閑話 あの夜の出来事

幹ちゃんが国王様にアンナとの結婚を認めてもらってから数日後の夜、私たち三人の婚約者とシャノンはアンナの部屋に集まっていた。


「それでは報告会を始めたいと思いますっ!」


というアンナの号令とともに、私達は彼女の大きなベットの上でお菓子を広げた。

これは報告会であると同時に、パジャマパーティーでもあるのだ。


「あっ♪これ美味しいですっ♪

え〜今日はそれぞれのプロポーズの話を詳しく聞かせて下さい。

ではさっそく由紀さんからどうぞーっ!」


クッキーを咥えたまま、司会進行役のアンナがビシッと私を指差した。


「えぇっ!私?私からっ!?」


「はい。分かりやすく、プロポーズされた順番でいきます」


「わかったよ。それじゃあ私から話すね。

そうだな…」


きっとこれから話す時のことを、私は一生忘れない。

あの日部屋に戻った私は、なんとなく幹ちゃんが部屋に来るだろうなと思っていた。


「それで汗でベトベトのまま会うのはイヤだったから、急いでお風呂に入ったんだけど…」


結果的にその予感は当たり、その上プロポーズまでされたんだから、この時の私の判断は間違ってなかった。


「毎回思いますけど、やっぱり由紀さんと幹太さんの繋がりって人知を超えてますよね…」


「うん…もしかしたら本当にアンナの言う通りかも。

近ごろ一緒にいた時間の長さってだけじゃ説明できない事が起こるんだよね。

さすがに私もなんかあるのかなって思ってきたよ」


「今さらですか…」


「えっと…まぁとりあえず話を続けるね」


部屋に来た幹ちゃんは、幼馴染の私が初めて見る表情をしていた。


「あのな由紀、俺、由紀と結婚したいんだ」


「そっか〜幹ちゃん、私と結婚したい…って、えぇー!?」


幹ちゃんからの突然のプロポーズに、私の脳は一瞬フリーズしてしまい、すぐに返事を返すことが出来なかった。


「あーもうっ!もちろんいいに決まってたのになぁ〜。

ちょっと悪い事したかも…」


「仕方ありませんよ。

由紀さんも驚かれたんでしょうから〜」


「うん…それはそうなんだけど…」


ソフィアさんはそう言ってくれるけど、たぶん私はいつまでもその事をグスグスと後悔していそうだ。


「でもその後ね♪幹ちゃん、私が隣にいない人生なんて考えられないって言ってくれたんだよ♪」


気がつくと、私はアンナのベッドをバンバン叩きながら話をしていた。

幹ちゃんとは生まれてすぐからの付き合いになるんだけど、キッチリ恋愛的な好意を伝えてもらったのは今回が初めてだった。


『あぁどうしようっ!まだすっごい嬉しい♪』


あのプロポーズから数日が経っているのに、思い出すだけで喜びで体が震える。

私はかなり昔から幹ちゃんの事が大好きだったけど、こんなに体がどうにかなるほど好きだったとは自分でも知らなかった。


「それで?由紀さんはなんと返事をしたのですか?」


隣に座るシャノンが優しく微笑んで私にそう聞いた。

出会ってからまだほんの少ししか経っていないけど、私はこのシャノンという素敵な友人が大好きだ。


「いままでもこれからも大好きだよって、そんな感じの事を言ったかな…」


恥ずかしい、ものすごく恥ずかしい。

でも三人で幹ちゃんのとこにお嫁に行くなら、きっとこういう事も必要なのだと、たぶんここにいる全員が感じている。


「なんかズルい気がしますね…」


そう言って、私の正面に座るアンナが分かりやすく頬を膨らませた。


「そうですね…私達には言えない言葉です〜」


シャノンとは反対側の隣に座るソフィアさんも、少し羨ましそうにそう言った。

実は一見穏やかそうに見えるこのソフィアさんが、私たち婚約者の中で一番情熱的な女性なのだと、私は最近になって気がついた。


「わ、私ね、幹ちゃんとはずっと一緒にいたけど、恋愛的なスタートラインは二人と変わらないと思ってるの!

