第7話 流されて異世界

「幹太、幹太!おい!起きろ!」


短髪に鋭い目付き、背の低いゴツめの身体に服装は黒いTシャツとジーンズという、いかにもガラが悪めなオッサンが、横になった幹太の頬をバシバシ叩いている。


「おい!起きろって!なんだってこんな所に来ちまってんだ」


「う、うぅ…、あ…えぇっ!?」


しばらく叩かれっぱなしだった幹太はやっと目を覚まし、目の前のオッサンの存在にめちゃくちゃ驚いた。


「オヤジ!なんで生きてんだ!?

あ、あれ?俺どうなってんだよ…?」


「そりゃオレのセリフだっつーの…」


そんな幹太を見て、息子の頬を思っきりビンタをかましていた幹太の父、正蔵が呆れた顔をして言った。


「お前よぉ〜、なんでこんなとこにいんだ?

あっちでまだまだやんなきゃなんねぇことがあんだろ?

そうだ!由紀はどした?

あんないい子、なかなか居ねぇんだから、しっかりお前が守ってやんだぞ。

あん?」


「お、おう!分かったよ!」


幹太はなぜ親父が生きているのかという疑問よりも、いかにしてこのオッサンに怒られないかを必死で考えていた。

幹太の心に、幼い頃より刷り込まれた一種のトラウマである。


『お、オヤジに会うのが久しぶりすぎて、どうしていいかわかんねぇ!』


正蔵と幹太は、幹太がまだ小さい頃に母を亡くしてから、父ひとり、子ひとりで生活していた。

幹太に対して、正蔵は決して理不尽な理由で怒ることはなかったが、怒る時には容赦が無かった。

今では問題になるかもしれないが、幹太が本当に悪いことをした時は、手を上げることさえあったのだ。


『や、やっぱりメチャメチャおっかねぇっ!』


正蔵は若かりし頃、相当のワルだった。

もともと正蔵がラーメン屋を生業にした理由も、人の下について働くことがでなかった彼が、独学でできる商売だと知ったからである。


「ご、ごめん、オヤジ!

すぐ帰るから勘弁してくれ。

そうだっ!あと他にも守ってあげなきゃいけない子がいるんだ。

機会があったら、オヤジにも紹介するよ」


「おお、わかった。

そんじゃ早いとこしっかり起きろ。

由紀とその子は、ちゃんと家まで送り届けろよ。

オレが前に言ったこと覚えてるよな?

もし、おめぇが面倒で家まで送らなかった時に…?」


正蔵は幹太に、そのあとに続く言葉を促した。


「その女の子に何かあったら、後悔してももう遅い!だろ?」


「あぁ、分かってりゃいいんだよ。そんじゃ、またな」


「待ってくれ、オヤジ!

ここはどこなんだ!?おとっ、おとぅーさーん!」


幹太は手を伸ばし、正蔵を引き止めようとしたところで目が覚めた。


「あれ?オヤジ…?」


最初にまず、自分の周りに潮の香りが漂っていることに気づいた。


「えっ?」


そして次に辺りを見回すと、幹太の目の前に海がある。


「あれ?家の庭だったのに…?」


そう言って地面を触ってみると、やはり砂の感触がした。

彼は広大な砂浜に倒れていたのだ。


「ん…?あれは…」


そして少し離れた所には、見慣れた幹太の屋台があった。


「えっと…?あぁっ!!」


と、幹太はそこで重要なこと思い出して、一気に血の気が引いた。


「由紀!アンナ!シャノンさーん!どこだー!?返事をしてくれ!?」


彼はそう叫んで辺りを見回すが、彼女達の姿は見えない。

しかし、そこで自分の下半身、主に股の間が重いことに気づいた。


「ヤバい…もしかして怪我したかな?」


そう思って足を動かしてみても、なんだかとても動かしずらい。


「…もし大ケガだったらどうするかな…」


幹太は恐る恐る視線を下に移した。


「あんっ♪やだぁ〜幹太さん♪

それじゃ掴まるっていうか、モミモミしちゃってる♪

ううん♪まぁイヤって訳じゃないんですけど♪」


そこにはバッチリ寝ぼけたアンナが、幹太の股間をまくらに、意味不明な寝言を言いながら、幸せそうな顔で寝ていた。

わかりやすく言うと、伝説のキン○マクラである。


「あぁ!アンナ!良かった〜!

