第326話 ナーマルチーム
「とはいえ、アメリアさんの鉄板でやるのは初めてなんだよね…」
そう言って、ナーマルは準備を続ける双子の姉妹を見た。
「ミン、リン、もう一度いいかな?」
「「はーい。なんでしょう?」」
「今から今日の料理を作ってみるから、味見してくれるかい?」
「「はい♪それはもちろん♪」」
「良かった。じゃあ、そこに座って待っててくれる」
と、ナーマルは二人を屋台の中にあるテーブルへと座らせた。
「さて、はじめますか♪」
そして腕まくりをし、まずはおひつのご飯を二人分皿へと移す。
「なんだか楽しみね♪ね、姉さん?」
「うん♪この間のカレーも美味しかったし、今回も期待しちゃう♪」
「もうそろそろいいかな…」
そして次に手のひらをかざして温度を確認してから、鉄板に油を引いた。
「ナーマル様?」
「何かな?ミン」
「肝心のカレーはどこにあるんですか?」
「あぁ、それならすぐにわかるよっと!」
ナーマルはそう言って、鉄板の上に先ほど皿に移したご飯を広げる。
「えっ!ご飯は炒めるんですかっ!?」
ミンはてっきり、何か具になるものを焼くものだと思っていたのだ。
「たぶんカレーじゃなくて焼き飯にしたってことじゃない?姉さん」
「ナーマル様、そうなんですか?」
「フフッ♪いいから、二人ともゆっくり座って見てて♪」
「「は〜い」」
前のめりになっていたミンとリンは、そう言われてイスに座り直した。
「ナーマル様」
「あ、アメリアさん、そっちの準備は完了ですか?」
「はい。切り分けと下味は終わりました」
アメリアは、先ほどの大きな肉の塊をスライスして大きな金属製のバットに入れていた。
「あ、改めて見ると、めちゃくちゃな量だね…」
「えぇ。これだけでなく、裏にもまだありますよ。
何せ、この人出ですから」
「うん。僕もご飯を余分に炊くつもりだから、その方がいいかも」
「では、私はここで…」
アメリアはナーマルの隣に立ち、切り分けた牛肉、つまりステーキを焼き始める。
「ね、姉さん…アメリア様のお肉からすっごく美味しそうな匂いが…」
「そ、そうね。やっぱりアメリア様が焼いているからかしら…っていうか、やっぱり肉は焼くのね…」
鉄板の前にいる二人は、そう言ってゴクリと唾を飲み込む。
「アメリアさん…もしかして、試作の時とお肉変えましたか?」
ナーマルはアメリアが焼いている肉の香りが、昨日と違うことに気がついたのだ。
「えぇ、ナーマル様が使うお米に合わせて、使う部位をランプからサーロインに変更しました…」
「ええっと…それってどう違うの?」
「ランプは牛のお尻のお肉でほとんど赤身ですが、サーロインは牛の背中のお肉で、適度に脂がのっています」
「あ、なるほど…脂があって柔らかいお肉にしたってことかな?」
「はい」
「なるほど…確かにそっちの方が僕の選んだお米にはいいだろうね♪」
「…ぶっつけ本番になってしまって申し訳ありません」
「大丈夫。僕もそっちの方が美味しいと思うし」
「はい。私もそう確信しております」
「うん。じゃあアメリアさんは、そのままお客様用のお肉も焼き始めちゃって下さい」
「それが良さそうですね…」
アメリアは、入り口から会場に入ってくる人たちを見ながらそう言う。
「ナーマル様の方はどうするつもりですか?」
「僕の方って、このご飯のこと?」
「はい。今のうちから、もっとたくさん炒めてはどうでしょうか?」
「ん〜と、僕の方は何人前かまとめて炒められるから、後でもぜんぜん心配はいらないと思うよ。
何せこの鉄板だしね♪」
ナーマルはそう言いながら、日本でよく見るジャポニカ米より少し長めの米を木製のヘラで混ぜ返した。
「うん。予想通り、いい感じにパラパラになってきた…」
「予想通りって…ナーマル様、このご飯に何かしたんですか?」
そう聞いたのはミンだ。
「そうだね。元々水分の少ないロシュタニア産のお米を使って、それを炊いた後に少しだけ時間をおいたんだよ」