正直、最初はちょっぴり悔しかったんだけど、でも今は本当に感謝してる…」


「私たち何かしましたかね、ソフィアさん?」


「さぁ私にもわかりません〜?」


「私、二人がいなかったら、たぶんまだ幹ちゃんに告白もしてない。

二人が幹ちゃんの事を好きになってくれたから、私も改めて自分の気持ちを考えることができたの。

だから…ありがとう」


私はこの際、二人にこの気持ちを伝えておこうと決めた。

日本ではあり得ない事だけど、この世界では幹ちゃんを好きな私達三人が、みんなで幸せになる方法があったし、他の二人がアンナとソフィアさんだったからこそ、私はそれを受け入れられたのだと思う。


「まぁ由紀さんはそうでしようね♪」


「由紀さんは幹太さんの事となると、急に臆病になりますから〜♪」


「二人ともひどいっ!

もういいっ!次!次はアンナだったはずよねっ!?」


「はい!次は私です!」


あの日、浮かれて部屋に帰った私は、幹太さんが来る寸前まで全力で風呂で歌を歌っていました。

改めて考えると、聞かれてなくて良かったと思います。


「アナ…歌ヘタですよね…」


「あっ!シャノン、私もそう思う!」


「アンナさんの歌は個性的です〜♪」


「私、今まで知りませんでしたっ!

結婚間近なのに!ちょっぴり人生をやり直したい気分ですっ!」


「そんな事より続きを話して、アンナ」


「そんな事って由紀さん…。

ま、まぁそれでですね、部屋に来た幹太さんが珍しく歯切れが悪くて…

途中からたぶんプロポーズしてくれるんだって、気づいてはいたんですけど…」


あの時の幹太さんはずっとモジモジして、なかなかプロポーズしてくれなかったのです。


「その…結婚の事なんだが…」


「はい…」


「結婚なんだが…」


「…はい…」


「結婚…」


「だから何回結婚っちゅーねんっ!?」


今思えば、どうして堪えられなかったのでしょう。


「アナ…もしかして?」


「えぇ、ちょっぴりキレちゃいました…」


そう、あの時私は乙女として痛恨のミスをしてしまいました。

我慢できずにプロポーズを促すなど、淑女のすることではありません。


「私はアンナさんらしくていいと思いますよ〜♪

それで、幹太さんはなんと言ってくれたんです〜?」


「ソフィアさん?私らしいとは…?

え、えっとですね、俺と結婚してくれって言っていただきました。

あとは私と暮らすのが幸せで、この世界で一緒に姫屋をやっていきたいとも言ってもらいましたね♪」


「キャー♪幹ちゃん!頑張ったねー!」


「素敵ですっ♪姫屋を一緒にやっていきたいなんて、私も幹太さんに言ってもらいたいです〜♪」


ソフィアさんの言う通り、実のところあの言葉が一番深く私の心に響きました。

たぶん彼の大切なものを一緒に守るパートナーとして、私を選んでくれた事がとても嬉しかったのです。


「それでアナはなんと返事を?」


「よろしくお願いしますって言いました♪」


「なんだぁ〜それだけなの?」


「えっと…実は」


「アンナさん、もしかして何かしちゃいましたか〜?」


私が酔っ払いのようにキスをせがんで逃げられたなどと、できればこの三人にはバレたくありません。

でもあの時はちょっとおどけてみせでもしないと、私は本気で幹太さんに襲ってしまいそうだったのです。


「い、いえ、そこまで大胆にはなれませんでした。

そういうわけで私の話はそこまでです。

えっと、次はソフィアさんですね」


「はい〜♪私は…」


あの日の私は、アンナさん達とのお祝いのお食事を終えた後、ずっと気になっていた客室のバーカウンターで大好きなお酒を飲むことにした。


「今日は思い切っていきますよ〜♪」


そのバーカウンターに並ぶ見た事もない豪華な装飾の瓶に入ったお酒は、たとえシャノンさんからいつ飲んでも構いませんと言われても、貧乏性の私にはそれまでなかなか手をつける事ができなかった。


「あそこのお酒は誰も飲まないですから、ジャンジャン飲んじゃって下さい。ね、シャノン?」


「えぇ。この王宮にはまだまだお酒は余ってますから、いくら飲んでいただいても大丈夫です」


「えっ、そうなんですか?