まったくもう、コイツはそんな緩んだ顔で寝て!

おーきーろー!」


幹太は、砂だらけのアンナのおでこをピシピシと叩いた。


「か、幹太さん♪やだ♪激し…って、んー?」


アンナはやっと目を覚まし、ゆっくり起き上がる。


「はれ〜?幹太さん?」


幹太はそんなアンナの肩に手をかけて、ぐるりと捻った。


「アンナ!大丈夫かっ!?」


「え〜?あ〜、大丈夫ですけど…」


アンナの目はまだ半開きである。


「あぁ、良かった。

でもアンナ、由紀とシャノンさんがいないんだ」


その幹太の言葉に、アンナは一気に目が覚めた。


「由紀さんとシャノンが!?」


アンナはすぐに辺りを見回すが、由紀とシャノンはどこにも見当たらない。


「えっと…確か由紀さんはシャノンに掴まっていましたよね?

という事は、二人は一緒にどこかに転移して…。

私と幹太さんが座標の外という事は…」


先ほどとは打って変わり、アンナは真剣な表情で思考を巡らせる。


「…どうやら私達は、転移の時に魔力を制御できなかったことで、別々の場所に飛ばされたようです」


「それで?危険な所に飛ばされたりしないのか?」


と、幹太は食い気味に質問をする。


『幹太さん…』


アンナはこんなに余裕のない彼を見るのが初めてだった。


「大丈夫です、幹太さん。

座標がズレたのは私達の方ですから。

シャノンと由紀さんは、ちゃんと王宮の方に転移できてると思います。

術者が二人とも座標からズレることはまずありません」


アンナは幹太を落ち着かせるようにゆっくりと説明した。


「そっか…。会うまでちょっと心配だけど、アンナがそう言うなら大丈夫なのかな」


幹太は少し余裕を取り戻し、再び辺りを見回した。


「しかしここはどこなんだ?