ナーマルはアメリアと話し合い、地球ではインディカ米と呼ばれる、ジャポニカ米より硬めの食感の米を使うことにしたのだ。
「そうすると、どうなるんです?」
「お米が乾燥するから、炒める時間を短くできるんだよ」
「つまり、たくさん来るお客様のためにそうしたんですね♪」
ドヤ顔でそう言ったのは、リンである。
「うん。それもあるけど、それだけじゃないよ」
「ほぇ?あとは何のためなんですか?」
「今日はフライパンじゃなくて、鉄板で炒めてるでしょ?」
「はい…」
「リンはフライパンでご飯を炒める時と、鉄板でご飯を炒める時とは何が違うと思う?」
「ん〜と…バッてひっくり振って返せないってことですよね?」
リンはご飯を炒めるナーマルの手元を見ながらそう答えた。
「うん。だいたい正解だけど、じゃあなぜ鍋を返すのかな?」
「それは、調味料や具なんかがよく混ざるように…」
「あ、私、わかった!」
とそこで、ミンが手を挙げた。
「直接火に触れさせるためです♪」
「うん、そう。ミンの言う通りだね」
「やった♪」
「鉄板だとフライパンを返した時のように直接火に触れさせることはできない。
だから、鉄板でもパラパラになるように、ちょっと工夫をしたんだよ」
「すごいわ!ね、リン?」
「うん!ナーマル様、すごい!」
「フフッ♪ありがとう♪」
「それでナーマル様、味付けはどうするんですか?」
「そうそう。さっきも聞きましたけど、この間のカレーのソースはどこです?」
「フフッ♪」
ナーマルは二人に向かって微笑みながら、調理台の上にある木製のボウルを手にした。
「二人共、僕はさっき、前のカレーとは変えたって言わなかったっけ?」
そしてボウルの中にあるスパイスを一握り手にして、炒めたご飯にふりかけた。
「あ!これって…」
「うん♪この間の香りと一緒だわ♪」
「フフッ♪やっぱり、これだけ香りが強いとすくわかっちゃうね」
ナーマルがスパイスと炒めたご飯を混ぜ合わせるていくと、みるみるうちにご飯の色が黄色く変わっていく。
「ナーマル様、これって…」
と、ミンは鼻をひくひくさせながらナーマルに聞く。
「うん♪これはこの間二人も食べたカレーの、ソース無し版とでも言うのかな♪」
「「ソース無し版?」」
「そうだよ。直にお米に味付けするためにアメリアさんとスパイスを調整したんだ」
「ナーマル様…」
とそこで、まだジュウジュウと音を立てているサーロインステーキを皿にのせたアメリアが、ナーマルに声をかける。
「とりあえず二枚だけ焼き上がりました」
「よし。こっちもいい感じだから、そろそろ盛り付けようか♪」
ナーマルは日本のハンバーグレストランでよく見るような木製の皿を手に取り、まずはスパイスと混ぜ合わせたご飯を盛り付けた。
「じゃあアメリアさん、お肉を」
「はい」
そしてそれをアメリアに渡し、アメリアがそこに柵状に切り分けたサーロインステーキを乗せて、別の魔石コンロで温めていたソースをかける。
「…ではピナ、次、よろしくお願いします」
「はい!」
そして最後に二人の後ろに控えていたピナが、ステーキとご飯の脇にレタスを敷き、その上になにか白っぽい付け合わせを盛り付けてミンとリン座るテーブルへと置いた。
「二人ともお待たせ♪じゃあ、食べてみてくれるかい?」
「わ〜!すごく美味しそう♪
ね、リン♪」
「うん♪香りも最高だわ♪」
「あ!でもナーマル様…」
「うん?なんだい、リン?」
「このお料理の名前はなんていうんですか?」
「あ!名前か!」
「そうでした…名前…」
リンにそう聞かれるまで、ナーマルとアメリアはこの料理の名前を考えるのをすっかり忘れていたのだ。
「そうだな…カレー…でも、ソースのないカレーだから…」
そこでナーマルは、少しだけ手を止めて考える。
「ロシュタニアンドライカレーっていうのはどうだろう?」
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