でしたら、これからはもうちょっとだけいただきます〜♪」


とりあえず私は村で作っている蒸留酒と似た色のお酒を一本手に取り、これまた高級そうなグラスに注いでグビッと一気に飲んでみた。


「あぁ♪信じられないほどおいしいです〜♪」


私はそう言って、気づけば二杯目をグラスに注いでいた。


「お母さん達にも飲ませてあげたいな〜」


私の一家、特に母親のティナは村でも有名な酒豪だった。

私はたぶんそれほど強くはないけれど、家族と一緒にお酒を飲むのは好きだ。


「あら、もうカラになってしまいました〜♪」


記憶は定かでないけれど、たぶん私はこの時点で思いきり酔っ払っていた。


「ソ、ソフィアさん…一人でお酒を一本空けたの…?」


「はい〜♪」


「シャノン、空いていたお酒って?」


「…アルコール分四十度の蒸留酒です」


「「……」」


そしてその後、調子が出てきた私が棚に並ぶお酒の中から二本目を選び、再びグビグビと飲み始めた時に、大好きな幹太さんが部屋に現れたのだ。


『あ〜幹太さんだぁ〜♪どうしてくれちゃおうかしら〜♪』


酔っていたからだと信じたいが、私はこの時、幹太さんを色々な意味でめちゃくちゃにしたいと思っていた。


「気になるわ〜めちゃくちゃの内容、むっちゃ気になるわ〜」


「口調が変わっていますよ、アナ」


でもそんな酔っ払いの私に向かって、幹太さんは真剣な表情で話を始めたのだ。


『ふふっ♪幹太さん、やっぱり可愛い♪』


真剣に話す幹太さんを見てたまらなくなった私は、お話を聞きながらできるだけくっつくことにした。


「ソフィアさん…一応聞いておきますが、ちゃんとお洋服を着ていましたか?」


「いやですよ〜アンナさん♪

いくら私だって裸でお酒は飲みません。

お洋服はギリギリ着てました〜♪」


「「「ギリギリってどゆことっ!?」」」


いま思うと、私は帰りに必ずあの部屋を通る幹太さんを意識して素肌にドレスなんて格好をしていたのだと思う。

そんな危うい格好で、気がついたら私は幹太さんの膝の上に乗っていた。


『あ…すごい近いです〜♪』


と、思った瞬間、


「ソフィアさんっ!おれと結婚してくださいっ!」


目の前の幹太さんがそう言ってくれました。


『えっ!?』


あまりの出来事にボンヤリしていた意識が一気にシラフに戻り、さっきまでとは比較にならない猛烈な気持ちが私の中で爆発しました。


『ダメっ!どうにかなっちゃう!』


愛おしい気持ちが抑えきれなくなった私は、今だに目を瞑ったままの幹太さんの唇を、酔ったフリをして全力で奪いました。


「その後は恥ずかしくてずっと寝たフリをしてました〜♪…って、あら?皆さんどうされたんですか〜?」


そうしてすべてを話し終えると、なぜか皆さんが固まっていました。


「ソフィアさん!肉食っ!肉食すぎるよっ!!」


「そ、そうです!由紀さんの言う通りです!

わ、私の幹太さんが、ライオンの檻に入れられたウサギさんのようでしたっ!」


「あのぅ…でもこれからはそういう事も〜」


結婚する人が相手ならそういう欲求をアピールしても良いと、私は母から教わっている。


「確かに…もしかして私達の方が間違ってますか…?」


「違うよアンナ!ソフィアさんに騙されちゃダメっ!」


「も、もうこうなったら、なぜか非モテのお姉様に代わって私がバーンサイド家の跡取りを…」


「いけません、アナ!

今そんな事をしたら、ビクトリア姉様がショック死してしまいますっ!」


「ん〜そうですね♪

最初はみんな一緒でも良いかもしれません〜♪」


「みんなでって…?ソフィアさん?」


「はい〜♪」


「ま、まぁそれは後々考えましょう。

それではこれで報告会は終わりでいいですか?

他にまだ話したい事はありませんかね?」


「ではアナ、最後に私が…」


「えっ?シャノンも何か報告があるのですか?

まさか…あなたも幹太さんを?」


「ち、違いますっ!