海なのは分かるけど、完全に日本じゃないっぽいな?」


幹太の目の前にある海は、海外のリゾートを思わせる鮮やかなエメラルドグリーンである。


「そうですね。私達の世界に来たのは間違いないのですが…」


と言って、アンナも立ち上がって辺りを見た。


「さすがに見ただけじゃ、私も分かりませんね」


あたりは何の変哲もない海岸だ。

自分達の周りには、海と砂浜と幹太の屋台、あとは遠くに見える岩山ぐらいだ。


「幹太さん、少し周りを歩いてみましょう。

何かこの場所に関する手がかりがあるかも…。

そうでなくとも、私たちの世界であれば、どこかに人が住んでいるはずです」


「そうだな、そうしよう。

でも、一度屋台を見てきていいか?とりあえず壊れているかどうか、確認しておきたいんだ」


「えぇ、もちろん。私も一緒に行きます」


幹太とアンナは、注意深く屋台が壊れていないかを確認した。


「良かった♪どこも壊れてないみたいだ」


「えぇ、大丈夫そうですね♪」


ひとまず屋台が無事だったことに、二人はホッとした。


「とりあえず下が砂浜じゃ俺たちだけで運ぶのは無理だ。

一度辺りを見回って、手伝ってくれる人を探してみよう」


幹太はそう言って、アンナと二人で砂浜を歩き始めた。


「おっ!こりゃ確実に人はいるな」


「そうみたいですね」


内陸に向かって歩いて行くと、砂浜の終わるあたりで、人が整備したと思われる道があった。

日本のようなアスファルトではないが、しっかり土が押し固められている。


「幹太さん、やっぱりここは私たちの世界で間違いないと思います」


そう言って、アンナは道沿いにある看板を指差した。


「そうだな。確かに地球じゃない感じがする」


看板の言葉は、幹太には読めないだけでなく、見た事もない文字であった。


「そんじゃとりあえず先まで行こうか?」


「はい」


二人はそのまま砂浜沿いの道を進んで行き、倒れていた砂浜の端にある、尖った岬の先端までやって来た。



「アンナ!あれ!」


「幹太さんっ!」


幹太とアンナは同時に声を上げた。

岬で隠れていた裏側に、港町であろう街並みと、何艘かの船が見えたのだ。


「よし!とりあえずあそこまで行ってみよう!」


「はい!」


ここまで少し緊張気味の二人だったが、港町を見つけたことで元気を取り戻し、早足でそちらに向かって歩いて行く。


「おぉっ!こりゃすごいな!」


しばらく歩いて街に着き、幹太はその景色を見て驚いた。

そこはヨーロッパの田舎のような街並みであり、小さな家やお店が並んでいる。

石畳みの通りには人々が行き交い、漁師あろう人間が魚を乗せた荷車を引いていた。


「なんだか普通に活気のある街じゃないか?

俺には行き詰まっている世界には見えないけど…」


「確かに、一見するとそう見えるんですが…。

まぁとりあえずそれは置いといて、ここがなんていう町か調べてみましょう」


アンナは少し困ったような顔でそう言って、幹太の前を歩いていく。


「つっても俺はこの国の言葉なんてわからないんだが…。

そもそもアンナはどうやって日本語が喋れるようになったんだ?」


「転移魔法には、転移する先の言葉が理解できるようになる術式が組み込まれています。

行った先の世界にもある物事は、その世界の言葉に訳されて相手に伝わります。

またそうでない言葉は、そのまま伝わるようになっているのです」


「へぇ〜そりゃ便利だな。

前々からどうしてアンナが日本語を上手に話せるのか、ちょっと不思議だったんだよな。

待てよ…という事は、俺もこの国の言葉を理解できるようになってるのかな?」


「はい。大丈夫だと思います。

先ほどから私は、こちらの世界の言葉で幹太さんに話しかけていますから」


「そうなのか?俺には日本語にしか聞こえないぞ?」


「そういう魔法なのです。

幹太さんは日本語を話しているつもりでも、周りの人にはキチンとこちらの言葉に聞こえている筈ですよ」


「そりゃますます便利だなぁ〜」


そんな話をしながら、幹太とアンナは街の中心であろう大通りまでやってきた。

野菜や魚といった食材を置いたお店を中心に、生活雑貨店や本屋などいろいろなお店が並んでいる。

幹太は屋台もあるかと思っていたが、なぜかまったく見当たらなかった。

というよりも、飲食店の数自体が少ない印象である。


「自炊する家が多いのかな…?」


「すみません。ちょっと宜しいですか…」


幹太が興味深くお店を観察しているうちに、アンナは店先に魚貝類が並ぶ魚屋のオバさんに、ここはどこかと聞いていた。


「ここはクレイグ公国、サースフェー島だよ!

あんた達、自分のいる場所がわからないってどうやってこの島にきたんだい?」


と、オバさんはかなり威勢良くアンナの質問に答えた。


「ク、クレイグ公国、サースフェー島…。

ずいぶん遠くに飛ばされてしまったようですね…」


「やっぱりアンタ達、よその国の人なんだね。

なんだか見た事ない服を着てると思ったよ」


そう言って、オバさんは幹太の方を見た。

今日の幹太は下は黒のジーンズに、上はブルーのジャージを着ている。

確かに幹太が先ほど覗いた洋服店でも、幹太が着ているような服は見当たらなかった。


「あっ、す、すいません。

実は私たちの乗った船が遭難してしまって、二人でこの先の海岸に流されてきたのです。

私はシェルブルック王国から、彼はもっと遠い国からやってきました」


「ふ〜ん…まぁこの辺りの海は難所が多いからね。

しっかし、シェルブルックねぇ〜?

お隣りだけど、ここからじゃ遠いよ。なんたってここは離れ小島だからね」


とそこで、オバちゃんは幹太の指に光る指輪に気がついた。


「あらまぁ♪二人は新婚旅行だったのかい?

そりゃ船が遭難するなんて災難だったねぇ。

でも、偶然とはいえこの島に来たんだ。

できれば楽しんでいっておくれ♪」


オバさんは見るからに若い二人と、幹太の指輪を見て夫婦だと勘違いしていた。


「い、いえ、そういう訳では!

