「えっ!これだとその脂が美味しいのに?」
「うん。それで、アメリアさんが脂の少ないお肉の部位に変えてくれたんだけど…」
「それはそれで、ドライカレーの付け合わせとしては物足りなくなってしまいましたね」
「…難しいんですね」
「それで、衣をつけて牛カツにしてみたり、色々やってみたんだけど…」
「あ、それも美味しそう♪」
そう言ったのはリンだ。
「うん。あれはかなり良かったけど、アメリアさんが、衣はなしがいいって言うから…」
「揚げ物は時間がかかりますから、このような催しには向かないのです…」
「まぁこれで勝ってドライカレーがご当地料理に決まれば、他のメニューも陽の目を見る機会もあると思うからね♪」
「ふぉれが、どうしてこうなったんですか?」
と、リンはドライカレーを食べる手を止めずに聞く。
「それは逆転の発想っていうか…アメリアさんがお肉を焼けば、滲み出た脂ですら美味しいっていうのはリンも知ってるでしょ?」
「えぇ♪もちろん知ってます♪」
「だから僕は、それとうまく合わせられるカレーって何かなって考えたのさ♪」
そうしてナーマルは、まずどうしたらルーの量を減らせるかということを考えた。
「最初はルーを煮詰めてみたり、スパイスの量を増やしてみたりしてたんだけどね」
「ナーマル様、最後にはスプーン一杯のルーにしちゃってましたから…」
「うん。さすがにアレじゃダメだったね。
で、じゃあ直接ご飯に味付けしちゃおうってなったんだよ」
「それでこのドライカレーなったんですね」
ミンはスプーンてドライカレーをすくい、自分の目の高さまで持ってくる。
「そうだね。ただスパイスとご飯を混ぜ合わせるより、一緒に炒めた方がより一層アメリアさんのお肉に合うだろうなって思ったし、スパイスに入ってるダルミンドは直接炒めた方が香りも立つからね♪」
「すごいです…」
ナーマルの話を聞いたミンは、改めて自分の目の前の皿の中を見る。
「それがこのナーマル様とアメリア様の作ったロシュタニアのご当地料理、ロシュタニアンドライカレー…」
「うん♪すっごく美味しいわね、姉さん♪」
頬にご飯をつけながらそう言うリンは、すでに自分の分のロシュタニアンドライカレーを食べ切っていた。
「リ、リン…いくら美味しくても、もうちょっと落ち着いて食べなさいよ」
「だって、本当に美味しかったし、それに…」
「それに、何よ?」
「この状況で、あんまりゆっくりもしてられないでしょ?」
「へっ?この状況ってどういう…?」
「もう!ちょっと周りを見てみてみなさいよ、姉さん!」
リンはそう言って姉の頭を掴み、グルリと後ろに振り返えらせた。
「ほらっ!」
「えぇ〜っ!」
そうしてリンが振り返った先には、すでに大勢の人が列をなしていた。
「い、いつの間にこんなことに…?」
ステージの前の会場には二つの門があり、その門をくぐると、それぞれ菫屋とナーマルたちの屋台の列に並べるようになっている。
「っていうか、ピナはいつの間に列の整理に行ったんですか?」
すでにつづら折れになったその列の一番後ろでは、ピナが最後尾の看板を持って立っていた。
「フフッ♪ミンたちが食べ始めた頃には、ピナはもう門の前に行ってたよ」
「「そんなに早くからですかっ!?」」
「うん。それに、実はね、二人に食べてもらったのにはもう一つワケがあって…」
そして開店準備をしながら隣の屋台の行列を眺めていた幹太は、ナーマルの行ったその作戦に気がついていた。
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