私は婚約記念パーティーの夜の話をしようと思ったんですっ!」


「あ〜あの夜ですか…。私もイマイチ後半の記憶がないんですよね」


「あっ!それ私もだよ、アンナ」


「わ、私は〜」


「では婚約者の皆さんに、私が見たあの夜の話をしましょう…」


全てはジュリアお母様の一言から始まった気がします。


「ねぇトラヴィス、そんなに怖い顔をしていたら幹太さんが萎縮してましまうわ♪

お酒でも飲んでちょっとリラックスしたらどう?」


「あ、あぁ…幹太君もすまんな…」


「い、いえ、こちらこそ申し訳ありません」


「良かったら幹太君も少しどうぞ♪」


そう言って、ジュリアお母様は向かい合って座る二人のグラスにかなり強いお酒を注ぎました。


「…ジュリアお母様…」


「しー、シャノン!内緒よ♪」


それからジュリアお母様は、何だかんだと言って全員のグラスにお酒を注いで周り、最後にはローラお母様にもお酒を飲ませました。


「幹太君…小さい頃のアンナはそれはそれは可愛いくて…」


「えぇ。今でもアンナは凄く可愛いですもんね…」


「ソフィアさん、チラッと見えるブラって…」


「あ♪わかります?この前皆さんと買ったブラです〜♪」


「私、アンナちゃんが結婚なんて嬉しいわ♪」


「あ、ありがとうございます、ローラお母様…でも、できたらそんなにバンバン背中を叩かないで下さい…」


それからいくらもしないうちに、その場にいるほぼ全員が程よく酔い始めました。


「ジュリアお母様…やりましたね」


「そうよ♪せっかくの身内だけのパーティーなんだから少しはハメを外さないと♪

ごめんなさいね、シャノン。

あなたには損させちゃうかしら?」


「大丈夫ですよ、お母様。

むしろ私は難を逃れてホッとしています…」


私は心からそう思いました。


「そう。でもシャノンも少しは楽しむのよ♪

それじゃ私は愛する旦那様のもとへ行ってくるわ〜♪」


そう言い残して、ジュリアお母様はお父様のところへスキップで向かいました。


「さてと、幹太さんは…えぇっ!?」


振り返った私は驚きました。

幹太さんがローラお母様が、もの凄く近い距離で話をしていたからです。


「あっ!私、まだその辺のことは覚えてるよ!