で、では色々教えていただいてありがとうございました!」


アンナはお店の魚に見入って、全く話しを聞いていなかった幹太の手を引き、急いでその場を離れた。


『あ、危なかったです、幹太さんに聞かれていたら…。

でも私達、一緒にいると新婚さんに見えるのですね♪』


その後二人は港に行き、漁の終わった漁師達に屋台を砂浜から出すのを手伝ってくれないかとお願いした。


「おう!いいぞっ!

みんなー!ちょっと集まってくれ!」


というように、漁師達も若い夫婦が困っているを不憫に思ったのか、すぐに人を集めてくれた。


「「ありがとうございます」」


二人はそう漁師たちに礼を言って、全員を屋台まで案内した。


「よーし!そんじゃいくぞー!」


「「「おう!!」」」


屋台に到着した漁師達は、なぜか円を描くように屋台の周りに立ち、そしてまっすぐ前に手を伸ばす。


「あれ?あの人達、何してんだ?」


「あぁっ!そうでした!魔法っ!」


そう幹太に聞かれたアンナが、急に大きな声を上げた。


「「「「せーの!」」」」


漁師たちの掛け声と共に、屋台はギシギシと音をたてて、砂浜から十センチほど浮いた。

そして漁師達は、そのまま屋台を土の歩道まで移動させる。


「よーし!降ろせー!」


という、一人の漁師の合図と共に、屋台はゆっくりと地面に降りた。


「私、こちらで魔法が使えることをすっかり忘れてました。

早く気付いていたら、屋台ぐらい私一人で運べたのに。

すっかり幹太さん達の世界に染まっていたのですね。」


と、アンナは申し訳なさそうに、漁師達に聞こえぬよう、幹太の耳元で囁いた。


「アンナがそこまで俺たちの世界に馴染んでくれてたなんて嬉しいよ。

でも、漁師さんにはちゃんとお礼を言わないとだな」


「はい♪」


その後、街に戻るまでなんだかんだ付き合ってくれた漁師達に、幹太とアンナは再びお礼を言って別れた。


「さて、次はどうするか…?

とりあえずさっき漁師さんに聞いた宿に行ってみるか?」


「そうしましょう。

さすがに私も転移魔法を使った影響でヘトヘトです。えっと…」


アンナは転移の時から着ていた、デニムのミニスカートのポケットを探る。

今日アンナが身に付けている洋服は、由紀のお下がりであった。


「ありました、ありました!

シェルブルックの金貨がいくらが残ってます。

島とはいえ、クレイグ公国なら通貨は共通で使えるはずです」


「そりゃ良かった。

さすがにお金だけは、助けてもらえないもんなぁ」


幹太とアンナは先ほどの漁師が勧めてくれた宿にやってきた。

外から見た目は落ち着いた木造の建物で、裏手には庭のようなスペースがあり屋台も置けそうであった。


「よし。頼んでみよう」


「はい」


幹太達は宿の女将さんに許可をとり屋台を置いた後、チェックインをして二階にある客室に上がった。


「ステキなお部屋で良かったです♪」


「そうだな。二人なら十分じゃないか?」


ベッドが一つとテーブルだけのシンプルな部屋だが、清潔感があり、そして小さいが洗面所が付いていた。


「アンナ、とりあえずメシにしよう」


「はい。私もお腹がペコペコです」


アンナと幹太は向かいあってテーブルに座り、街で買った果物を食べながら今後の事を話し合うことにした。


「とりあえず明日は、クレイグ公国の本土に渡る船を調べようと思っているのですが…」


「まぁ、島から出ないとどうしようもないからなぁ。

アンナの魔法で飛んで行けたりしないのか?」


「無理です。いくら魔法と言っても、浮くのが精一杯というところです。」


アンナの話を聞く限り、基本的にこちらの世界の魔法というのは、生活の助けになる程度のものがメインであった。


「じゃあまずは、船を調べるってことで決定だな。

あとは…何かあるかな?」


「王宮に手紙を出そうと思っているのですが…しかし、こちらのは世界の郵便は、王室の封印でもないかぎり日本ほど確実に届くものではないのです」


「一応、出しておこう。

先に届けば、由紀達に無事を知らせられる。

あとは…そうだ!屋台の保冷庫に氷を補充したいんだけど、この世界にあるかな?

できればついでに、食材を見たりもしたいんだけど…?」


「幹太さん、屋台をやるんですか?」


「できるかまだ分からないけど、まずは調査してみようと思って」


この島でも商売が出来るのかということが、彼にとっては大切なことなのであろう。


「水を冷やすだけですから、氷は魔法で作れますよ。

ふふっ♪異世界に来ても、まずはラーメンの食材探しなんですね、幹太さん♪」


「そうだなぁ〜、いままで毎日やってきたことだから…たぶんもう体に染み付いてるんだよ。

えっと、とりあえず明日はそんな感じでいいよな。

んじゃ、今日は早めに寝ときますかね〜」


「そうですね。そうしましょう」


それから二人は交代で洗面所を使い、すぐにベットに入ろうとしたところで問題が起きた。


「…幹太さん、ベッドが一つしかありません…」


「そ、そうだな…」


もちろん二人は部屋に入った時から気付いていた。

疲れのあまり、色々と考えるのを後回しにしていたのだ。


「しかも…あまり広くないです。

ていうより二人だと狭い感じです」


「そ、そやね…。まぁ俺は床で寝るよ」


「それはいけません。幹太さんもお疲れなのですから。

も、もうこれは仕方ないです…仕方ないので一緒に寝ましょう」


「さ、さすがにベッドが一緒はマズいだろ!

しかもアンナはお姫様なんだから!」


「大丈夫です!ここの女将さんには普通の新婚夫婦に見られてます!

私がプリンセスだとは思っていません!」


アンナは大声で言い切った。

決して、決してやましいわけではなく、恥ずかしいのだ。


「そ、そうか…ってなんで夫婦って見られるんだ?」


幹太は指輪の儀式をまだ知らなかった。


「ええっと…たぶん私達がお似合いだから、そう見えちゃうのでしょう」


そう言うアンナの目は、思いきり泳いでいる。


「幹太さん、しっかり休まないと明日また何があるか分かりません。

お願いします。一緒にベッドで寝て下さい」


これもまた彼女の本心であった。

そしてそのアンナの予感は、明日の朝一番に的中する。


「…分かった。で、ではおじゃまします…」


アンナの真剣な様子に、ついに幹太が折れ、二人は一緒のベッドで背中合わせに横になる。


「おやすみなさい、幹太さん」


「おやすみ、アンナ」


と、幹太は言ったが、


『こ、これは寝れないっ!アンナって、なんでこんなにいい匂いがするんだ!

洗面所の石鹸は全然いい匂いなんてしてなかったのにっ!?』


そして一方アンナも、


『や、ヤバいです!幹太さん暖かいっ!

なんだか全てを投げ打って、抱きつきたくなってしまいます!

私にこんな野性味溢れる一面があったなんて!?

あぁ、由紀さん!ごめんなさいっ!』


というように、二人は今更ながら、別々に寝れば良かったと思ったのだった。


翌朝、

アンナは港に定期船がいつ来るのかを聞きに行き、幹太はアンナが魔法で作った氷を保冷庫に入れた後、宿の周りの食料品店で食材を見て回ってから、再び屋台に戻ってきていた。


「うーん…屋台の中の物は今日いっぱいまでに使わないとダメになっちゃうな。

とりあえず、お世話になった漁師さん達にでも食べてもらうか…?」


とそこへ、先ほど出たばかりのアンナが急いで戻ってきた。


「幹太さーん!幹太さーん!大変ですー!」


アンナは幹太の名前を呼びながら、手を振って走っている。


「ハァッ!ハッ!ハアッ!か、幹太さん…」


彼女はそのまま幹太の目の前まで走ってきたが、息が切れてしまい、なかなか話す事ができない。


「アンナ、そんなに慌てどうしたんだ?」


幹太は屋台のコップに水を入れて、アンナに手渡した。

受け取ったアンナはそれを一気に飲み干し、ブハッと大きく息を吐き出す。


「幹太さんっ!船が!定期船がありませんっ!」


「マ、マジで〜!?」


アンナの言葉に、幹太は思わずチャラめに返事をした。

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