幹ちゃん、ローラ様の手を握ってた!」


「…ですね。私も覚えています。

あら?これって幹太さんがいっちゃったらどうなるの?って思ったんです!」


「確か…手荒れに効く良いお薬があるって話してましたよ〜」


そんなソフィアさんの一言で、幹太さんに対する疑惑は晴れました。

ただ手を握られた母が、頬をほんのり赤く染めていたのが気になります。


「その後は…あぁ、由紀さんでしたね」


それから幹太さんは、まず由紀さんの隣に座りました。


「由紀さん、その辺のことは覚えてますか?」


「う、うん。酔っ払った幹ちゃん、凄かったよ…」


あれは見ている私もハラハラしました。


「ゆーちゃん♪」


「な、なに?幹ちゃん…」


「大好きだよ〜♪」


そんな事を至近距離で言われた由紀さんはたまらなかったのでしょう。

彼女は両手をワキワキさせて幹太さんを抱きしめかけましたが、ギリギリで堪えていました。


「由紀さん、そんな事が…?」


「羨ましいです〜」


「ふふ〜ん♪いいでしょ♪

でもね、今と意味は違うけど、ちっちゃい頃はああやってよく言ってくれたんだよ♪

なんだか懐かしくて嬉しかったなぁ〜♪」


「いいではないですか、アナだってちゃんと…」


「シャ、シャノン!それは内緒にっ!」


そうです。次はアナの番でした。


「アンナ、アンナは俺と最初に会った時のこと覚えてる?」


「はい。もうずっと忘れません♪」


「俺、あの時とんでもなく綺麗な子だって思ったんだけど、まさかその子と結婚できるなんて最高に幸せだよ♪」


「か、幹太さんっ!?」


「しかもアンナは見た目だけじゃなくて、すべてが素敵な女の子だった。

これから君と一緒にいるためだったら、俺はなんだって頑張れる気がするよ。

だから出会ってくれてありがとうな、アンナ♪」


「は、はい…こちらこそありがとうございます…♪」


アナは幹太さんに握られた手を見つめて恍惚としていました。

私は妹のあんな顔を初めて見た気がします。


「あぁ…内緒だって言ったのに。

でも、ってことはシャノン?」


「えぇ、次はソフィアさんです」


「シャ、シャノン様っ!どうかっ!どうかそれだけは〜」


「ダメですよ、ソフィアさん。

さぁシャノン!話してしまいなさいっ!」


「では続きを話しましょう…」


ソフィアさんはお酒が強いらしく、いつもの表情のままかなりの量のお酒を飲んでいました。

そんなソフィアさんの隣に、アナを骨抜きにした幹太さんがやって来たのです。


「ソフィアさん…」


「なぁに〜?幹太ぁ〜?」


私は驚きました。

一見普段通り見えたソフィアさんは酩酊していたのです。

たぶん慣れない食事会で緊張していたのでしょう。


「俺、最初にソフィアさんを助けた時はこんな運命になると思ってなかったんだ。

でも、こんなに優しいお姉さんがお嫁さんになってくれるなら、これからも何度だって命をかけるよ」


「幹太さんはぁ〜優しいお姉さんなら誰でもいいの〜♪」


「「ウッザッ!!」」


そうです。酩酊したソフィアさんは、正直ちょっとウザめでした。


「あぁシャノンさん…ヒドイです〜」


二人からの辛辣な言葉に、ソフィアさんはベットの上で泣き崩れます。


「そうだな♪優しいソフィアさんのためなら何度だってだ♪」


「あんっ♪嬉しいです♪

私だって、幹太さんのためなら何でもしますよ〜♪」


「家族になってくれるだけで、もう十分してもらってるよ♪」


「だったらもう少し家族を増やしましょ〜♪えいっ♪」


そう言って、ソフィアさんは幹太さん首すじに当て身を食らわせ昏倒させたのです。

たぶんあれは、私でも対処できないレベルの不意打ちでした。

ソフィアさんはそのままさらに二杯ほどお酒を煽り、幹太さんを引きずって部屋の外へ出ていきました。


「そのあと何があったのかは、極めてプライベートな案件なので私は確認していません」


「な、なにもなかったです〜」


「あぁでも…ソフィアさん、朝になってから私と会いましたよね?」


私の警備のルートには、幹太さん達の客間も入っています。

客間の手前にある広間に入ったところで、私は幹太さんの部屋から自室に戻るソフィアさんの後ろ姿を見かけていました。


「は、はい〜」


「あの時は確か…裸にシーツを巻き付けただけだったような…?」


「ソフィアさん…まさか?」


「ず、ずるいよ!ソフィアさん!」


「わ、私、その辺りの記憶があやふやで…気がついたら裸で幹太さんの隣に寝てて〜」


さすがのソフィアさんも、まだ実際に幹太さんと最後まで行き着く勇気はないようです。


「私、酔って寝ると裸になるクセがあって、た、たぶん本当に何かしちゃったわけではないんですっ!

アンナさん!由紀さん!そんな顔をしないでっ!

お願いだから信じて下さい〜」


ソフィアさんは珍しく取り乱し、疑いの目を向ける二人に縋りつきました。


「ですね。幹太さんは服を着たまま部屋から出てきましたから」


「で、ですよね〜」


「わかりました。今は信じましょう」


「いいの、アンナ?幹ちゃんに確認した方がよくない?」


「いいえ、由紀さん。世の中には明らかにしない方がいい真実もあるのです」


「もう!お二人ともっ!」


「なんて冗談だよ♪ね、アンナ?」


「はい♪

でも私達も負けていられませんよ、由紀さん♪」


「うん♪」


「お二人ともその意気です。

皆さんで結婚するのですから、こんな事はこれから先いくらでも起こります。

お三方の誰が幹太さんといて何をしていても、いちいち動揺してはいけませんよ」


私はこれからもずっと、この愛する妹と素敵な友人達を見守っていきたい。

楽しげにその夜のことを話す三人を眺めながら、私はそんな風に思っていた。



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